俺の幼馴染みを追放したがっている奴らを勇者特権で追放してみたw
ナガワ ヒイロ
第1話 勇者、仲間を追放する
勇者。
それは魔王を倒すために女神から力を与えられた特別な存在だ。
そして、勇者が率いる精鋭たち。
人々は彼らのことを勇者パーティーと呼び、その活躍には大陸中が注目していると言ってもいいだろう。
当然ながら、醜聞などあってはならない。
ならないのだが、それを理解していない馬鹿がパーティー内に何人もいる。
「アンタ本ッ当に使えないわね!!」
「全くだ。お使いもこなせない雑用係はクビにするべきだろうに」
「ふふ、お二人とも言い過ぎですよ? 無能は無能なりに頑張ってるんですから」
「しかし、勇者の同郷という理由で勇者パーティーに在籍しているのは事実。追放した方がいい」
そう、これが勇者パーティーである。
どいつもこいつも見た目だけで判断するなら美少女美女ばかりだ。
しかし、性格は揃いも揃って最悪。野糞以下。
何よりここが酒場という、人の目と耳が多い場所なのがまずい。
噂に敏感な市民やら冒険者やらが大勢集まる酒場で公然と他者を口汚く罵倒しているのだ。
それはどう考えても勇者パーティーの地位と名声を陥れる行為だろう。
何度も注意はしているが、止める気配はない。
本音を言うとヒステリック女どもには辟易しているが、それでも俺が彼女らを追い出さないのには理由があった。
「ご、ごめんなさい。でも、その、貰った買い物リストには書いてなかったので……」
「はあ!? アンタ、私に口答えする気!? いつから私より偉くなったのよ、ティオ!!」
「ひっ、す、すみません!!」
俺と同じ村で育った幼馴染みであり、親友でもある少年。
彼の名前はティオ。
肩まで伸びた純白の髪は雪を彷彿とさせ、琥珀色に輝く美しい瞳が印象的だ。
年齢は俺と同じ十八歳。
華奢で小柄な体躯をしており、男とは思えない綺麗な顔立ちと相まって少女と間違われることが多い。
ああ、格好も女の子に間違われる原因だろう。
動きやすさを重視したホットパンツとゆったりしたシャツ、その上から少し大きめのサイズのジャケットを羽織っている。
走りやすさを重視したブーツを履き、肩には雑嚢を下げていた。
妙に肉感的な太ももを平然と露出しているのだ。
ただでさえ冒険者は女性の割合が少なく、男が大半を占める職業。
女との出会いに飢えている者が殆どで、ティオの少女らしい外見と相まって最近は男に尻を狙われているとか。
俺がいるから問題はないがな。
勇者パーティーでは交渉を含めた雑用を一身に請け負っている最重要人物だ。
俺とて何の前触れもなく十五歳の誕生日に勇者の力を女神様から授かった時は流石に困惑していたし、不安だった。
だから一緒に来てほしいとお願いしたら、本当に来てくれた普通に超いい奴である。
『大丈夫だよ!! 君のことは僕がしっかり支えるから!!』
その時の笑顔は本当に眩しかった。
でも最近は、その笑顔を見せる頻度もめっきり減ってしまった気がする。
十中八九いじめが原因だろう。
俺の幼馴染みであり、大切な親友でもあるティオをいじめるとかガチでマジで許せない。
しかし、他ならぬティオ自身が『僕が雑用しかできないのは事実だから』とクズ共を庇っているのだ。
「……ティオ」
俺が険しい面持ちでティオの名前を呼ぶと、彼はビクッと身体を震わせた。
そして、事も無げに笑うティオ。
その笑顔は昔見た眩しいものではなく、無理やり絞り出したような、こっちの胸が苦しくなる笑顔だった。
「あ、だ、大丈夫だよ、アッシュ。ごめんね、雑用もできなくて」
「いや、それは気にしていない」
おっと、いかんいかん。自己紹介が遅れてしまって申し訳ない。
俺の名前はアッシュ。
三ヶ月前に『女神の試練』を終わらせ、正式に勇者となった男だ。
自分で言うのは恥ずかしいが、結構なイケメンだと思う。
好きなものは酒、女、金、ギャンブル。
少し前までタバコも吸っていたが、ティオに身体に悪いからと止められてからは吸わないようにしている。
嫌いなものは二日酔いと借金、あと性格の悪い女とイカサマだ。
え? ロクデナシだって?
