09 協力





 その日の夜——。


 ファウスティとドメーニカは、アルフレードにあてがわれた屋敷の一室にて休んでいた。


「………………」


 先ほどのことがショックだったのだろう、未だ落ち着かない様子でうつむいているドメーニカに、ファウスティは優しく声をかける。


「まだ気にしているのか、ドメーニカ。俺なら大丈夫だ。元気を出してくれ」


「……ごめんね、ファウス。私、そんなつもりじゃ……」


 堪えていた涙が溢れ出す。


 狼の魔物に襲われた時に発現したファウスティの『守る』能力。もしあれがあの時発現していなかったら、今頃ファウスティとアルフレードは——。


 肩を震わせる少女を見て、ファウスティは困った顔で頬をかいた。


「……ドメーニカ、考えてみてくれ。君の力と俺の力、相性抜群だとは思わないか?」


 その言葉を聞き顔を上げるドメーニカ。ファウスティは続ける。


「君の炎の力。そして俺の『守る』力。組み合わせれば、どんな魔物にだって負けないし、みんなを守ってやれる」


「……ファウス……」


 ドメーニカは目元を手で拭った。ファウスティは少女に微笑みかける。


「俺には神様が『二人で一つ』の力を与えてくれたように思えてな。ドメーニカ、だから気にするな——」


 まじまじとファウスティの顔を見る少女を見据え、彼はウインクをした。


「——俺たちは、二人で一つだ。これからも、よろしくな」


「ファウス!」


 ドメーニカはたまらずにファウスティの胸に飛び込む。いつものようにそれを受け止めたファウスティは、彼女の頭を撫でようとして——思い留まった。


(……君の手は、汚させはしない。血に塗れた、俺の手のようには)


「……さあ、ドメーニカ。アルフレードの所に行こうか。彼に返事をしに行こう」


「……うん、わかった!」









 彼らの能力を見たアルフレードは、二人にお願いをした。『いざという時は街を守るために、力を貸して欲しい』と。


 ただ、無理強いはしていない。それに、断ったところで放り出すような真似はしないし、束縛もしないと。


 そして今、二人は返事をするためにアルフレードの部屋を訪れていた。



「……考えてくれたかな」


 アルフレードは優しい笑みを浮かべ、二人を出迎える。


 ファウスティとドメーニカは席につき、返事を口にした。


「……ああ、アルフ、聞いてくれ」


 二人は顔を見合わせて頷き、続けた。


「街を守るために俺たちの力、使ってくれ」


「うん。私、力をうまく使えるように、頑張るから!」


 真っ直ぐにアルフレードを見つめる二つの視線。その二人の返事を聞き、アルフレードはふうと息を吐いた。


「ありがとう。すまないね、僕もドメーニカの力を制御出来るよう、いろいろと考えてみるよ」


「——ただ」


 ファウスティが言葉を遮る。目を細めて返事を待つアルフレードに向かって、彼は頬を緩め、続けた。


「お願いだ。ドメーニカと俺、必ず二人で行動させて欲しい。例え何があっても、俺が責任を取る、取りたいんだ」


「はは、お安い御用さ。ドメーニカの攻撃魔法に近しい能力、ファウスの結界魔法に近しい能力、二つ合わされば、完璧だ」


「助かるよ、アルフ。これでいいかい、ドメーニカ?」


 優しい瞳で彼女のことを見るファウスティに、ドメーニカは満面の笑顔で返した。


「うんっ……うんっ! ありがとうね、ファウス、アルフ! 私、頑張るよ!」


 両手を握りしめて気合いを入れるドメーニカ。アルフレードはにこやかに、二人に礼を言った。


「ありがとう、二人とも。心強い仲間が出来て、僕も嬉しいよ。しばらくはこの屋敷を自由に使ってくれ。あと、そうそう——」


 アルフレードは肩をすくめ、言葉を繋げた。


「——まずはこの世界の言葉を覚えてもらう必要があるな。二人とも、大変だと思うが、頑張ってくれ」


 微笑みながら言ってのけるアルフレード。一からの語学習得。


 ファウスティとドメーニカは顔を見合わせて、苦笑いを浮かべるのだった。


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