#2 イーシャの手記 11月10日2138年
ヒンヤと呼ばれる町で、目的の男、ウルフ・アダムスを発見。筋骨隆々な男だった。
彼は質の低い、濁った密造ウイスキーをあおっていた。私は身分証明を取り出し、大人しく拘束されるように、と伝えた。
ウルフは私を警官だと知るや否や、銃を取りだした。弾の一発がカウンターにいた店員らしき男の頭部を弾けさせ、彼の虫のような触角が足元に落ちてきた。
私はカウンターに飛び込んで、彼の射撃をしのいだ。
ウルフの銃はよくあるリボルバータイプ。逃亡の道中、警官を殺して奪ったピストルだった。私の同僚だったキースの物。
私はわざと物陰から身を出すふりをしながら、射撃を誘発させた。
6発撃ち切り、弾切れを起こすタイミングを見計らって、ウルフの左太ももに銃弾をぶち込んだ。
ウルフは呻いて脚に手をやり、うずくまる。無様なものだな、と私は思った。
私は改めて宣言する。このままおとなしく罪を償うために中央街へと一緒に来るように、と。
一仕事終えて、汗をぬぐう。一緒に銃弾をかすめた傷から流れる血が、手の甲にべっとりと付いていた。
私は男の罪状を読み上げ、男の両手を背後で手錠で拘束し、簡単な止血をしてやった。
同僚の仇であり、連続殺人犯。そんな男の手当をなんでしてやらなければならないのか。私は強い憤りを感じた。
後悔するぜ! などと額に脂汗をかきながら、わめいていた。そんなウルフ・アダムスの様子を見て、私は少しだけ気が晴れた。
男をミニクーパーの後部座席に放り込んだ。ボンネットに座り込んで一服をした。至福の時……。
私の愛煙、マルボロメンソールはまだ在庫があるだろうか……。やはり、任務にあたる前に、まとめ買いをしておくべきだったかな。
残り少なくなったソフトパックをいじりながら、私はそんなことを考えていた。
後はこいつを中央裁判所で裁くために安全に護送するだけでいい……。
車から怒号を発しているサルを見ながら、こいつを殺すのは電気イスじゃなくて私になるかもな……。そう思う。
中央街への帰路に就く。
11月10日 雨 中央街まで3000マイル
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