第3話 シェアハウス
不動産屋さんを閉めてから、私はエルフのブレスと一緒にシェアハウスへ向かう。
「いや~。助かったよ。人間なら、別に調伏の魔力の残穢に影響なんて受けないだろう?」
「え、何? 調伏? 魔力? 残穢?」
何一つ理解出来ない単語の羅列に、私の頭は疑問符だらけだ。
「そうそう。警察署から来た警官が、暴れ回っちゃった悪魔を調伏してね。その時の魔力が部屋にまだ少し残っているんだよ。その残穢に触れたら、魔物系の住人なら消えちゃうんだよ」
「はぁ……」
理解はできないが、とりあえず私ならその魔力の残穢ってヤツに影響されずに住むことが出来るってことだろう。
事故物件だよ。やっぱり……涙目。
「そもそも、その調伏って何なんですか? それって、その悪魔さんは、その部屋に住んでいたわけでしょ? 何でそんな目に合わなきゃいけないの?」
「何だか質問が多いなぁ。面倒くさい」
「だって! 分からないことだらけなんです!」
「スマホ、持っているんでしょ? 女神様が転生者には配っているはずだよ!」
「あ……そうか。これで調べられるんだ」
そうだよね。スマホだもの。
これで分からないことは調べれば、出てくるのか。
「まぁいいや。ええと、まず『調伏』。これは、悪魔や魔物系が犯罪したり暴れたりした時に使われるもの。人間だと逮捕が近いかな? 力が強い彼らは、その存在を調伏によって吹き飛ばされちゃうの」
「ええ! 吹き飛ばされる?」
「そう! 異次元にピューンって!」
異次元にビューン……。
それって大変なことなんじゃないかしら。
「その悪魔さんは、何をしたんですか?」
「今回の場合は、そりゃ普段から素行が悪かったし。家賃は払わなかったし。他の住人とも揉めていたしね。出てってもらわなきゃこっちが干上がっちゃう」
つまり、犯罪者ってこと?
え、怖い。この世界で何か悪いことしたら、そんなレベルで罰せられちゃうの?
てか、その部屋に私は今日から住むんですけど。
怯えながらも行くあてのない私は、ブレスの後をついていく。
ついたのは、二階建ての建物。
木造で赤い三角屋根のそれは、ちょっと可愛い外観をしている。
アイビーの蔦が外壁に絡まっている様は、ちょっとオシャレにも見える。
犯罪者が異世界にビューンされた事故物件だけれど。
「さ、上がって!」
ブレスに促されて建物に入り、下駄箱に靴を入れる。
「ここが共同の台所、こっちがリビングで、トイレは、こっちに二つ……お風呂は、一階の奥にあるんだ。残念ながら、トイレもお風呂も男女兼用だから、施錠には気をつけて使ってね」
ブレスが説明しながら階段をのぼる。
「で、ここが当分の間は、キミの部屋」
そう言ってブレスが開けた扉の向こうには、六畳ほどの部屋があった。
暴れ回った悪魔の部屋。
そう聞いていた部屋は、こじんまりと片付いた六畳ほどの大きさの部屋だった。
「家具はそのままだけれど、元の住人の物は片付けたから安心して。……と、布団と……何か着替えくらい必要かな。後は……とにかく待っていて」
私を部屋に残して、ブレスはどこかへ行ってしまった。
暗い部屋、電気を付ければ、部屋の全貌が見えてくる。
私が人間だからか、魔力の残穢なんてものは全く感じられない。
感じの良い部屋だ。
事故物件だけれども。
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