第8話
この間、ゴリラと死闘を繰り広げた海物語へ行ってみた。
すると、見覚えのある男がいた。
野性味溢れるガタイのいい男が。
「キャッ!ゴリラ発見!うふっ」
…いやいやいやいや、なに喜んでんのよ私。
なんと憎たらしい事にゴリラの後ろには箱がいくつか積まれている。
「あのゴリラめ…また出してやがるわ…」
いくらで出たワケ!?
まさかまた500円じゃあるまいな!?
と私が怒りに震えているとゴリラの左隣で打っていたおばちゃんがタイミングよく席を立った。
ハッ!
ゴリラの隣が空いた!仕返しチャンス!激熱だわ!
「よっこいしょーいち」
内心ワナワナしながらも平然を装い何食わぬ顔をしてゴリラの隣に座りお色気たっぷりに足を組んだ。
「おおッ!大食いホステス!」
私に気付いたゴリラは鼻の穴を思い切り広げながらニヤニヤしている。
てゆーかまた場末のスナックホステス呼ばわり!ったくなんなのよ!
「ちょっとアンタ…いくらで出たのよ!?」
私はゴリラの後ろに積まれた箱を数えてみる。
「ひい、ふう、み…」
「500円♪(ウホッ)」
信じられない何このゴリラ…。
私は気合いを入れてお財布から夏目漱石をシャッと取り出した。
「いやいやそれじゃ無理だろ。ってか今は野口英世!」
「おだまりっ!私も500円で出す!」
見てなさいよ!オスイチ決めちゃうんだから!絶対に勝つんだから!ゴリラに!
機械に吸い込まれていく夏目漱石にお願いしますどうかどうかお願いしますと強い念を込める。
背筋を伸ばしスーハーと大きく深呼吸をしてハンドルを握り手首を少し傾ければ銀色の小さな玉が打ち出され動き出す魚介類。
さあこれから楽しい物語の始まりよ!
と、思っていたのに。
…、
…あら?
…ちょっと、
…待って待ってウソでしょ!?
「クククっ…」
私の隣で口から変な声を出して小刻みに肩を震わせているゴリラ。
オスイチどころかリーチもかからずただただかわいいお魚たちが動いては止まるを繰り返しただけだった。
「……」
そう、私の夏目漱石はあっという間に消えたのよ。
「残念でしたー」
ゴリラはウホッと笑った。
悔しい…悔しすぎる…!
絶対にオスイチ決めてやると思ってたのに!いや、オスイチは無理でもゴリラみたいに500円で当たるハズだったのに!
「キイィー!!」
どうしてくれようこの怒り。
とりあえず煙草でも吸って落ち着くのよ私。
ポーチから煙草を1本取り出し口に咥えたのにバッグを漁ってもライターが見つからない。
するとゴリラが「ほれ」とライターを貸してくれた。
「あ、ありが」
「なんか飲む?」
かぶせてきたわね?私の言葉を最後までちゃんと聞きなさいよ!
「アイスコーヒー!」
「わかった」
ゴリラが貸してくれたターボライターからゴオーと勢いよく吹き出す炎。
「いや強火!」
もーなんなの!?またいやがらせ!?
私の絹のような美しい髪が焦げるとこだったじゃないの!しかもなにこの変な柄のライター!どこで買ったの!?
危なかったけどでもなんだかおかしくって。
しばらくすると足の綺麗なお姉さんが私にアイスコーヒーを持ってきてくれた。
日曜日で賑やかな店内。
パチンコ台の音と店内のBGMとアナウンスで、ゴリラと話す声がよく聞こえない。
何か話す度に近付けてしまう顔。
なんかわかんないけど…すごく楽しい。
引き強ゴリラの連チャンはしばらく続いて、積み上げられた箱は20箱にもなっていた。
「今日は何食う?」
「は?」
「回転寿司?」
「へ?」
「20皿食うんだろ?」
「食うわよ」
「はい決定~」
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