第12話:開戦 カリュブディス艦隊攻略

 レインは音を極力出さず、静かにタブレット端末で敵艦隊の情報を見ていた。


 旗艦には艦隊司令官である、バルトロの海将軍――オルマ・ダイダル中将がいる。

 

 レインが知る限り、海上戦のエキスパートの筈であった。


 そんな男がクレセント連合へ寝返り、艦隊を率いて各国の要人がいるヘブンクラウド基地へ進軍している。


 もし辿り着かれたら、きっと最初の様な戦いではなく、文字通りの死闘となるだろう。

 だから阻止する為、狙えるなら奇襲で数を減らすか、将軍を倒すしかない。


 だが相手は20もある一大艦隊だ。

 更にパルシェール級と呼ばれる艦、一隻に対しASが最低でも6機は搭載されている。

 

 そんな艦が確認されただけでも6隻はいた――つまり計36機のAS部隊も艦隊にいる。

 

 当然、空戦も可能な装備をしている筈だと、レインはタブレットを見ながら頭を悩ませる。


――この艦を真っ先に潰せばASへの対処は楽になる筈だ。


 レインのイーグルにも、既にその為の装備も配備されていた。


 カタストロは間に合わなかったが、同じくASと同じ身の丈の巨大なバズーカ砲――<タイラント・バズーカ>が配備された。


 見た目通り、弾頭も巨大なバズーカ砲だ。

 弾数は6発しかないが、一発でも当たれば戦艦だろうが、護衛艦だろうが、一撃で沈める程の威力だという。


――これを最低でも4隻のパルシェール級に当てなければ、敵艦からの対空射撃と敵AS部隊。両方を相手するこ事になるか。


 それは避けたいと、レインは悩んだ。

 戦力は確かに増えた。部隊も14機になった程だ。


 だが、それでも旧式と半端な腕の者ばかり。

 新戦力で期待できるのはクロックと、彼の愛機の高機動仕様となった『イーグルヘッドⅡ・カスタム』ぐらいだ。


 腕に自信のない者は、セルバンテスの甲板に残り、艦のタワーシールドに隠れて艦隊へ攻撃するように指示は出している。


 きっと、実際に空に上がるのは自身を含め、カレンとクロックだろうとレインは確信していた。


――その方がいい。パイロット達を無駄に死なせなず、経験を積ませられるからな。


 レインは内心でそう言うと、後は作戦まで待つだけだとタブレットを置いた。

 そして数十分後、事態は動いた。


――セルバンテスのエンジンが、本格的に稼働したのだ。

 

 もう音がバレても良いと、一気に海面に浮上する気なのだ。

 気付いたレインは、ヘルメットをすぐに被って発進に備えた。


『これより! セルバンテス浮上! 浮上したらすぐ側面に連中はいる! イーグル隊は攻撃に備えろ!』


「覚悟は出来てるさ……!」


 レインはヘルメットの中で笑っていると、セルバンテスは一気に浮上し海面へと出た。

 そして同時にイーグル隊へ発進命令が出て、格納庫の扉が開く。


『イーグル1 発進どうぞ!』


「イーグル1――レイン・アライト! イーグル、出る!」


 オペレーターの言葉にそう応えると、イーグルは四枚の翼を広げて海上の空へと羽ばたいて行った。


♦♦♦♦


『敵襲です! 海から敵艦が浮上! 敵ASも確認!』


『奇襲だと!? すぐに迎撃しろ! たった一隻で我等カリュブディス艦隊に挑むとは、嘗められたものよ!』


 既に敵の通信も入り乱れている状況で、レインは艦隊の姿に言葉を失いそうになった。


「圧巻だな……!」


 移動しながらも敵艦の位置と事前情報を合わせながら、レインは艦の方にも意識を向けた。

 

