#6 イーシャの手記 11月11日2138年
こいつを護送するなんて、どうして同僚を殺された私がやらなきゃいけないんだ。心の底からそう思う。
日も暮れ、私は焚火の灯りを頼りにこの日記を書いている。
この男――ウルフはマルボロメンソールを吸う私に向かって、「へへ、姉ちゃん、一本くれよ」なんて媚びたような声を出す。欠けた歯と無精ひげが見苦しい。
殴ってやろうかとも思ったがあくまで私はこいつを裁く立場にない。
裁くのは、唯一機能している――機能しているように見せかけている、裁判所だ。私刑を下してもキースは喜ばない。
キースは数少ない私の親友だった。
同僚の中でも、明るく、そして信用のできる男で、任務に忠実だった。
私のタバコの趣味も、キースに教えられたものだった。家族の居ない私にとって、キースは、同僚で、悪友で、兄のような存在だった。
キースが私に告白してくれた時だって、私は上手く返事ができなかった。そんな風には見れないからだった。私にとっては家族なのだから。
キースは任務に帰ってきてから、また答えを聞かせてくれ、そう言って、旅立った。
そして、少しも離れていない町で、こいつに殺された。
少し感傷に浸ってしまう。
涙腺が緩んだのをこいつには見られたくない。そう思い、メガネの縁を上げてごまかす。
さて、もう寝よう。明日も早い。
11月11日 曇り(少し、月が出ていた)中央街まで2232マイル
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