HAHAHA、俺がクズということは他ならぬ俺自身が一番分かっているとも。
でもこの国では十五歳で成人であり、酒やギャンブル等、諸々の娯楽が合法になるのだからやらないと損だろう。
さて、そんなクズの俺でも許せないものがある。
「すぐに買い出し終わらせてくるから!! ――わわ!?」
「何やってんのよ、愚図!!」
ティオが酒場を出ようと駆け出した時、勢いよく転んでしまった。
俺が駆け寄ろうとする前に俺のパーティーで一番性格の悪い魔法使いが近づき、大声でティオを罵倒する。
彼女の名前はイヴ。
真っ赤な髪をツインテールにした、一見すると美少女である。
しかし、その性格は最悪だ。
俺には何かと媚びを売ってくるくせにティオに対して冷たく当たる。
彼女は普段から適当なイチャモンを付けてティオを困らせるのだが、今日はそれ以上のことをしやがった。
ティオが転倒した拍子に床に転がった彼のペンダントを拾い上げたのだ。
「何よこれ? 汚いペンダントね。センス悪すぎでしょ」
「あ、か、返してください!!」
「ふーん? これ、大事なものなの? 返してほしいの? なら返してあげるわよ」
「あ、ありが――」
イヴはペンダントをティオに渡す振りをして床に落とし、わざとらしく踏みつけた。
「ごめんなさい、手が滑っちゃったわ!!」
「あ、や、やめて、母さんの、父さんの形見なんです!!」
「ぷっ、あはは!! 何泣いてんのよ、ダッサ!!」
ティオの持っていたペンダントは、流行り病で亡くなった彼の両親の形見だ。
それを踏みつけて、ティオを泣かせた。
その状況を黙って見ている、他ならぬ自分自身に反吐が出る。
俺はたしかにクズだが、それでも許せないものがあった。
それは、親友を泣かせることだ。
ティオ本人が止めてきても関係ない。俺はクズで馬鹿なのだ。
「あー、面白かった。ね、勇者様? ……ゆ、勇者様?」
俺は無言でイヴを後ろから抱き締めた。
すると、醜悪な笑顔が鳴りを潜め、イヴがどこか困った表情を見せる。
「ちょ、ちょっと勇者様、こういうのはやめてって前にも言っ――」
「歯ぁ食いしばれ」
「え?」
俺はジャーマンスープレックスをした。
酒場の床をイヴの頭が貫く勢いで一切の躊躇をすることなく実行する。
「ふご!?」
屠殺場の豚のような悲鳴を上げるイヴ。
涙を流していたティオはイヴが白目を剥いて気絶している様子を見て、何が起こったのか分かっていないようだった。
これで多少はスッキリ――いや、ちっともスッキリしないな。
ついでだし、他の奴らも一気に片付けよう。
「イヴ、クロナ、レティシア、ルーファ。お前ら全員、今日で勇者パーティーを追放な」
「「「……え!?」」」
俺の言葉に気絶したイヴ以外の元パーティーメンバーがギョッとしている。
「な、なぜ我々が!?」
「え、逆に理由分かんないの? それはそれで怖いんだけど」
「話を逸らすな、勇者殿!! こんなの不当な解雇だ!!」
そう言って俺に抗議してきたのは、長い銀髪をポニーテールにした女騎士だった。
イヴ同様に見た目は美人だが、弱者を極端に見下す性悪だ。
彼女の名前はクロナ。
俺と同じ前衛でタンクを担っているが、正直要らない。
というのも――
「クロナ。お前、パーティーの盾って自負してたよな」
「う、うむ!! 私には騎士として勇者殿を守る使命がある!!」
「要らん。俺ならお前が魔物の攻撃を受け止める前に殺せるからな」
「っ、そ、それは……!!」
「はい、次」
俺は続けてパーティーの回復役の美女に視線を向ける。
彼女の名前はレティシア。
パーティーで一番おっぱいが大きくて露出の多い格好をしている。
容姿はぶっちぎりで俺の好みなのだが、ティオへの嫌がらせが一番陰湿だった。
レティシアが額に汗を滲ませながら俺に自らの存在意義を主張する。
「わ、私の回復魔法はお役に立ちますよね!?」
「全然。そもそも俺、怪我とかしないし。ガキの頃から風邪すら引いたことないし。てわけで追放な」
レティシアは治癒魔法のエキスパートで、いわゆるヒーラーだ。
