蒼天のイーグル

第18話：超強襲作戦

　イーグル・ストラトスE（エアリアル）のコックピットの中で、レインは作戦が始まるのを待っていた。

『隊長……大丈夫ですか？』

　カレンから心配の通信が入る。

　作戦を聞いてから、彼女はずっとレインを心配していた。

　だがレインは、不安にさせない様に余裕のある口調で返した。

「問題ない。――シンプルで、簡単な作戦だ」

　そう、作戦はシンプルだった。

　イーグルには、その為の武装や装備が付けられていた。

――超大型ビームブレード『アクティオン』と、背部に二つの大型ブースターだ。

　作戦は、セルバンテスを射程外に待機。

　そしてレインの駆るイーグルに、強推力のブースターを付け、高機動で一気に接近。

　そのままヘラクレスの主砲――アルケイデスを破壊。

　そこからイーグルは白兵戦の方が有利と判断され、アクティオンで接近戦。

　後はセルバンテス始め、周囲で待機する部隊で一気に攻略という作戦であった。

　一見ただの自殺行為の作戦だが、不幸中の幸いなのはセンサー・レーダーはセルバンテスの方が上という事だ。

　ヘラクレスは巨大で超火力の戦車だが、作りが古い。

　そこが弱点であり、今回は、最新鋭のセルバンテスとの技術的な一騎打ちとも呼べる。

『イーグル１！　発進準備どうぞ！』

　そしてとうとう作戦開始の合図だ。

『隊長……ご武運を』

「あぁ、ありがとう」

　互いに敬礼し、イーグルは起動する。

　そして格納庫から外に出ると、機体をコードで固定し、背後の巨大ブースターが起動した。

「さぁて、どうなるか……！」

　専用の耐G用のパイロットスーツも着た。

　後はどれだけ自身が操縦し、どれだけセルバンテスからの指示が正確なのかがカギとなる。

『それでは作戦開始！　武運を祈る！』

「任せろ！　イーグル１！　レイン・アライト――イーグル出る！」

　そう言った瞬間、コードが引きちぎれた。

　そして一気にイーグルは飛び出していった。

「うぉっ……！」

――なんて加速だ！？　全神経を集中させないと操作が乱れる。

　とんでもない加速により、レインの身体は押しつぶされる様な感覚に陥った。

　だがレインは気合でレバーを握り続け、必死に意識を操縦へ全集中させた。

　そして一気に数千メートルを超える機影を、ヘラクレス側も捉えた。

『敵影確認！　数は１機です！　ですが、通常ASの３倍……いや５倍以上の速度で迫ってきます！』

『アルケイデス起動！　相手が１機だろうが油断するな！』

　イーグル１機相手にも油断はせず、ヘラクレスの主砲にビームが収束し始めた。

　それをセルバンテスも捉えた。

『ヘラクレスから熱源確認！　アルケイデス来ます！！』

『今だレイン！　左へ避けろ！！』

「左ぃ……うおぉぉ！！」

　レインは指示に従い、大きく左へ避けた。

　それと同時にアルケイデスが放たれ、イーグルの側面をビームキャノンが通過する。

「回避できたか……！」

――だが骨が折れるぞ！　この速度で左右移動は！？

　骨が軋む。呼吸が上手くできない時もある。

　イーグルが耐えてくれる保証もない。

　しかしレインに諦める選択肢もなかった。

　一度出撃した以上、任務を成すか、失敗するかの二択しかないからだ。

『敵AS！　アルケイデスを回避！』

『まさか……化け物か！？　えぇい、再度発射準備！』

　再びヘラクレスの砲門にビームが収束していく。

　それをセルバンテスも再度確認した。

『ヘラクレスより！　再度熱源反応！　アルケイデス、来ます！』

『次は……やや低空で飛べ！！』

「……了解！」

――無茶を言ってくれる。

　この速度で低空飛行。最悪、そのまま山とかに激突しておじゃんだ。

　だがレインは信じるしかない。指示通り、ギリギリの高度で飛行していく。

『アルケイデス発射！！』

　そして指示から少しした後、ビームキャノンがイーグルの頭上を通っていった。

――肝が冷える。身体から熱が消えていく感覚だ。

『ヘラクレスまで、あと距離２０００！　あと一発回避すればAS戦に移行できます！』

「……了解」

――あと２０００か。

　このブースターならばあっという間だ。

　しかし、それだけ回避が難しくなるのも確かだ。

　レインは、残りの距離が凄まじく長く感じていた。

　だが敵も必死だった。

『敵AS健在！　来ます！』

「全砲門準備！　アルケイデスも放て！　近付けさせるな！　奴はエースだ！！」

　敵もレインの存在に気付いた。

　ここまで来たパイロット――ただの一兵卒ではないと。

『ヘラクレスから熱源反応！　アルケイデス来ます！！』

『この距離――躱すより潰す方が早い！！　ブースターを切り離し、そのまま砲門にぶち込んでやれ！！』

「任せろ！！」

――馬鹿な事を言いやがって……やってやるさ！！

　コックピットの中でレインは笑った。

　これ以上もなく、これで終わっても後悔の無いように大いに笑った。

『アルケイデス――チャージ開始！――いえ！？　敵AS来ます！！』

『なんだと！？　えぇい迎撃しろ！！』

「遅いさ！」

　ようやく撃ち始めてきたヘラクレスを見て、レインはほくそ笑んだ。

　そして一気に上へと上昇し、砲門と高さを合わせた。

「遠慮はいらない！　全部くれてやる！！」　

　レインは一気に操作し、イーグルからブースターを外した。

　そしてブースターは、そのままアルケイデスの砲門へと突入していく。

　それを見てイーグルは一気に飛翔し、ヘラクレスから離れた。

――瞬間、砲門から一気に火が噴いた。

　そして爆発からの、砲門が溶ける様にゆっくりと下へと落ちていった。

『アルケイデス沈黙！！　やりました！！』

『いやまだだ！　ヘラクレスは健在だ！　これよりセルバンテス及び、周囲の部隊で攻撃を開始する！　それまで耐えろよアライト中佐！』

「あぁ余裕だ……！」

――早く来てくれよ。奴等からの殺気が凄いぞ。

『よくも！　良くもヘラクレスの主砲を！！――撃て！　あの蒼い渡り鳥を撃ち落としてやれ！！』

「アハハ……！――良いぜ！　掛かってきな！！」

　上空でイーグルは翼を広げると、アクティオンを両腕で持ちながらヘラクレスへと迫まるのだった。