 セルバンテスはすぐに甲板にタワーシールドが展開され、砲門や機銃・ビーム機銃・ミサイル等が一斉に展開されていた。


 また予想通り、空へ上がってきたのはカレンのエクリプス。

 そしてクロックの駆る、イーグルストラトスEの予備パーツで強化されたイーグルヘッドⅡ・Kカスタムだけだった。


 数機も一応は上がっているが、レイン達の様に高い高度まで来る者はいなかった。


 だが後は時間の問題だ。

 レインはすぐにカレンとクロックに指示を出した。


「イーグル2 イーグル3 俺は反対側のパルシェール級を狙う! この辺りは任せたぞ!」


「了解!」


「了解です!」


 カレンとクロックはそう言うと、セルバンテス寄りの艦を狙い始めた。


「見つけた! パルシェール級!――ASを空へ飛ばさせない!」


 今まさに敵艦からAS部隊が出てこようとした所を、エクリプスはカタストロの大口径ビームガンで狙い撃った。


 そしてカタストロのビームは、パルシェール級を貫くと爆発し、艦内のASごと海へと沈んでいった。


 またクロックもパルシェール級はカレンに任せ、戦艦や護衛艦にミサイルやビームを撃ちまくり、攻撃を開始する。


 更にセルバンテスも側面から敵の攻撃に晒されていたが、一斉に武装を発射して対応していた。


 主砲のビームで貫き、そこへミサイルの雨。

 敵の攻撃は機銃・ビーム機銃や甲板のAS部隊が迎撃。


 その結果、奇襲のお陰で開始1、2分。既に敵艦隊の6隻の艦を沈めた。


 そこへ艦隊の上空をレインのイーグルも現れ、敵は大混乱となった。


『上空に青十字――いや<蒼い渡り鳥>の機体を確認! 猟犬やガルム中隊を落とした機体です!』


『機銃やミサイルも撃て! 奴を近づけさせるな!』


「もう遅い!」


 イーグルは一気に加速し、セルバンテスから反対側にいたパルシェール級を捉える。

 そして大口径バズーカ砲――タイラントを放つと、強い反動と共に弾頭は高速で迫り、パルシェール級を直撃した。


――瞬間、パルシェール級は大爆発と共に、文字通り吹き飛んだ。


『イーグル1 パルシェール級を撃沈!』


 オペレーターの嬉しそうな声が聞こえてきたが、レインはそれどころじゃなかった。


「艦一隻に対して過剰過ぎる武器だ……!」


 レインはそう言って額に汗を流すが、動きを止める事はしない。

 そのまま次々とパルシェール級へと撃ち、計画通り、ASを飛ばさずに全滅させ、敵ASは海の藻屑と消えた。


 そしてレインはカレン達の方も確認すると、同じくパルシェール級を3隻沈めており、これで敵ASは全滅。


 残りは敵艦だけとなり、セルバンテスにも被害は出ているが軽微だ。

 今のうちにレインは次の獲物を狙う。


「カレンとクロックも上手くやってくれたか……そして残弾は3か」


 レインは次々と迫る対空砲を避け、ミサイルを機銃で迎撃しながら次の目標を定めた。


 奇襲のお陰で、残りの艦は残り10隻。

 このまま押し切ろうと、レインは近くの戦艦と護衛艦へ一発ずつタイラントを放ち、沈める。


 『馬鹿な! 我が艦隊……奇襲如きで!?――空の三機を沈めろ! 母艦を幾らで潰せる!』


『駄目です! 当たりません! なんだ、あの青十字は!?』


『あれがエース狩りの渡り鳥か!!』


 カリュブディス艦隊からは悲鳴しか聞こえない。

 だが士気はまだある。炎上している艦からはまだ対空砲が飛んできており、管制室を潰すしかなかった。


「無駄に戦いが広がるか……なら最後の一発は旗艦を狙う!」


 イーグルはカリュブディス艦隊の旗艦――敵将軍、ダイダル中将の乗るカテドラル級を狙う。


 タイラントを向け、後は撃つ――その時だった。

 艦隊の背後の――海の中から巨大な艦が出現した。


 その姿は甲板が滑走路の様になっており、その姿にクロックとカレンも意識を向ける。


「あれは……!」


「あの形状……まさか――!」


『あんなものを隠していたか!――沈めろ!』


 アールの言葉にレインは、咄嗟にタイラントを潜水空母へと向ける。

 そして迷いなく発射し、弾頭が潜水空母へ迫った時だった。


『甘いなぁ!!』


 荒々しい声がレインの通信に割り込んできた。

 そして突如、弾頭は空母から放たれたビームによって撃ち抜かれ、空母手前で巨大な爆発を生んだ。


「新手……!」


 レインは何者かがいると、タイラント砲を捨ててビームガンへ持ち直す

 そして潜水空母を見ると、その上には1機のASが、ビームガンをイーグルへ向けていた。


『ゲームじゃないんだ! そう簡単に終わると思ったかい!!』


 そこにいたのは――青い機体。一つ目の機体だった。

 肩には一つ目の怪物<サイクロプス>のマークがあり、脚部の装甲は厚く、背部にはジェットが付いた翼もある。


 まさにワンオフ機か、カスタム機――エースの機体だった。  


「敵のエースか!」


『その通りだ!! 覚えておけ、蒼の渡り鳥! 俺こそがバルトロ共和国の魔獣! バーク・バークライだ!――さぁ! バーク・バークライ! サイクロス行くぞぉ!!』


 彼の言葉と共に空母から、次々と敵AS部隊が発進する。

 その光景にレインやカレン達の、操作レバーを握る手が強くなった。


――今、戦場は新たな局面を迎えるのだった。

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