しかし、俺は怪我を全くしないので要らない。
万が一怪我をしてもティオが治癒のポーションを自作できるため、やはり必要ない。
俺は次の相手に視線を向けた。
「わ、私は――」
「要らん。追放」
「まだ何も言ってない!!」
最後に口を開いたのは外套で全身をすっぽりと覆った謎に満ちた少女だ。
彼女の名前はルーファ。暗殺者である。
斥候、つまりは索敵や罠の発見がパーティーでの役割だが、これも要らない。
だって敵は発見次第にデストロイするもの。
魔物と遭遇したなら殺せば良いし、見つけられなければ殺さなくていい。
罠? わざと引っかかって破壊しながら進めば万事解決である。
俺は最後にジャーマンスープレックスで気絶して頭から床に埋まっているイヴの方を見た。
「イヴも同様だな。どうせ『私なら魔法一発で沢山の魔物を葬れる』とか言いそうだが、俺なら呪文を詠唱している間に敵を殲滅できる」
俺はスピードとパワーには自信があるのだ。
魔法よりも素早く敵を倒せるなら、魔法など使う必要はない。
たまに物理攻撃の効かない魔物もいるが、そういう時は拳に魔力をまとわせて、正面からぶん殴れば解決だからな。
俺がそう言うと、クロナたちが今度はティオのことを引き合いに出してきた。
「で、であればティオはどうなのだ!! 雑用しかできないではないか!!」
「そうです!! 私たちの方が必ず勇者様のお役に立てるはずです!!」
「同感!!」
しつこいなあ、こいつら。
「いや、ティオは要る。俺は文字が書けないし、読めない。金勘定もできない。交渉もできない。料理や洗濯、掃除、ポーション作りもできない。ティオ一人で全てできる」
「そ、そんなこと、私だって!!」
「今までやっていなかったことを、いきなりティオと同じようにできるのか?」
不可能だろう。
ティオは幼い頃に薬師だった両親が他界し、一人で何でもやっていた。
見かねた俺の両親が養子として迎えようとしてもキッパリ断って、ポーション作りで生計を立てていたのだ。
十年以上もの経験と知識、実績があるティオに付け焼き刃の知恵で勝てるわけも無い。
何よりティオの作るポーションは凄いのだ。
海の向こう側からやってきた商人が村まで買い付けにくるくらいには、知る人ぞ知る超有名なポーションだからな。
俺はクロナたちがそこまでできるようになるまで待つつもりは無い。
「俺に必要なのはティオだけだ。というわけで、お前らは追放。あ、勇者特権使うから拒否権はないぞ」
勇者にはパーティーメンバーを自由に入れ替える裁量権が国から与えられる。
普通の冒険者パーティーなら揉めるところを、たった一言で追放できるってめちゃくちゃ便利だよね。
しかし、クロナたちは尚も抵抗の意志を示した。
「な、ま、待て!! わ、私はグランオーレ公爵家に名を連ねる者だぞ!! 私を蔑ろにすれば、公爵家が黙っていない!!」
「そ、そうですよ!! 私も女神教の聖女!! 私を理不尽に追放したとなれば、教会からの支援も受けられませんよ!!」
「ん。私を追い出したら、暗殺者ギルドが動く。貴方の命も危うくなる」
「……ふむ?」
俺は首を傾げる。
「それのどこが問題なんだ?」
「「「……え?」」」
「公爵家? 殴れば大人しくなるだろ。支援? 殴って寄越させればいいだろ。暗殺者ギルド? 殴って始末すりゃいいだろ」
この世の中は至ってシンプルだ。
暴力。純然たる力こそが全てを解決し、全てを丸く収めることができる。
そして、俺はその暴力を女神から授かった。
『女神の試練』を乗り越えることで、その暴力の扱い方も身に付けた。
何も恐れるものはない。
「あ、もし俺をどうこうできないからってティオに手を出したら、魔王が現れて世界を滅ぼす前に俺が滅ぼすからな?」
「「「!?」」」
それが勇者には可能なのだ。
「で、では、何故……」
「まだ何かあんのか? さっさと飲み直したいんだが」
「何故我々をパーティーに入れたのだ!! 我々が必要だったからでは――」
「別に? 顔と身体で採用したに決まってんだろ」
