第二章:アンダーアス基地攻略
第4話:世界解放作戦発令
あの放送を聞いた後、レインはカレンの乗るエクリプスを持って、セルバンテスへ帰還した。
そしてイーグル・エアリアスから降りて、その場を後にしようと、歩いて去ろうとしていた時であった。
「待ってよ! 貴方は! 本当にレイン・アライトなの!?」
後ろが騒がしいと、レインはヘルメットを被ったまま振り返った。
そこには、メカニックや警備兵に止められているカレンがいた。
「……その内、分かる」
どうせアールが色々と言うだろう。
それに今後は戦争だ。ブリーフィングもあり、顔を合わせは幾らでもあるとレインは、それだけ言って去って行った。
「こらぁ! ハッキリ言え! それとお嬢さんって言葉を取り消せ!」
「……執念深いな」
あんな命のやり取りをした後に、そんな事が言えるなら大したものだとレインは笑った。
そして今度こそ、この場から去ろうとした時だった。
艦内放送が響き渡った。
『これより緊急ブリーフィングを行う! 全パイロットは第二ブリーフィングルームへ至急集まれ!』
「だそうだぞ、お嬢さん?」
「あぁ! またお嬢さんって言った!!」
いつまでも騒ぐカレンをからかいならが、レインは彼女と共にブリーフィングへと向かうのだった。
♦♦♦♦
ブリーフィングルームに向かったレインとカレンを待っていたのは、アールと彼の補佐官。
――そして生き残ったパイロット4名だけだった。
「えっ……これだけ? だって、あんなに……皆いたじゃない!」
「生き残りはこれだけだよ、カレン少尉」
アールの言葉にカレンは言葉を失い、他のパイロット達も顔を下へ向けた。
「……もっと早く、俺に出撃しろって命令するべきだったと思いますとアール大佐」
「……そうですね、隊――いやレイン中佐」
「中佐とは……随分、好き放題する。――それだけ死んだのか?」
レインは笑いながらそう言ったが、すぐに真剣な表情でそう問いかけた。
するとアールは静かに頷く。
レインが覚えている限り、自身の階級は食堂係でも大尉だ。
それが今では中佐だ。それだけ好きに階級を上げる事が出来る程、今は人がいないのだと周りはすぐに気付いた。
「また、こんな気持ちにならないといけないのか。――ほら、ブリーフィングが始まるぞ」
「でも……皆が――!」
カレンが覚えている限り、24人はいた筈だった。
それが自分達を覗いて、今は4人。
彼女の悲しみは仕方ないものであったが、カレンの肩をレインは軽く叩いた。
「一度、戦争が始まれば、泣くのは全部終わってからだ。そうじゃなきゃ、キリがなくて引っ張られるぞ」
そう言ってレインはヘルメットを外し、青い髪と共にカレン達へ素顔を晒した。
「えっ! 食堂係のクラウド君!?」
「えっ……アナタが伝説のレイン?」
周囲の者が驚いた声を出し、カレンもレインの素顔を見て驚いた表情し、涙が止まった。
そんな周囲の反応を見てレインは小さく笑うと、アールの方を見た。
「大佐、始めましょう」
「そうだな。早く座ってくれ」
アールの言葉にレインはカレンを誘導し、ガラガラなルーム内に腰を下した。
「ではブリーフィングを始めるが、現在の状況は最悪だ。まず<スカイラス連邦><ディスピア公国><バルトロ共和国>の三大国家。その一部の国々が独立を宣言し『クレセント連合国』を名乗った。首謀者は映像からして、ディスピアのフェリル元帥と見ている。そして少し前に入った情報だが、そのディスピアは陥落するとの事だ」
「噓! 三大国家の一つがなんで!?」
「成程、ベテランが一斉に抜けたか。後は適当に基地を落として降伏……か?」
驚愕するカレンと違い、レインは冷静に問いかけた。
既に彼は把握していた。もしもの中で最悪のケースを。
敵にバルトロの狂犬――エースのガンマがいたのだ。だから想像は容易かった。
そして、アールもまた、その言葉に頷いた。
「その通りだ。ディスピアだけじゃない。全ての国から大半のベテラン、そしてエース達が反乱を起こして連合へ下った。それにより『クレセント連合』は最強の陸軍と空軍を得たのだ。そして各国に宣戦布告し、今も多数の基地が陥落している」
各国のエースが一つに纏まり、敵に回った。
そして宣戦布告し、周囲に侵略している。
「しかも全ての国家の技術が集まっている。先程の新型もASも、その恩恵だろう」
それはきっと悪夢なのだろう。
新型のASに、最強の腕を持つ各国のエース達が敵に回ったのだ。
「だが不幸中の幸いなのは、このヘブンクラウド基地は防衛出来た。そして各国の要人を始め、生き残っている者達によって世界解放作戦が発令された」
「どうやって?」
「今、各国で残存戦力を纏め上げ、今も抵抗している基地を援護する流れだ。そして私達も、その作戦に参加し世界を回るぞ。――まずは、この島から北だ。本土にある、一番近い基地――アンダーアス基地を攻略する」
「戦力は?」
「……今ある戦力でだ」
「ふざけないで! これ以上、皆に死ねって言うの!? 基地からの補給は!」
アールの言葉にカレンは怒りで立ち上がった。
しかし大佐への言葉遣いに注意する者はいなかった。皆、同じ気持ちだからだ。
ただレインは予想していたのだろう。
何も言わず、ヘルメットを磨いていた。
「少尉、ここには各国の要人がいる。しかも自国にも戻れない方々だ。この基地に守る為の戦力がいるんだ。一応、陸戦隊とASの補充や修理だけはしてくれるそうだ」
「それでも……AS6機で基地を攻略なんて!」
「ただの6機ではない。あの死地を生き残った5名と、蘇った伝説のパイロットだ。――紹介しよう。嘗ての大戦の英雄・レイン・アライト中佐だ」
「この人が……?」
アールの言葉にカレンや周囲の者達が、レインへ一斉に視線を向けた。
その反応に彼は小さく笑うと、ヘルメットを持って立ち上がった。
「英雄なんて沢山いたから、よく分からないな。――あの大戦で死んだ者達だけが英雄だ」
「どこへ行くんだ?」
「機体の調整だ。どうせ、作戦開始も早いんだろ?」
「……まぁな」
アールがそう言うと、レインは振り返る事もせずに格納庫へと歩いて行く。
そして、少し経った後、カレンも立ち上がってレインの後を追うのだった。
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