第22話 アンバー館長って大変よね

 不思議な植物が花咲く温室。

 恋する乙女触手のラーラと、ウサ耳男の娘のミュルルとおしゃべりしていたら、あっという間に時間は過ぎてしまう。

 楽しいのだ。

 女子トーク!

 ラーラが、ブレスの話をする時の乙女なお顔も可愛いし、ミュルルの美容ネタも参考になる。腕の良い美容院も教えてもらったし、お気に入りの保湿クリームも少し使わせてもらってメモさせてもらった。

 話は尽きないのだ。


「図書館に帰らなきゃ!」

「今日は休館日になったのでしょう?」

「そうなんだけれど、アンバー館長が一人で書庫の整理してくれているから。手伝いたくて」

「アンバー館長、大変だよね……あの規模の図書館を、一人で管理しているのだもの」


 ミュルルの言う通りだ。

 アンバー館長は、大変なのだ。


 図書館の仕事は、図書の貸し出しと返却受付けだけではない。

 むしろ、それは氷山の一角に過ぎず、図書の整理、管理、修復、保存、仕入れ、研究……図書館の予算管理や保全なども含めて、それはそれは多くの仕事を抱えているのだ。

 魔法の力でサポートがあるから、なんとか運営出来ているのだろうが、それでもかなりキツイはずだ。

 私が早く仕事を覚えて一人前にならないと、アンバー館長の健康が心配になる勢いだ。

 アンバー館長の仕事を増やしている場合ではないのだ。すみません。以後気をつけます。


「帰っても良いよって、言われているんだけれど、気になるし」

「胡桃ちゃん……偉いです!」


 ラーラが褒めてくれる。


「ありがとう! でも、失敗したの私だし」

「昨日のあの騒ぎね。あれ、でも、ユルグやブレスも悪いし」

「でも……不用意に魔法のホルンを貸しちゃうのは、駄目よね。やっぱり」


 私が職場の物を持ち帰ったのだから、私が管理する責任があるのだ。


「胡桃ちゃん、真面目!」

「真面目……それじゃあ困るんだけどね」

「どういうことですか?」


 私は、二人に元世界では断れない性格が災いして過労死したこと、この世界では、悪女になりたいことを説明した。


「胡桃ちゃん……それは……」

「だよね、ラーラ! 分かる!」


 な、何よ……。二人して顔を見合わせて!


「「向いてない」」


 です……と、申し訳なさそうにラーラが付け足す。

 この世界に来てから何人に向いてない認定されただろうか。


 え、そんなに私、やっぱり悪女向いていない? 結構性格悪いよ? 


 ともかく、私はミュルルとラーラと別れてバスに乗って、図書館へ帰る。


「ただいま戻りました」


 裏にある通用口から入れば、アンバー館長がティーカップ片手に休憩している。


「おや……今日はもう良いのに」

「でも、何かまだ手伝えるかと思いまして」


 私の言葉に、アンバー館長が、にこりと微笑んでくれる。


「熱心で有り難い。だが、無理はなさらず」


 アンバー館長は、新しいカップを取り出してきて、お茶を私にも注いでくれる。

 白い陶磁器のカップからは、花の香りが漂ってくる。


「エディブルフラワーのお茶だよ。はちみつで甘さを足している」


 優しい香りのお茶を飲めば、ふっと体に入っていた力がほぐれる。


「大丈夫。ほとんどの本達は、ちゃんと自分の巣に帰ったし、心配いらない。片付けも後少しだし、明日は予定通り開館できるから」

「良かった!」


 私はほっとした。


「さぁ、じゃあ、本来、今日からやるはずだった業務を、少し教えようか?」

「え、いいんですか?」

「ええ。では、修復と……後は、書庫の温度管理と湿度管理、データの整理方法……」


 待って、次々と出てくるのだけれど。

 やっぱり……あのまま帰った方が良かった? 失敗した?

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