第22話:ニュウナイス基地攻略戦(1)

 あれから二日後、セルバンテスはブリーフィングで言った通り友軍の中へ合流を果たしていた。


 戦力も道中で寄った基地で<イーグルヘッドⅢ>を4機。

 そしてイーグルヘッドとは別系統の新型<アリエス>を1機を受理している。


 レインはその五機を見て、すぐにパイロットを判断した。


「イーグルヘッドⅢはイーグル4から7に。アリエスはクロック、君が乗れ」


「わ、私がですか? しかしアリエスは新型機です。乗るならば隊長が……!」


 クロックは未だに旧式の回収機に乗るレインを心配し、アリエスを乗る様に促す。


 だがレインは首を横へ振った。


「俺はいい。アリエスは良い機体だが、指揮官用汎用機として開発されているバランスの機体だ。だが俺が扱うにはピーキー差が足りない」


 レインはそう言って小さな端末を弄り、機体スペックを表示させた。

 目の前に佇む、青と白に塗られたイーグルの面影がある機体の。


「俺はエースを相手にする方が多いし、自由に動いた方が良い。カレンもそうだ。――だがそうなると、次に必要なのは部隊を指揮する者だ。俺は最低限の命令しかできない。だがクロック、お前はよく周りを見ている。イーグル隊に足りない指揮を任せたい」


「隊長……! わ、分かりました。どこまでやれるか分かりませんが、それが命令ならば!」


「頼む……クレセント連合に寝返ったエース達はまだまだいる。犠牲を少なくするには俺が出るしかない」


「……確かに。情けない話ですが、私じゃ力不足です。ガルム中隊にも相手にされてませんでした」


 クロックは思い出す。ガルム中隊を誘い込む陽動の時の事を。

 目の前に敵がいるのに、基地への僅かな異変を察した瞬間、彼等が自分に背を向けた事を。


 それだけ相手にされていない証拠なのだ。

 クロックも悔しいが、それを自覚していた。


「了解です隊長! 万が一の時は私に任せ、お二人は自由に空を駆けてください!」


「すまんな……一番、責任重大な事を君に任せる」


「ハッ!」


 そう言って敬礼し、クロックはメカニック達の下へ向かい機体調整へ向かう。

 イーグルヘッドⅢを受理した者達も、既に操縦やシステム面をチェックしていた。


 その光景を見ながら、ひとまず仕事を一つ終えたとレインは深い息を吐いた。

 すると、それを聞いていたカレンがレインの下へやってきた。


「隊長……大丈夫ですか? この二日間、忙しそうでしたけど」


「まぁな……けど大丈夫だ。それより、そっちは大丈夫か? エクリプスの調整は?」


「はい! エクリプス、そしてカレン・レッドアイ! いつでもいけます!」


 カレンはそう言って力強く敬礼をすると、レインは少し笑った。

 そして笑った後、真剣な表情を見せる。


「敵は可能ならば、ニュウナイス基地で俺達を止めたい筈だ。だからそれ相応の戦力――エースもいる筈だ。だから、もし抜かれた時は頼む」


「任せてください。隊長は頑張り過ぎなんですよ……もっと私達を頼ってください」


 二人はその場から離れ、歩きながらそんな会話をする。


「そこは俺の我儘だな……。その想いでつい動いてしまう」


 レインはそう言って10年以上の付き合いである愛機――イーグル・ストラトスEエアリアルの前に来て、愛機を眺めた。


 随分と無理をさせたものだ。レインは感傷気味にそう思った。

 沢山守って、沢山失ったのを一番近くで見てきた相棒。


 けれどそれ以上に、自身を生きて帰らせてくれた愛機だ。


「万が一の時は頼む。既に俺の存在も気付かれつつある。――この蒼い渡り鳥のマークも」


 イーグルの方と翼に刻まれたパーソナルマーク――蒼い渡り鳥。

 離れて見た敵や味方からは、蒼い十字架に見間違えらている自身の誇り。

――自由の意思の象徴。


 レインはそう思いながら、今度はエクリプスの方を向いた。


「そして君もだ。その傷付いた赤い鷹のマーク……鎖付きと呼ばれているらしいな。――敵も認識している筈だ」


 近くで見れば傷だと分かる。

 だが遠く見ると赤い鷹が、鎖に巻き疲れている様にも確かに見える。


 そして敵からも、それを認識され始めていた。

 だがカレンは胸を張って、平気そうに笑っていた。


「上等です! 来るなら返り討ちにしてやりますよ!――このマークを直さないのもその為ですから。これを見ると、自分の弱さに気付けるんです」


「良いことだ。その気持ち、大事にしろ」


 レインはそう言うとカレンへ敬礼し、イーグルのコックピットに入って行く。

 その背中へカレンも敬礼で返し、エクリプスのコックピットへ入って行った。


 始まるのだ。スカイラス解放のその第一戦が。


『イーグル1 気を付けて下さい。既に地上部隊が展開していますが、敵基地周囲に多数の対空砲や敵ASも展開されています。――そしてアール大佐からです。イーグル1には地上兵器・施設への攻撃。そして敵AS又は敵エースの撃墜を任せるとの事です』


「了解した」


 コックピットでレインは、オペレーターからの言葉を聞きながら地図を見ていた。

 

 しかし内心では簡単に言ってくれると、やや複雑な感情だった。

 

「敵エースの情報は?」


『三機編成の部隊を確認しております。パーソナルマークは――<ガルーダ部隊>です。機体はエース用量産機<ガルダ・ストライク>で、スカイラスの女傑と言われたミレイ・バッドール少佐が率いているエース隊です』


「三機か……了解した」


 レインはヘルメットを被りながら、やや複雑な表情を浮かべる。

 

 数だけならガルム中隊の方が多い。

 しかし要衝とも呼べるニュウナイス基地を任されている三機だ。


 その重みは違うと、レインは油断するなと自身に言い聞かせる。


『今作戦は大規模なものとなりますので、通信時も注意してください。地上・上空ににも敵味方のAS入り乱れる事が予想されます』


「了解した。――良し! いつでも行けるぞ」


 レインが準備を終えると、セルバンテスのカタパルトが展開された。

 入口も開き、既にレーダーにも敵と味方が移されていた。


「始まってるか……!」


『発進シーケンス! オールクリア!――イーグル1 発進どうぞ!』


「イーグル1 レイン・アライト!――イーグル! 出るぞ!!」


 レインは愛機と共に空へと向かう。

 巨大な四枚の翼を広げ、大空を舞うイーグル。


 待っていたのは地上も空も狭い、確かな戦場であった。



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