第6話:スカイラスの魔犬

 翌日、早朝にはセルバンテスは、スカイラス連邦・本土――その南部に入った。

 その目的は、海辺が近い以外、これといった特徴がないアンダーアス基地。

 

 だが、今の連邦にとっては本土奪還の最初の拠点であり、重要度は本来よりも高い基地となっていた。


 そして、その基地を目と鼻の先に捉える中、レインとカレン達は最後のブリーフィングを行っていた。


 ブリーフィングルームでは、艦長でもあるアール大佐が作戦を説明しており、ディスプレイにもアンダーアス基地の地図が表示されていた。


「まずアンダーアス基地の関してだが、これと言って特徴はない。流通や海辺に近い場所に基地が欲しかった為に出来た基地だからな。――しかし、現在の我々にはそれでも喉から手が出る程、欲しい基地だ。何故なら、基地には兵站が蓄えられているからだ。それを元に本土奪還、及び友軍援護の為の拠点とする」


「だが防衛兵器は最低限はあるんだろ?」


「その通りだ。これを見てくれ……周囲で抵抗している友軍からの情報だ」


「えっ、友軍? でもいないという話では……」


 アールの言葉にカレンは困惑した様子で問いかけた。

 するとアールは、少し嬉しそうに笑いながら答えた。


「それはヘブンクラウド基地から……という話だ。アンダーアス基地周辺でも、連合に反抗している正規軍もいる。今回、彼等が力を貸してくれたんだ」


「良かったぁ……私達だけじゃないんだ」


 カレンは少し安心した様に胸を下ろした。

 だがレインは少し気になった。


「だが彼等はどう動くんだ? 実際の基地攻略だけは俺達だけじゃないのか?」


「……その通りだ。彼等は周辺で陽動をし、少しでも基地の戦力を減らす様、頑張ってくれる様だ」


「まぁ……楽になるなら嬉しいけど」


 攻略は自分達と歩兵部隊でやる。

 それを聞いても、最初に友軍無しと聞いていた事もあって、今の話にカレンは納得した様に頷いた。


 だが、問題はその防衛がどのくらいの規模だと言う事だ。


「防衛の規模は?」


「最低限の防衛用の固定機銃が多数。そして戦車隊・対空砲も確認されている。また、ヘブンクラウド基地を襲った連合のAS<アウィス>も数機確認されている」


 そう言ってアールがディスプレイに映した映像には、空戦型アウィスと、対空ミサイルを肩に付けた陸戦型のアウィスが、基地の各地に配置されている映像だった。


「この映像だけでも敵ASは18機確認されている。そして装備を見る限り、敵は空を警戒している様だ」


「並みの戦車や装甲車では、ASに敵いませんからね。そうなると、空かのASによる攻撃しか……」


「いや、その為のセルバンテスだ。出し惜しみはしない。全砲門を開き、一気に薙ぎ払う気で行くぞ」


 アールは自身の女性秘書官にそう言って、映像に予想図を映し出した。

 レインも、確かにこれなら陸戦のASや戦車隊を蹂躙でき、そのまま歩兵部隊を基地へ投入できると感じた。


 どの道、空でのAS戦は避けられない。

 ならばセルバンテスも前線に出た方が助かると、レインは思っていたが、彼にはまだ知りたい事があった。


「それで……防衛のエースは誰だ?」


「……だ」


 アールは言われる事を予想していた様に、すぐに画面にとあるパーソナルマークを表示した。


 それは首輪を付けた赤黒い、荒々しい犬のマーク。

 そして、そのマークを見たカレンや一般パイロット達は思わず立ち上がった。


「これってまさかのマーク!」


「スカイラスの魔犬部隊か! あの七機が防衛しているのか!?」


 それはスカイラス連邦。つまり彼等にとって、元同胞が相手を意味していた。


 そして相手のスカイラスの魔犬――通称:ガルム中隊。

 彼等は七機で編成された、スカイラス切ってのエース部隊であった。


「噂じゃ、領空侵犯した機体を、相手が自国に逃げても追いかけて撃墜したって話だ」


「そんな連中が七機なんて……大丈夫なのか?!」


「大丈夫だ。彼等は俺が相手をする」


 不安からの騒々しさを黙らせたのはレインだった。

 レインはヘルメットのバイザーの汚れを拭きながら、まるで簡単な作業の様にそんな事を言った。


「そんな……大丈夫なんですか! 相手は教科書にも載ってる様なエースなんですよ!」


「教科書なら俺も載ってるだろ? まぁ死人としてだが……だが、実際やれる相手が俺しかいない。それ以外は母艦と陸戦隊の援護だ」


「でも!」


「カレン少尉!――この艦のAS部隊の隊長は彼だ。意見は許されん。既に陸戦部隊は地上で待機している。これ以上の言葉は時間の無駄だ」


「そんな……!」


 アールの言葉にカレンは心配そうな顔で黙ってしまったが、それを見てレインは優しく笑い、立ち上がって彼女の肩を叩いた。


「俺の帰る場所、頼むぞ。まだ食器洗いが終わってないんだ」


「っ!――は、はい!」


「お前達も頼んだぞ! 作戦成功した時は俺が奢るからな!」


「えっ……お、おぉ!」


「英雄からの奢りか!」


 レインはそう言って周りの士気を盛り上げる。

 だがそれは不安を一人で背負う様なものだが、彼は笑ったままだった。


――昔も、あの人はそうやって私達を助けてくれたな。


 そんな彼の姿にアールは懐かしそうに昔を思い出すが、感傷に浸りそうになるを必死に堪え、全員へ命令を出した。


「ではこれよりアンダーアス基地攻略作戦を発令する! パイロットはASで待機し、発進を待て!――またイーグルとエクリプスには新型の大型ビームガン『カタストロ』が配備された。うまく使う様に!」


「了解!」


「では頼んだ……イーグル隊の諸君」


 アールはそう言って敬礼し、レインも敬礼すると、一斉にカレン達も敬礼した。

 

――イーグル隊・レインを隊長機<イーグル1>とし、カレンが副隊長<イーグル2>とした部隊。


 これより、同胞だったエース――魔犬との戦い。

 そして、世界解放の第一歩が始まろうとしていた。

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