第2話:若きエースの攻防

 その頃、基地の地上周辺、セルバンテスの周りの空では、激しいAS戦が繰り広げられていた。

 

「くそっ! どこの連中よ! コイツ等!」


 赤髪の女性パイロット――カレンは、自身が受理した最新機<エクリプス>を駆り、何とか周囲の敵勢ASと戦っていた。


 背部の小型化された翼型のスラスターを使い、高機動戦闘でビームガンや、実弾のマシンガンを撃って牽制。

 怯んだところを狙い、ビームブレードで1機、2機と斬り裂いていく。 


 けれども、敵勢ASの数が途切れる事はなかった。


「どうなってるの、この数! 基地なのに、こんなに入られたの!?」


 カレンは焦りや不安を抱いたが、今展開している部隊で新型機のエクリプスに乗っているの自身だけだ。


 しかもパーソナルマークまで貰っているのだ。


 だから彼女は、マークである<空を裂く赤い鳥>を裏切らない為、彼女は深呼吸し、周囲を援護しながら戦っていく。


 しかし彼女の援護虚しく、味方は苦戦を強いられていた。


「基地の地上ASはなにやってんの! 下からも撃たれてるんだぞ!!」


 セルバンテス所属のAS部隊――鳥の様な簡易的デザインの翼を背部に付けた人型機体<イーグルヘッドⅡ>の中で、パイロット達は叫ぶ様に戦っていた。


「くそっ! ビームも当たらねぇ!!」


「だったら実弾を撃て! 撒けば当たる!――うわぁ!?」


 地上に意識を向けた瞬間、空中から接近してきた敵勢ASに1機のイーグルヘッドⅡにバズーカ砲が直撃し、撃墜された。


『ふん! なんと他愛ない! この我等がAS<アウェス>の前に、何も出来ずに落とされるとはな!』


『良し! 一気に新型艦を囲め!』


 一つ目のカメラで、厚い装甲を纏い、背部には戦闘機を丸々くっ付けた様なバックパックを持つ赤い機体<アウェス>が、セルバンテスを包囲しようと部隊展開する。


「させない! エクリプスを舐めるな!!」 


 カレンは味方が落とされる中、1機で数機も足止めしていた。

 そして隙を見付ければ腕を奪い、シールドで攻撃を受けて反撃をして撃墜させるなど、孤軍奮闘の活躍を見せる。


 そして、その姿は敵にも存在を認識される程だった。


『隊長……あの新型機、かなりできます』


『どれどれ?――ほぉ良い腕だ。しかもエースの証を刻んでいるとはな。将来、かなり良いパイロットになっただろうな。だが、動きが若い――!』


 そんな中で指揮官機らしき、アンテナや各部パーツが違う機体が現れた。

 言うなれば指揮官用アウェスであり、その肩にはエースの証――<赤い月の猟犬>のパーソナルマークが刻まれていた。

 

 その指揮官用アウェス――アウェス改は、他の部下にハンドサインをすると、そのままカレンのエクリプスへと向かって行く。


「っ! 新手! しかもパーソナルマークを持ってる!?」


『さぁ! をしようではないか!』


 高速で射撃をしながらエクリプスへ迫るアウェス改に、カレンはスピードならばエクリプスが上だと、後方に下がりながら射撃で迎撃していく。


『甘いな! その様な動きだけで勝てると思うな! エースの仕事は勝つ事だぞ!!』


 エクリプスの最高速度は、確かにアウェス改を上回っていた。

 しかし、それでも両者の距離を縮まらず、徐々にカレンは追い詰められていた。


「そんな! 速度はエクリプスの方が上なのに! これがエース!」 


『その通りだ! これが私――三大国家の元エースの力! <紅の猟犬>と呼ばれた<ガンマ・ガルファス>の力よ! さぁ、止まっている暇があるのか!』


 スラスターを多少、休ませようとエクリプスが空中で止まったところを――ガンマが駆る、アウェス改がバズーカ砲を連射した。


「舐めるな! そんなもの当たるか!!」


『当てるのだよ!!――こうやってな!』


 ガンマはバズーカの弾頭がエクリプスの傍に来た時、そこをビームで的確に撃ち抜いた。

 そして、タイミング良く誘爆する弾頭の爆風にエクリプスが呑まれた。


「きゃぁぁぁ!!――うっぐ! 死にたくないぃ! 死んでたまるか!!」


 カレンは必死にエクリプスを操作し、爆煙から飛び出すとエクリプスの左腕部が吹き飛び、背部の翼も一部欠けていた。


 それでもカレンは必死に敵を見据え、左腕のビームガンと肩部の備え付けた小型バズーカ砲を撃っていった。


「意気や良し! それでこそエースよ! だが残念なのは敵同士と言う事よ!! 部下ならば褒めたが! その程度の攻撃! 嘗ての戦争を生き抜いた私に通用せん!」


 カレンの攻撃は歴戦のエースであるガンマには通じず、アウェス改は上下左右に動き、嘲笑うかの様に回避した。

 そして一気にエクリプスに接近し、自身のビームブレードを振り上げた。


「あっ――」


 それを見てカレンは死を予感し、走馬灯が一気に押し寄せた。

――時であった。エクリプスが友軍の通信を捉えた。


『レイン・アライト!――イーグル・ストラトスEエアリアス! 出る!』


「えっ――!」


『なっ――!』 


 その名前は、まさか――


 味方にも敵にも伝わる通信の声に、誰もが言葉を失った時だった。

 エクリプスとアウェス改の間をビームが横切り、それはアウェス改のビームブレードを破壊した。


『チッ! しまった!』


 だが、それだけでは終わらず、何度回避しても途切れないアラートがガンマをおそった。

 そして次々とアウェス改目掛けてビームが降り注ぎ、ガンマも流石に距離を取った。


『この私が……読まれているのか!? まさか、本当に――!』


「なに……あの機体」


 今だけは戦いの音が止んでいた。

 敵も味方も、全てが空を見上げていた。

 

 何故ならば、そこにいたのだ。

 嘗ての伝説を体現した様な機体――四枚の翼を持つ白き機体が。

 そして、その肩と翼に刻まれていたのだ。


――死んだはずのエースの証。<蒼い渡り鳥>のマークが。


『お願いします……レイン隊長』


「今はお前の方が階級は上だろ、アール。――だが任せろ、これより戦場を渡る」


 今、伝説は蘇り、死んだと思われたエースは舞い降りた。

 そして、そのまま敵の下へと飛び立った。



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