第3話 おつかい先での出会い

 朝食の片付けを終えた後、俺は住職にざぶとんの下見に行くようにお使いを頼まれた。どうやら、現在お寺で使っている座布団ざぶとんが古くなってきたので、新しいやつに交換したいとのことだった。今日は土曜日で朝から暇だったので、もちろん俺は住職の頼みを快諾した。どうやら、このお寺にはなじみにしている座布団ざぶとん屋があるらしい。当初は小春が一人でお店の下見に行く予定だったが、なんやかんやで俺も荷物持ちとしてついていくことになった。


 住職から頼まれたざぶとんの下見に行くことになった俺と小春。住職の頼みだから、まあ仕方ないなと思いながら、食堂を後にして外に出た。


 小春はいつものように、膝下までの長いスカートに黒いタイツを着こなしている。それにしても今日は土曜日で休日だ。なのに小春は平日と変わらず学校指定の制服を着ている。


 目的地である座布団ざぶとん屋は、お寺から徒歩で30分ほどの場所にあるらしい。お寺の前にある石畳の参道を下りてから、俺たちは目的地へと歩き出した。




 「そういえば小春、今日は部活行かないのか?」


 何となく俺は、お寺を出てから一言も話さないでいるのを気まずく思い、何気なく声をかけた。普段、小春は毎週土日とも部活に行ってて家にいない。


 しかし、小春は俺の話など興味ないかのように、ぷいっと顔を背けた。


 「なによ、咲太。私が部活行かなくたって、あんたには関係ないでしょ。」


 小春は相変わらずのしかめっ面でいる。俺にはよく分からないが、何か気に触るような事を俺は言ったのだろうか。


 「……俺はただ、部長であるお前が、部活休んで大丈夫なのかなぁって思っただけで…。」


 俺は言葉を選びながら話を続けた。これ以上不機嫌にさせるのも怖いし、正直なところ、何を言えば小春が機嫌を直すのかもよくわからなかった。小春はどうやら、朝の食堂で住職と俺が小春の悪口?を言っていたのをまだ怒っているらしい。


 「…。今日は部室が改修工事で使えなくなったから、行けなかっただけ。」


 小春はそう、小さな声で呟いた。


 ちなみに、小春は中学で茶道部に入っている。小春は、幼い頃よりお寺で育ってきたので、茶道はもともと親しんできたらしい。だから、中学で茶道部に入るのにも、少し納得がいく。


 「へぇ、この時期に改修工事とかあるんだなぁ…。」


 口下手な俺は、久しぶりに話す中学生の女子相手に何を話せばいいのか分からず、そのまま黙り込んだ。


 「……。あんたから話振っといて、なによその態度。」


 小春は「ふんっ」と鼻を鳴らして前を歩き出した。俺はその後ろ姿を見ながら、急に速足になった小春に遅れまいとついていった。それにしても、小春が謎にプライドが高いせいで、俺は小春にどう接すればいいのかが正直分からない。


 それから黙って京都市内を30分ほど歩いて、お寺の外から町の中心に向かって進んでいくと、小春がふと一軒の古びた建物の前で立ち止まった。


 「ここだわ。」


 小春が指差した先には、「営業中」と暖簾のれんがかかった、木造の小さな建物があった。目的地の座布団ざぶとん屋だ。店の看板には、手書きで「三村ざぶとん本店」と書かれている。


 「入るよ。」


 小春が先に店の戸を開けると、店内にはたたみ特有の渋い匂いが漂ってきた。一面に畳敷きの床と、棚に並んだ大量の座布団ざぶとんが目を引く。だが、それよりも妙に目が引くのは、奥のカウンターに座っている小柄な少女の姿だった。


 「えっ……花楓かえで?」


 思わず声を上げてしまった。そこにいたのは、俺のクラスメイトで、少し地味だけど明るくて面倒見のいい女の子、花楓かえでだった。彼女はうちの学校の生徒会副会長で、小春とは異なり運動こそ苦手なものの、品行方正で成績優秀な優等生だ。


 花楓は、いつも黒い額縁の丸メガネに少し長めの前髪というなんともミステリアスで近寄りがたい雰囲気を持っているが、誰にでも優しくてふつうに美人なので、一部の男子から熱烈な支持を集めていた。


 「咲太くん? えっと、どうしてここに?」

 

 クラスメイトである花楓かえでは、淡い水色の柔らかな素材のパーカーに紺色のロング丈のスカートを合わせた私服で、レジ横の椅子に座ってくつろいでいた。




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