第9話

「――ってのが昨日の話」


「…で?」


「…と、おっしゃいますと?」


「なんか進展はないの?」


「ございません」


「……」


「あら?香織さん?どうしました?」


「ただゴリラとパチンコ行きました、回転寿司行きました、終わりです、なんて話聞いたって面白くもなんともないわ」


「そらえらいすんまへん」


また香織の期待を裏切ってしまったようだ。

てゆーかイチイチ期待しすぎ!私にどうしろと!?


「あ、でも連絡先は交換したわよ」


「連絡した?」


「してません」


「……」


「連絡とかしなきゃいけないの!?」


「なんかあるでしょ!『今日はごちそうさまでしたぁ~♡』とか『またお食事連れて行って下さいねぇ~♡』とか」


「なにその気色悪い語尾!私がそんなへり下る必要があって?てかゴリラとはタメだし!」


「でも奢ってもらってんでしょ?ってか何皿食べたのよ?」


「いつも通り20皿+ラーメンにデザートにチョコケーキと杏仁豆腐」


「……」


香織の冷ややかな目ったらないわ。

そんな顔してると仁先生タイムスリップしちゃうんだから!



ああ面倒臭い。


スマホを取り出しメッセージ入力画面を出すが、なんて文字を打てばいいのかまったくもって思い浮かばない。


仕方がないのでバナナの絵文字を送ってあげた。


のに。


私がわざわざ渾身のメッセージを送信してあげたというのに、ゴリラからなんの応答もない。


無視?あのゴリラはこの私を無視するワケ?


あ、仕事中か。

一流企業のエンジニアだものねぇ…。


ああ!そうだ!

ゴリラだからスマホが使えないんだ!


そうね、きっとそうよ!


「……」


さっきからスマホを気にしてばかりの自分がイヤ!




その日の夜。

ゴリラから電話がきた。


「おい」


「メッセージ見てくれたぁ?」


「なんだよアレ。バナナだけ、しかも大量に。迷惑メールか!いやがらせか!」


ゴリラは私からのメッセージが余程嬉しかったのかすごい興奮状態。

ゴリラの鼻息が荒くて思わずスマホを耳から離しちゃったりして。


「だってバナナ好きでしょ?あはは」


私は笑いが止まらない。


あれ?

私なんでこんなに楽しいの?


「好きだよ」


…ドッキーン!!


「好きだよ、バナナ」


…ああーバナナっ!バナナねっ!


「あ、ああーそうでしょ!アンタバナナ好きでしょ!バナナ好きそうな顔してるもんね!」


やだ…私ったらゴリラのセリフに何ドキドキしてんのかしら…!


ゴリラはバナナが好きって当たり前の事言っただけじゃない…んもう!

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