第29話

「何してんだよ」


ものすごく怖い顔をしたゴリラが入ってきた。


「わ」


ゴリラを見た森の顔が引きつっている。なんか変。


「おい」


ドラミングをしながらゴリラが一気に森に近付く。


すごい迫力!

ああ!まさにボスゴリラ!


「すっすいません!お邪魔しました!」


小柄な森はスルリと逃げていった。一瞬だった。



「……」


呆気にとられてしまった私ポカーン。



逃げた森を追い出すように追いかけたゴリラは水戸泉みたいに玄関に塩をまいて戻ってきた。


「山田」


「はい…」


「なんでアイツを中に入れた?」


「だって後藤に仕事の事で用があるって言うから」


「だからって入れんなよ」


と言って私を抱きしめるゴリラ。

大好きな私の心配してくれてるの…?


「なんかあったらどうすんだよ…!」


と言って更に私を強く抱きしめた。

大好きな私の心配してくれてるのね…あぁ…嬉しいわ…私もだいす…



「俺に」



こんなどっからどう見てもゴリラにストーカーなんているワケない!




「何もされなかった?」


「ものすごーく凝視された!それだけ」


「凝視?」


「そう。一言も話さないでギラギラ突き刺さるような眼差しで私をずっと睨んでいたわ!コーヒーなんか飲みやしない」


テーブルの上にそのまま置いてある森に出した1杯10円のドリップコーヒーを見つめる私。



「ストーカーだよね」


「誰の?」


「後藤の」


「俺の!?」


「家まで来てんのよ!?」


「やだ…コワイわ…」


ゴリラは私に抱きつき私の豊満な胸に顔を埋めて「助けて~」なんて笑ってる。


なんだか急に馬鹿馬鹿しく思えて笑えてきた。



「山田」


「なあに?」


「笑い事じゃないよ」


「え」


「俺がいない時に俺以外の男をこの家にあげてはいけません」


「…申し訳ございませんでした」



私の豊満な胸に埋もれて喜んでいたかと思いきや、真剣な顔で鼻息荒く説教するゴリラ。



「山田」


「はい」


「…大丈夫?」


「…本当はちょっと…怖かった」


「だよな…ごめん山田。でももう大丈夫」



低くて太いゴリラの声が優しかった。

私を見つめるゴリラの目が優しかった。

大きくて分厚い身体とたくましい腕に包まれたら安心して泣きそうになっちゃった。


ものすごく怖い顔をしたゴリラが部屋に入ってきた時、私を助けに来てくれたみたいですっごくかっこよかったの。


ゴリラはただ普通に自分の家に帰ってきただけなんだけど。





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