第8話:対決・ガルム中隊

 レインのイーグル・ストラトスEは、ガルム中隊の進路上の空で待ち構えた。

 それを見て、魔犬部隊のAS――ブラッド・イーグルFファングを駆る、彼ら7機は、獲物を見つけたと笑みを浮かべていた。


『アハハハハ! 本当に死人が蘇ってるぜ! 必死だな! 連邦も!』


『哀れですね。死人は甦らない。それなのに、偽物を使ってでも士気向上を計ろうとは……』


『ヒャッハー! 時代は変わってんのに、惨めだねぇ!』


 ガルム中隊の者達は、レインとイーグルの姿を見ても本物とは思っていなかった。 

 ただの英雄伝説を利用した連邦のプロパガンダでしかないと、彼はそう思っていた。

 

 だが、それでも油断していない者がいた。

 それは先頭を駆る、隊長機の男――ガルム中隊・隊長『エリック・ファーブル少佐』であった。


『こら各機! 油断するな! 情報では公国の猟犬――ガンマを討ち取った奴だぞ!』


 エリックは各機へ油断すると激を飛ばしながらも、カメラでまだ先にいるイーグルの姿と、その肩と翼に刻まれた<蒼い渡り鳥>を見て、表情を歪ませる。


『連邦め、どこまで腐っている! 当時、まだ子供だったレイン・アライト……彼を死なせただけではなく、彼の誇りすらも、まだ利用しようというのか!』


 連邦上層部の腐った考えにエリックは怒りすら抱き、操作レバーの握る手が強くなった。


『隊長! あれが敵の新型戦艦セルバンテスです! どうしますか! 何機かは敵AS排除と、戦艦鹵獲に分かれますか?』


『いやASさえ排除すれば、どうとでもなる! 陽動の連中も、あの程度の練度では我等ガルム中隊の敵ではない! まずは、あの偽物の英雄様の相手をして、敵の希望を挫くとしよう!』


 エリックはそう言って、通信チャンネルはオープンに変え、戦域へ自身の言葉を繋げた。


『聞け! 恥知らず、そして破廉恥で愚かな連邦の者達よ! 私は元スカイラス連邦、少佐のエリック・ファーブルである! 祖国の為に死した英雄を、安易に偽りとして蘇らせた事を後悔させてやる! 見てるが良い! 貴様等の希望が墜ちる所を!』


「……言ってくれる」


 凄い自信だなと、レインも思わず肩に力が入る。

 数は無勢だ。だからこそ、初動でどうなるかが決まると、レインも覚悟を決めて、スラスターを勢い良く出す。


 そして驚異的な加速で、ガルム中隊へ真っ正面から迫った。


『速い!?』


『アハハ! 真っ正面から来たぞコイツ! 薬物でもやってんじゃねぇのか!』


『あり得ますね。薬物強化、その可能性もありますよ』


『だが、正面から来る意気は良い。伊達に偽物でも英雄を騙っていないという事か!――だが! 我等がブラッド・イーグルのスピードを甘く見るなよ! 各機散開!』


『了解!』


 ガルム中隊の駆るブラッド・イーグルFは、一部可変が出来る少数生産のエース用量産機だ。

 それを彼等仕様にし、元の加速や速度の高さをそのままに、接近戦を強化した機体だった。


 バックパックの翼部だけが可変し、それは高速移動形態と呼ばれ、今回の様に万が一に対応できる様になっている。

 そして従来のAS人型形態になれば、中隊で高機動接近戦を挑むことも出来る。


 そしてレインのイーグルが突っ込んできたのを、彼等は高速移動形態のまま散開し、イーグルをその場に置いて行った。


――だが、それはレインにとっては敵が、自身へ勝手に背を向けたと同じだった。


「これを狙っていた。――捉えた!」


 イーグルもまた、減速せずにその場で宙返りし、その態勢で一機を狙う。

 そしれロックオンもせず、そのままカタストロを放った。


『なっ! 俺の動きが読まれ――』


 カタストロのビームは、そのまま中隊の一機を貫き、機体はそのまま爆散した。


『セイィィィ!!!』


『馬鹿な! あり得ません! あんな高速で動いて、瞬時に射撃だなんて!』


『なんて奴だ……クソッ! 各機! 応戦しろ!!』


 動揺する部隊員をエリックが声で現実に戻し、ガルム中隊はそれぞれ可変を解いたりと臨戦態勢を取ろうとした。


 だがまだ態勢が緩いとレインは見抜くと、一機のブラッド・イーグルに狙いを定めた。

 そして、その機体へカタストロを一気に照射し、薙ぎ払うようにすると相手も回避行動を取ったが、その両足はビームによって切断される。


『なっ、なんだと!? 私程のパイロットが! 両足の取られたのか! マズイ! 機体のバランスが――!?』


 両足を損失した事でスラスターのバランスが崩れ、そのブラッド・イーグルは残ったスラスターを吹かしながらも、そのまま落下していく。


 だが地面に落ちることはなかった。

 それよりも先に、セルバンテスの方角からビームが飛んできたのだ。

 

 そして、そのまま機体を撃ち抜くと同時に、ブラッド・イーグルは爆散した。

 