「「「!?」」」
せっかく勇者になったのだ。
ハーレムを作って絶世の美少女や美女たちとエロいことをしたいと思うのは当然のこと。
しかし、クロナたちはちっともヤらせてくれる気配がなかった。
やんわりと断ってくるし、俺のストレスも日々溜まるというもの。
まあ、最近は夜のお店で発散してるし、お気に入りの子と仲良くなったから性欲は持て余していないけどな。
「じゃあ、そういうことで!!」
「な、ま、待ってくれ!! 頼む、雑用でも何でもするから――」
「いや、待たん。というか、お前らティオのこと嫌いだからいじめてんだろ?」
「そ、それは……」
「俺に必要なのはティオだけだ。ぶっちゃけ空気最悪で居心地悪かったし、いくらティオ本人が許しても俺が我慢の限界だから。あんまりしつこいとジャーマンスープレックスするぞ?」
「「「!?」」」
「……よし、反対意見はなさそうだな。行こうぜ、ティオ」
「え、あ、う、うん」
俺はそれだけ言い残し、唖然としているクロナたちを置いてティオと共に酒場を後にした。
「さて、と。どっかで飲み直すか」
「……ね、ねぇ、アッシュ。本当に良かったの?」
「何が?」
「その、クロナさんたちのこと。権力者ばかりだから、きっと大変なことになると思うよ?」
「言っただろ。暴力で解決する」
「そ、それって解決って言えるのかな?」
困った様子で言うティオ。
俺は道端で足を止めて、一度ティオの方に向き直った。
そして、頭を下げる。
「悪かった、ティオ」
「え? な、なんでアッシュが謝るの!?」
「俺が考えなしに性悪な女どもをパーティーに入れちまったせいで、お前に辛い思いをさせちまった。だから、すまん。この通りだ、許してくれ」
「あー、えっと……」
俺が『女神の試練』を終えて正式な勇者となってからの三ヶ月。
そう、たった三ヶ月。されど三ヶ月。
この短いようで長い時間の間にティオの受けた仕打ちを考えれば、絶交されても何か言う資格は俺にはない。
でも、やっぱりガキの頃からの大切な親友を失いたくなかった。
だから謝ることにした。
「……顔を上げて、アッシュ」
ティオが優しい声で言った。
俺は一抹の不安を抱えながら、ゆっくりと頭を上げる。
「……僕も、ごめんなさい」
「な、なんでティオが謝るんだ?」
「僕も我慢なんてしないで、さっさとアッシュを頼ればよかった。そうすれば、アッシュに謝らせることなんてなかったんだから。だから、僕もごめんなさい」
そう言って頭を下げるティオ。
そして、すぐに顔を上げて以前のような満面の笑みを浮かべた。
「はい!! これでお相子!! 僕もアッシュを許すし、アッシュも僕を許して仲直り!!」
「……ティオ……」
「ほら、早く飲み直そ? さっき買い出しの途中でよさそうなお店を見つけたんだ!!」
そう言って俺の腕を引っ張るティオ。
「いや、二次会はエッチなお店にしよう」
「え!?」
「実は前々から気になってた『バニーちゃんの発情場』という店があってな。酒も飲めるし、エロいこともできる。というわけで行こう!!」
「……もう、仕方ないなあ」
ティオがやれやれと肩を竦めながら、溜め息混じりに頷く。
誤魔化しても俺には分かる。
実はティオはむっつりスケベで、そういうお店に行きたくても行けない人間だと。
仲直りした記念だ。
ここは俺が率先して夜のお店に誘うことでいい思いをさせてやろう。
「――いつになったら僕の性別に気付くのやら。本当に、仕方ないなあ」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何でもないよ。それより行くなら早く行こ」
その夜、俺はエッチなバニーガールさんと朝までエンジョイした。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「バニーちゃんの発情場について詳しく!!」
ア「消されるぞ?」
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