第3話:蘇る翼

 クラウド――否、死んでいた筈のエースパイロット、レイン・アライトは愛機と共に空から舞い降りた。


 そして茫然としていた一般兵が扱うアウェスを横切る際に、そのままビームブレードで斬り裂いた。


『ば、ばかな……奴は……死ん――』


 そう言い残して機体は空中で爆散した。

 

『なっ! 馬鹿者! 撃て! 撃て!!』


 ガンマの言葉を受け、一斉にビームや実弾の嵐をイーグル・ストラトスEエアリアスへ放ち始める敵AS部隊だが、それよりも高機動で真上へ上がり、日差しが彼等の目を襲った。


『ぐっ! 小賢しい!』


『落とせ! 奴は死んだ人間! 所詮はスカイラス連邦の浅知恵だ!』


 一斉掃射しながら、脚部のミサイルも上空へ放つアウェス部隊。

 しかし途中で大きな爆発が起き、爆煙が目くらましの様にイーグルの姿を隠した。


 そして、その煙を搔き消しながらイーグルは現れた。

 落下速度も合わさり、とんでもない速度で彼等へ迫る。


『は、速いぃ!』


『臆するな! 接近戦だ!』


 二機はビームブレードを抜き、自分達も迎え撃たんと逆にスラスターへ火を入れ、一気に駆け上る。


 しかし、両者ぶつかるといった直後、イーグルは翼を広げて機体を回転させた。


 そして翼の先端部分の羽部から、ビーム刃が展開。

 そのまま回転と同時に二機を斬り裂いた。


『あっ……あっ……ま、まさか――』


『生きて……いたのか――』


 その言葉を最後に機体は爆散し、その常人離れした動きに敵の動きも鈍り始める。

 

『隊長! 奴は想定外です! ま、まさか本物の可能性も――』


……あの動き、見間違うものか! 私は奴と戦い、相棒や部下を失ったのだ! それを! 仇を見間違うものか!!』


 ガンマはそう叫び、イーグルへと突っ込んでいった。


 それにレインも気付き、イーグルの胸部機銃と右腕のビームガンで迎撃する。

 だがアウェス改は、それを回避して間合いへと入った。


『私を覚えているか!! あの時! 貴様が全てを奪ったのだ! 相棒も! 部下も!』


「戦争していていたんだ! アンタも同じだろうに!」


『その声……! 分かるぞ! 多少は変わったが、それでも分かる! 本物だなレイン!!』


「あのマーク。見覚えがある……そうか! お前か、バルトロの狂犬め!!」


 バルトロ共和国。それがガンマの所属していた国であった。

 三大国家の一つで、彼は戦争中にレインへ仲間達を大勢殺されたのだ。


『やはり死んだ筈がなかったな! 貴様が!!』


「なんで戦争をまた起こす! 俺達の同類を生み出す気か!」


『違うな! 忘れさせん為に起こすのだ! 何度でも! 平和など! 屍で築いている以上、平和などではないわ!!』


 両者はビームブレードを何度もぶつけ合い、同時に気持ちもぶつけ合った。


 互いに譲れないものがある。

 だから互いに多少でも分かる気持ちがあるが、止める事はできなかった。


『始まるのだ小僧! 再び新たな戦争が! 大きな戦いが!』


「させるか!」


 アウィス改は一旦、距離を取り、今度は助走を付けてビームブレードをイーグルへ向け、再度迫った。

 そこへタイミングを合わせ、イーグルは回転蹴りでビームブレードを弾き落とす。


『しまっ――』


「眠れ!!」


 レインは、その一瞬の隙を見逃さなかった。

 そのままイーグルのビームブレードを振り下ろし、アウェス改の左半身を両断する。


『ここまでか……』


 アウェス改は、それでも空中に浮いていたが、一気に火が噴き、スパークが発生。

 やがて、爆発し始めた時にレインは確かに聞いた。


『もう……止められ……ぬ……引き金は……引かれた……のだ――』


 その言葉を最後に、アウェス改は爆散する。

 そして、その光景を見て敵AS部隊は退いて行った。


「終わりじゃないのか……」


 だがレインの表情は暗かった。

 彼が最後に言った言葉。きっと意味がある言葉だからと。


「凄い……!」


 そんな時だった。通信でレインがカレンの声を聞いたのは。


 レーダーですぐに確認すると、背後に中破レベルのエクリプスがギリギリで浮いている状況であった。


「手を貸すぞ。流石に限界だ」


 レインはすぐにイーグルを傍に寄せ、彼女のエクリプスを抱き抱えた。


「大丈夫かい――お嬢さん?」


「なっ! お、お嬢さん扱いしないでよ! 私だって主席で卒業したエースなんだから!」


 そう言って、カレンは顔を真っ赤にして怒った。

 レインも、画面に映る彼女の顔を見て、バイザーのヘルメットの中で笑っていた。


 こちらの素顔は見えていないだろうが、それでも新兵らしい反応に、静かに笑ってしまっていた。


「それは失礼した。パーソナルマークが見えなかったからな」


「うっ……それは……!」


 既に彼女の赤い鳥はボロボロとなっており、傷のせいで、まるで羽を縛られた鳥の様に見えた。


「まぁ良い。まずはセルバンテスへ戻ろう」


 レインはそう言ってセルバンテスの甲板へ、エクリプスを運んだ時であった。


 機体を始め、セルバンテスの画面全てに広範囲でハッキング映像が映されたのだ。


 画面に映ったのは、それぞれ違う軍服の軍人達だった。

 そして真ん中に立つ、貫禄ある黒い軍服を着た、スキンヘッドの軍人が話し始めた。


『これを聞いている者達、全てに告げる! 我々は三大国家からの呪縛より独立し、連合国家『クレセント連合国』の樹立を、ここに宣言する!! 同時に腐りきり、偽りの平和を謳歌する者達へ! 我々は天よりの鉄槌を下すと決めた。――これより、我々『クレセント連合国』は全ての国家に宣戦を布告するものとする!!』


 それは新たな戦争の幕開けであった。


――そして数時間後、三大国家の一つ『ディスピア公国』が陥落したとの報告と共に、世界各国の基地が、彼等に襲撃されたとの報をレイン達は聞く事となった。

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