第11話:新規メンバー加入

 レイン達イーグル隊は、アールからの作戦を聞いた後に格納庫に来ていた。

 それは愛機の調整の為であり、既に作戦準備に入っていた。


 だがカレンを始め、最初からいた者、新たな加入した者、全員の表情は暗い。

 アンダーアス基地攻略時と同じぐらいだ。


 そんな光景にレインも苦笑するしかなかった。

 そして機体が増えた事で、レインのイーグル・ストラトスEエアリアスと、カレンのエクリプスは隣同士になっており、仏頂面の彼女へレインは声をかけた。


「不安か?」


「そりゃそうですよ! 無謀です! 相手艦隊に奇襲攻撃なんて!」


「まぁ……普通はそう思うな」


 流石にレインも、これには反論するのは難しかった。

 前回のアンダーアス基地攻略は戦力――物理的な問題とも言えた。


 だが今回は、海流――自然を利用した作戦だ。

 運任せとしか言えなかった。


「だが、それでも機体チェックはしっかりやるんだな、イーグル2」


「そりゃしますよ! 死ぬとしても、やれる事を全部やってから死にますからね!」


 そう言って鬼の形相になる彼女を見て、流石のレインも顔を逸らした時だった。

 二人の下に近付いてくる男がいた。


「アハハハハ……確かに、中々に厳しい作戦ですからね」


 そう笑いながら現れたのは、スカイラス連邦の軍服を着た男だった。

 年は三十代ぐらいだろう。少し年季の入った金髪と雰囲気を持つ彼を見て、レインとカレンも調整の手を止めた。


「うん、君は?」


「お初にお目にかかります! わたくし、アンダーアス基地から補充となったクロック・コーグレー少尉であります! お願い致します! 隊長! 副隊長!」


「ふ、副隊長って……階級は同じで、歳はそちらのほうが上なんですから普通に話してください」


 クロックと名乗った男の呼び方にカレンは、少し気まずそうにしたが、クロックは譲らなかった。


「いえ! 階級が同じだろうが、年齢が上だろうが関係ありません。レッドアイ少尉が副隊長――イーグル2なんですから! それならば敬意を持つのは当然です、副隊長!」


「あ、はい……」


 カレンは少し気恥ずかしそうに頷き、クロックの圧に押され、何とか納得した様だ。

 彼女もクロックの話し方で彼の性格を察したのだ。

 年齢関係なく、階級や立場が上ならば敬意を示す、少し硬い人間なのだと。


 ただ悪い人間ではないとも察したので、カレンがそれ以上、何か言う事はなかった。

 逆に口を開いたのはレインだった。

 彼は端末を操作しながらクロックへ語り掛けた。


「君がクロック・コーグレー少尉だな。先程の作戦では陽動部隊を率いてガルム中隊を足止めしていたと聞いた」


「いえ、遊ばれていただけです。実際、彼等は基地の異変に気付いたらすぐに撤退しました。面目もありませんよ」


 クロックはそう言って、レイン達へ申し訳なさそうに頭を下げた。

 だがレインは、そんな彼を責める気は全くなかった。


「いや謝るな。寧ろ良くやってくれた。あのガルム中隊相手に生き残り、陽動した敵AS部隊も全滅させているじゃないか。君は優秀だ」


「そんな……あの英雄にそう言われて光栄ですよ」


「……君は信じるのか? 俺がレイン・アライトだと。偽物とは思わないのか?」


 レインは至極当然な疑問を口にした。

 艦内では地味に広がっている話だが、クロックは今日セルバンテスに入って来た人物だ。


 普通ならば10年以上、死人となっていた彼を信じる方がおかしかった。

 しかし、クロックは迷いなく頷いた。


「勿論です、アライト隊長! 実は……私はこう見えて、嘗てダルトン要塞で貴方に助けられた事があるのです。――あの時のイーグルの動き、そして今回でのガルム中隊と戦う貴方の動きは一緒でした。それだけで私は信じるに十分なのです」


「ダルトン要塞……か。また懐かしい話だ」


 クロックの言葉に、レインは懐かそうに思い出した。

 ダルトン要塞攻防――それは嘗ての大戦で多くの兵士やエースが死んだ戦場だからだ。


 それを生き残り、今回も生き残ったクロックが優秀だとレインは思った。

 実際、彼の動きのデータを見ても悪くない。


 部隊を支える立派な中堅パイロットだ。

 実際、アールからもイーグル3を与える様に言われており、レインも少しは安心できていた。


「そうか……ではよろしく頼む。イーグル3――コーグレー少尉」


「こちらこそ! よろしくお願いします!――では、私も機体のチェックをしてきます!」


 そう言って彼は二人へ敬礼し、自身の機体の下へと行ってしまった。

 そして彼が去ると、カレンは少し安心した様に肩を落としていた。


「ふぅ……ようやく、戦力の底上げがなったって気がします」


「まぁな。しかし、次の戦闘では互いに仕事をせねばな。今回、カタストロの補給は間に合わない様だから、カタストロを持つのは君だけだ。頼りにしているぞ」


「うっ……プレッシャー。――わ、分かりました!」


 カレンは少し苦い表情をするが、それを見てレインは笑う。

 何だかんだで、レインも彼女の腕を信頼しているのだ。


 そんなこんなで二人や周りは機体の調整を終えようとしていると、艦内放送が聞こえてきた。


『間もなくリヴァイア海流へと入る。入れば作戦開始となり、物音を立てる事は厳禁とする。準備が終わっていない者は急げ。そしてパイロットはスーツを着てコックピットで待機せよ!』


「そろそろ始まるか……」


「こうなったらやってやりますよ!」


 そう言って拳を握るカレンを見て、レインは頼りになると笑みを浮かべながらイーグルのコックピットで待機するのだった。

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