#7 バー・トワイライトムーンの監視カメラの映像記録 10/21/2138 21:34:42~22:50:23
*入り口のベルが鳴る音*
「……いらっしゃい」
「やあ、こんばんは、素敵なバーですね」
「そんなことないよ、見てくれだけ」
「謙遜ですか? 立派なお店じゃないですか。パウル・クレーの絵画を飾るなんて、普通のバーにはできないことですよ」
「……そういうの、分かるのね」
「はは、吟遊詩人をやっていますから。美しい物には関心がある」
「吟遊詩人ね……。どうぞ、座って。今日は珍しく客がいないから、どこでもお好きに」
「カウンターにしようかな。あなたとお話がしたい」
「あら、色男ね。どうぞお好きに。何を?」
「ブラッディマリーを」
「かしこまりました」
*バーテンダーがカクテルを作る様子が映されている*
*客は手を組んで、バーテンダーの様子を眺めている*
「それ、ギター?」
「これかい? そうだよ」
「珍しい形ね」
「ああ、バックパッカーってギターなんだ。旅にはちょうどいい」
「旅? あなたは旅をしているの?」
「ああ、ギターで弾き語りをしながら、曲を作る旅をしているんだ。僕は本当に吟遊詩人なんだよ」
「へえ……。こんなご時世にねえ……」
「こんなご時世だからだよ。……あんまり興味なさそうだね」
「胡散臭いもの」
「じゃあ、実際に僕の曲を聞いてみるかい?」
「弾きたいのなら、どうぞ。聞かせるのも私だけで悪いわね」
「では…」
*曲を弾き語りする男の姿が映っている*
*控えめな拍手*
「……へえ、うまいのね。正直、侮っていたわ」
「はは。一応、吟遊詩人を名乗らせてもらってますから。――これは? 頼んでないけど。」
「曲を聞かせてくれたお礼よ。サービス」
「そうか。じゃあ、遠慮なくいただくよ」
*男がハットを被る様子*
「じゃあ、この辺で帰るよ」
「ありがとうございました。意外と粘らないのね」
「帰って曲を書かなければいけないからね」
「そう。今度はお客がたくさんいるときに来てちょうだい」
「ははは。その時にはこの街にいないかもしれないな」
「旅に出るの?」
「そう。……ひとところに長く居れない性分なんだ。でも、この店は気に入ったよ。そして、君のことも。また来てもいいかな?」
「……お客としてだけなら、どうぞ」
「食えない人だなあ。――ごちそうさま」
「どうもありがとうございました。」
*入り口のベルが鳴る音*
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