第9話:エースの行き先


 イーグルは四枚の翼を広げ、残りのガルム中隊へ飛んで行く。

 カタストロを撃ってけん制し、左手にはビームブレードを持って間合いを詰めていく。


 しかし、相手もこの局面まで残った生き残りだ。

 二機ともカタストロのビームを回避し、一機は途中で止まって腰部のビームガンでイーグルを撃ち始める。


 そしてもう一機――隊長機であるエリック機も、カタストロのビームを回避しながら高機動でイーグルへ間合いを詰めてきた。


『嘗めるな! その程度の攻撃で私をやれると思うな!!』


「だろうな!! 嘗めてないさ! 最初から!!」


 イーグルも敵の射撃を回避しながら突き進み、胸部の機銃で相手のカメラを狙い撃つ。

 そして運よく一部がカメラの当たり、エリックのブラッド・イーグルFの画面が僅かに乱れ続ける。


『この程度は許容範囲だ! 戦場では日常茶飯事だぞ! 小僧!!』


「これでも26だぜガルム中隊!!――貰った!」


『甘い!』


 両社は間合いに入ると、ビームクローとビームブレードでぶつかり合う。

 そして、その一撃で終わらないと判断するや否や、互いにすぐに距離を取り、射撃をしながら再び激突を繰り返す。


 そんな動きを高機動戦で行っているのだから、最後のガルム中隊のパイロットも驚くしかなかった。


『なんて奴だ! 隊長の動きに付いて行っているだと!? まさか本当にレイン・アライトが蘇ったとでも言うのか!』


 彼には付いていけない技量の戦いだった。

 迂闊に入れば、文字通りの無駄死で終わるだろう。


『これ程の技量のパイロットが、まだ連邦に残っていたとは! それ程の力を持ちながら何故、連邦に協力する!』


「平和の中で暮らしたい……そんな儚い夢の為さ」


 嘘ではなかった。

 レインのその言葉は、文字通りの意味だった。


 ただ平和の中で、平凡に生きたい。

 それだけの為に、レインは戦っていた。


『そんなものは幻想だ! その言葉で分かったぞ! 君もまた戦争を経験し、狂わされた者だろう! だからこそ分かる筈だ! 連邦――いや三大国家の作った平和の偽りを!』


「……まぁな」


 機体をぶつけ合いながら、レインも思わず納得する言葉だった。


 束の間とはいえ、確かに平和ではあった。

 しかし、それは三大国家にとって都合のよく、それに近い者達だけの平和だ。


 それでさえ、救われない者達がいる。

 目の前のエリックもそうだ。


『連中が我等に何をしてくれた! ただ勝っただけだ! 勝った側だからこそ、私は英雄――エースと呼ばれた! しかし負けた側はどうだ! 彼等はただの人殺しの烙印を押された! 同じ軍人として、私は見て見ぬ振りは出来なかった!――マシなのだ。こちらの方が! 何事も無かったように、金と酒と女に溺れる上層部よりかは!』


「言いたいことは分かる! だが、それでも戦争を起こしてどうなる! また繰り返しだ! 俺達の同類を生むだけだと分かるだろうに!――もう、あんな戦争はこりごりなんだ!!」


 レインはそう叫ぶと同時に、イーグルはブラッド・イーグルFを蹴り飛ばす。

 それでもエリック機は態勢を整えるが、同時にレインの言葉の重みを感じていた。


『君の言葉には実感が篭った重みがある……! 何者なんだ……君は!』


「レイン・アライト……死にぞこないのエースさ!」


『……まさか。生きていたのか!? 本当に君ならば、尚の事、何故に連邦に!』


「平和の中で暮らしたい、それだけだ! 俺だって憎いさ! 恨んでいる!――だが、それじゃ駄目なんだ! 俺達の同類を作るだけで、何も救われないんだ!」


 レインはそう言ってカタストロを放つが、エリック機はそれを回避する。


「戦いを止めろ! 俺達が戦っても得する奴がいるんだぞ! 分かるだろ!」


『分かるさ! それでも止められん! 私は君ほど、強い人間ではないのだ!』


 エリックはそう言って急速に接近し、ビームクローでカタストロを切り裂いた。

 

「くれてやるさ!」


 そんなカタストロをレインは、ブラッド・イーグルFへと投げつける。

 そして後ろの腰に備え付けたビームガンを取り出し、そのままカタストロを撃った。


 するとカタストロの巨大なエネルギーと反応し、大きな爆発を起こすと同時にブラッド・イーグルFを飲み込んだ。


『うおぉぉぉぉ!!』


『隊長! おのれぇ……!!』


 エリック機が爆発に飲み込まれた事で、最後まで残っていたブラッド・イーグルFがイーグルへ迫った。


 ビームクローを展開し、腰部のビームガンを撃ちながら迫る敵の攻撃をイーグルは回避しながら、此方からも接近していく。

 

 その迫る速さはブラッド・イーグルFを超えていた。


『速い!? 本当に旧式なのか! しかし! 自分も誇りあるガルム中隊なのだ!!――少佐! これがアナタの育てたエースの力です!』


 そう叫びながらビームクローを振り下ろすブラッド・イーグルFだったが、降った先にはイーグルは既にいなかった。

 

 気づけば背後にイーグルはおり、その手には降り終えたビームブレードがある。

 そしてブラッド・イーグルFの腰部には、斬られた跡があり、その数秒後に爆散した。


『アレェェン!!――クソッ! 私だけで生き残るものか! 決着をつけよう伝説!!』


「ここまでやって、引く気はないさ!! 行くぞ、最後の魔犬中隊!」


 両機はビームブレードとクローを展開し、互いに真っ正面から突っ込んでいく。

 そして交差した時、イーグルは羽を一枚奪われた。

 

――だが、ブラッド・イーグルFは機体の上半身と下半身が分かれていた。


『君は……俺達の様にならないでくれ……!』


 それを最後にブラッド・イーグルF――エリック機は爆散した。

 その戦果はすぐにオペレーターによって、戦場全てに放送される。

 

『イーグル1――最後のガルム中隊機を撃破! やりました! イーグル1がやってくれました!』


 その言葉を最後に、アンダーアス基地から戦いの熱が下がっていくのをレインは感じた。


――終わったのか。


 心の中でレインは、そう呟いた。

 まだ何も終わっていないのに、それでも呟いてしまう。


「……何が終わったんだろうな」


 やがて基地から降伏勧告が出る中、空でレインは一人、静かにその光景を眺めるのだった。

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