第4話 シェアハウスの住人達
ブレスが運んでくれた布団やタオルなんかを部屋に入れて鍵をもらう。
「ありがとうございます」
「気にしないで! 家賃にちゃんと上乗せしておくから」
うっ! 無料とはやはりいかないようだ。
世の中そんなに甘くはないか。
……まぁ、それでも部屋を格安で提供してもらえるのは有り難いし、助かるのだ。
「リビングへ行こうよ。今見たら何人かいたから、紹介するよ。ご飯も食べるでしょう?」
「あ、はい!」
そう言えば、この世界へ来てから何も食べていない。お腹は空いているのだ。
ブレスと一緒にリビングに入れば、二人の人影が見える。
えっと……ウニウニとミミズの塊みたいな緑の触手さんと……人間っぽい姿形の白い髪で赤目のウサギ耳がついている少女。
「紹介するよ! 山下胡桃さん。転生者だ。ベルゼのいた部屋に住むことになった」
ブレスが紹介すれば、皆が一斉にこちらを見る。ベルゼというのは、きっと不幸にも調伏されてしまった悪魔さんのことね。
「転生者? あら、じゃあ人間なのね!」
どこが口かは分からないが、触手さんが「ようこそ!」と言いながら、触手を一本伸ばしてくる。
握手のつもりなのだろう。
私は、戸惑いながらも、触手を手で掴んでみる。
……ベタベタしている。さすがは触手さん。粘液がなんかなのだろうか。
でも、こんなにフレンドリーにしてくれているし、振り払うのも悪いだろう。
私は、にこやかに応対する。
「何、この子」
ウサギちゃんが、眉をひそめる。
「あんた……その手で私と握手なんかしないでよ!」
「まぁ酷い! 私の粘液は、お肌にいいって言っているのに!」
あ……普通にこれ、ベタベタするのは、この世界でも駄目なんだ。美肌効果あるのは嬉しいけれど……とりあえず、手を洗ってもいい?
「こっちの触手は、ラーラで、ウサギ耳は、ミュルル」
ラーラさんにミュルルね。
「よろしく!」
ニコリとミュルルがあどけない表情を浮かべる。アリスのようなエプロンドレス姿のウサ耳少女。キュンとくる笑顔に、私の顔は蕩けてしまう。
「騙されないでよ。ミュルルは、そんな見た目で成人男性だから」
「あ、言うなよ!」
えっと……男の娘的な? それはそれで、まぁ……。私的には、悪くはないかも?
「あともう一人、男がいるんだけど……」
ブレスが、そう言って窓の方へと向かう。
「あ、いたいた」
ブレスが窓を開ければ、コウモリのような羽を広げてドラゴンが入ってきた。
お……。
ドラゴンだ! 何? ドラゴンなんてテンションの上がる生き物がいるの?
月明かりに映える銀色のドラゴンが私を見つめる。
「は、初めまして。本日からお世話になる山下胡桃と申します」
私は、ペコリと頭を下げて挨拶する。
「ああ……うん」
「ほら、ドラゴンの姿じゃあ邪魔だから! 早く変身してよ」
ブレスに促されて、銀の鱗をまとった美しいドラゴンは、光の粉に包まれて変身する。
とっても幻想的な光に包まれて現れたのは、眼鏡をかけた大人しそうな会社員風の男性だった。
痛恨の解釈違いっ!
いや、勝手に期待した私が悪いけれども!
もっとドラゴンには、ワイルド感とか野生味が欲しかった。
社会人七年目っぽい、肩凝りと腰痛と戦ってそうな感じは、ドラゴンには求めていないのよ。
「ユルグです。よろしく」
ドラゴンのユルグは、おずおずと挨拶してくれた。
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