「今のは……!」


 レインも良い腕だと思って、咄嗟にビームの方角を見る。

 すると、そこにいたのは同じ大型ビームガン・カタストロを向けている、カレンの駆るエクリプスがいた


「あ、当たった……!」


 カレンも狙っていたとはいえ、本当に当たった事で自信をつけた。

 そして、それは動きで表すかのように、セルバンテスへ接近する連合AS<アウェス>をビームブレードや機銃で撃墜していった。


 けれど、それに堪ったものじゃないのがガルム中隊だった。


『ソリスゥゥゥ!!』


『馬鹿な! 僕たち、ガルム中隊が1分足らずで2機も撃墜されたなんて!』


『許さん! まずは貴様からだ亡霊ぃぃぃ!!』


 ガルム中隊の1機が逆上し、人型形態へと変形する。

 そして両腕の各三つのビーム刃――ビームクローを展開し、イーグルへと迫った。


「迂闊な奴だ!」


 だがレインに動きを見切られていた。

 彼は本来、邪魔になる筈のカタストロを持ったまま、左腕でビームブレードを取り出し、その場で迎え撃つ構えを取る。


『俺達は最強のガルム中隊だ! それを貴様等如きにぃぃぃ!!』


 相手も接近戦をするのだろうと、イーグルに迫るブラッド・イーグルは、そのまま突っ込んできた。

 だが直後、イーグルは背部の大型の翼四枚を羽ばたかせる。


――瞬間、がブラッド・イーグルを襲った。


『しまった! ビームソニックか!?』


 それはビームを波の様に、薄くも拡散する武装であった。

 決して決定打になる火力ではないが、それは敵の装甲を待ちがないく融解させ、武装やスラスターの穴にも障害を出させていた。


『クソッ! 下がるしか――』


「もう間合いだ――!」


 無理して下がろうとしたブラッド・イーグルは、既にレインの間合いへ入ってしまっていた。

 歴戦のパイロットの間合い。そこへ迂闊に入ると意味――それは死だった。


「こちらを嘗めたな! 迂闊な行動ばかり!」


 イーグルはビームブレードを下から斜めに振り上げ、ブラッド・イーグルを両断する。


『う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!』


『イーグル1――敵を撃墜! 凄い……!』


 断末魔と共にブラッド・イーグルは爆散し、オペレーターからレインは褒められたが、彼自身は敵ながら、怒りを抱く程の驕りを、彼等から感じ取っていた。

 

 だが既に3機も撃墜したのは確かであり、その活躍は敵にも動揺を広げていた。


『悪夢だ!? あのガルム中隊が来て数分も経たずに3機も!』


『誰か! あの青十字を落とせ! 戦艦は後でいい!』


 地上のアウェス部隊も、空へビームや実弾を放ってイーグルを狙う。

 しかし、その背後から地上部隊の戦車部隊が一斉砲撃をアウェスへと浴びせる。


「空を援護しろ! エースを死なせるな!」


「AS以外の戦いを教えてやれ!」

 

 地上部隊の士気もレイン達の活躍によって高まっており、基地へも周囲への敵にも一気に攻め上げていた。


 それに堪ったものじゃないのがガルム中隊だ。


『ヒャッハー!! テメェは俺の獲物だ!』


『挟め!』


 イーグルの前後から2機のブラッド・イーグルが襲来し、両機共にビームクローを展開していた。


「チッ――!」


 ここに来て魔犬が牙を向いた。

 イーグルは正面からのクローを受け止めるが、背後からもビームクローを出して、もう1機が迫る。


『亡霊の旧式がぁ!!』


「嘗めるな! 旧式だろうが、コイツには俺を生かして帰した実績がある!」


 自身の愛機を貶された事で、レインの脳内がクリアになり、一気に動きが加速した。

 まるで背後に目があるように、タイミングを合わせて翼を広げ、その翼からビームが何本も展開される。


『ぐっ、ぐおぉぉぉぉ!!』


 それは背後から迫ったブラッド・イーグルを串刺しにすると、イーグルは、そこから目の前の敵に蹴りを入れ、間合いを取った。


『チッ! 小癪な!』


「なら小癪ついでに持ってけ!」


 イーグルはビームブレードをしまうと、背後で糸が切れたように放電するブラッド・イーグルを目の前の敵機へ投げつけた。

 

 そしてカタストロを放ち、その投げた機体は爆弾の様に大きな爆発を起こし、目の前の敵機を巻き込んだ。


『ぐぅっ! クソッ! クソックソッ! ガルム中隊の若きエースと言われた俺が! お前みたいな偽物なんかに!』


 爆煙から飛び出し、そう叫ぶブラッド・イーグルは装甲が割れ、一部焦げていたが、まだ動いていた。

 

 しかし動きは同じで、また真っ正面からイーグルへ突っ込んでくる。


『待て! アーライ! 迂闊だ!』


『待ってろ!』


 流石に危険だと判断したエリック達が、援護しようとスラスターを吹かすが、時すでに遅かった。


 レインは相手の力量を既に見抜いていた。

 そして接近と共にイーグルは、回し蹴りで相手のクローを弾くと、もう片方の脚部――足の裏にあるサブスラスターの火を、相手のコックピットへ当てる。


『あっ! 熱い! あついぃぃ!!』


 敵機はパニック状態となり、腰部の備え付けのビームガンを乱射するが、それはイーグルに当たらず、最後は彼によってビームガンを撃たれて爆散する。


『アーライ!!』


『イーグル1 更に撃墜! 残り2機です!』


 オペレーターの言葉にレインは、すぐにレーダーを見ようとしたが、それよりも先にロックオンアラートと、ビームがイーグルへと放たれていた。


 それをイーグルは回避しながら、そのビームの方角を向くと、そこには隊長機のエリック機と、最後のガルム中隊機の2機が迫っていた。


『ば、馬鹿な! あんな旧式で……我等、ガルム中隊が壊滅状態だと……!?――まさか、本当にレイン・アライトとでも言うのか。いや馬鹿な、彼は死んでいるのだ! 貴様は何者だ!』


「……亡霊さ。眠りそこなった、な!」


 レインはそう叫び、イーグルの翼を広げて彼等へと飛び出していった。

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