第一章:ヘブンクラウド基地防衛

第1話:ヘブンクラウド基地襲撃

 戦艦セルバンテス内の食堂に、一人の青年――クラウド、と書かれたネームバッチを付けた青髪の青年がいた。


 既に外の状況は艦内にも知らされており、艦内全てに警報が鳴り響いていた。


 けれども青年は気にしていない様子で、慣れた様子で、先程まで軍職員達が食べていた食器を洗っている。


 たまに被弾したのか、艦が揺れるが気にせずにクラウドは食器を洗い続ける。


 何故なら、彼は調理部門の職員だからだ。

 少し揺れたり、激しく揺れても彼は手を止めず、やがて静かに呟いた。


「また戦争か……」


 それだけ言って、彼は目の前の仕事だけに集中するのだった。


♦♦♦♦


 セルバンテスのブリッジでは、嘗ての英雄――アール・ディスレイがいた。


 警報に出撃した各機。また要人・軍関係者からの救助や攻撃要請の通信で混乱を極めていた。


『当たらない! 誰か援護を! 敵は手練れだ!――ぐわぁ!』


『連中の機体は高性能だ! このままじゃ防衛は――うわぁ!!』


「スカイ4! スカイ8! 撃墜!」


「敵は東の海岸から多数のASを展開! 基地の防衛兵器を破壊し、部隊も基地内で交戦開始!」


「現場からカルラン中将より攻撃要請!」


「無理だ! 各国要人がまだ避難中だぞ!」


「スカイ2! スカイ6! スカイ7 撃墜!――きゃぁ!?」


 敵ASの攻撃がセルバンテスに直撃する。

 

ディスプレイには被弾箇所・火災発生・自動消火完了など、あらゆる情報が出ている。 


 そんな中、アールは静かに状況を見ていたが、戦況は芳しくなく、やがて口を開いた。


「現在、残っているASは?」


「地上の基地部隊のはまだ把握していませんが、艦から出たASの残りは7機です!」


「……残った者達の情報を私の画面へ」


 その言葉にオペレーターは急ぎ、アールへ情報を転送した。


 そして彼の画面には7人のパイロットの顔写真が表示され、アールはその中で一人気になる女性パイロットの画面をタッチする。


「カレン・レッドアイ――軍学校でAS操縦技術を主席で卒業か。どうりで新型のエクリプスに搭乗している筈だ」


 赤髪の彼女は生き残る可能性が高いと、アールは判断して他のパイロットを見た。

 

 しかし他はベテランパイロットではあったが、搭乗機が嘗ての英雄の愛機。 


 AS――『イーグル』

――の量産機<イーグルヘッド>を近代改修した<イーグルヘッドⅡ>だ。


 しかし軍縮もあって<イーグルヘッドⅡ>は既に旧式化している。


 それでもテロリストには十分な性能なのだが、アールの目には基地所属の機体が、次々と撃墜されていく姿だった。


「練度もあるが、やはり敵勢ASの性能が違う。このままでは……」


 アールの脳裏に全滅は免れても、セルバンテス鹵獲の嫌なシナリオが思い浮かんだ。


「やむを得ない……あの人の力を借りなければ。――少し外すぞ」


「えっ! 艦長!?」


 部下の言葉を無視し、アールは目の前のデスクにあるスイッチを押すと、彼を包む様に小さなドームが出来上がる。


 機密保持の為の装置で、その中でアールは、艦内にいるであろう人物へ連絡を取った。


――きっと今も食堂にいるのだろうな。


 そんな事を思いながら。


♦♦♦♦


 食器洗いを終えたクラウドは、椅子に座って休んでいた。

 そんな時に、彼の耳のイヤホンに連絡がきた。


「もしもし、こちら食堂係・クラウド」


『……貴方の様な食堂係がいますか?――聞こえてますね、この警報と揺れを』


「聞こえてるよ。また戦争だろ?」


 そう言ってクラウドは、周囲をフキンで拭き始めて掃除を始めた。


『なら、私の言いたい事も分かる筈です。――貴方の力を借りたい』


「断る」


 クラウドは掃除を終え、今度はパネルを弄って食材を在庫管理を始めた。


「それは約束が違う。もう戦わなくていい……平和の中で生きたい。それが俺の条件だった筈だ。だから食堂係とはいえ、軍部にいるんだ。俺は身分を変え、両親と会うのも一苦労でもね」


 そう言ってつまらないと言った風に、彼は調理器具の整理を始めた。


『約束を破った訳ではありませんよ……私達は、それを守ってきました。破ったのはだ。私達が約束を守る為に、平和の中で貴方が生きる為に、力を貸して欲しい』


「……ずるい言葉だ。でも事実だ。平和の中で生きる為、また平和にしなければ。――機体の準備は?」


『既に全て完了しております。ヘルメットにスーツも、いつもの所に』


「パイロットの控室、その1番ロッカーだな?」


『えぇ、嘗ての大戦から、あの場所は貴方だけの場所ですよ――


「……今はただの食堂係だよ」


 それだけ言ってクラウドは笑った。

 そして通信を切ると、食堂から去って、パイロットの控室へと歩いて行くのだった。


♦♦♦♦


 控室で着替えたクラウドは、パイロットスーツに身を包み、ヘルメットを持ったまま格納庫へ来た。


「全員! 敬礼!!」


 そして彼が入って来た瞬間、メカニックや警備達が一斉に彼を敬礼で迎えた。

 

 クラウドも敬礼で応えると、一人のメカニックが近付いて来る。


「こちらへ! 貴方の機体があります!」


「了解した」


 クラウドは案内されるまま、格納庫を進んで行くと、そこに鎮座されている一つの機体があった。


 二つの目を持ち、背後には四枚の翼を持つ機体。

 

 それは嘗て、自身が乗っていた機体。一部に関しては傷まで、当時の面影がそのまま残っていた。


「貴方が乗ったイーグルを近代化改修したものです。システム、コックピット回りも最新のものですよ」


「ふっ……格好良くしてもらったな相棒」


 クラウドは今から乗る愛機を見て、思わず笑みを浮かべた。


――時だった。艦が急激に揺れたのを感じ、クラウドはすぐにコックピットへ飛び乗った。


「すぐに出せ! 出るぞ!」


「大丈夫なんですか! ブランクは!?」


「君達を死なせない程度には大丈夫だ!――開けろ!」


「っ! ご武運を!――下がれ! !!」


 メカニックのその言葉を最後に、彼はコックピットを閉じ、今まさに出撃をまつのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る