第4話 ヴァンパイア皇太子と異世界の勇者 (候補者と仮想敵)
中央大陸アルメンダリース
エルフ国家、エリテリア宗教国
首都エリアステス市
女神アマネア大神殿内礼拝堂
アマネア歴3512年12月9日
午前10時過ぎごろ
王座の前に群衆に向けて、立っていたアマニエリスの右側にエリテリア宗教国の国王であり、伯父でもあるカイゼン1世が立っていた。礼拝堂が各国の要人、王族、貴族、政治家、大使、人間、亜人、魔族の代表、各国の女神アマネア教の教区の枢機卿たち、エルフ連合国家の各エルフ種族の代表、各国や各種族の報道機関などで埋め尽くされていた。
「300年ぶりの大神官婚期祝福際を開催します!!」
カイゼン1世の開始の掛け声で礼拝堂にいる全員から歓喜の雄叫びが上がった。
エリテリア宗教国の宰相のカイテンが前に出て、国王と大神官に対し、深いお辞儀をし、群衆に振り向き、またも深いお辞儀を行った。
「エリテリア宗教国宰相である、私、カイテン・エーオマーはこれより進行役を務めさせていただきます。」
大きな喝采が起きて、全員はカイテンに注目した。
「それでは各国の来賓の大神官への挨拶へと移させていただきます。」
礼拝堂は一瞬で静かになった。ここは正念場だった。呼ばれる順番でエリテリア宗教国との位置関係が明白になるからだった。全員は一番に呼ばれたいと思っていた。
「ヴァイオリン帝国、皇太子、ロスカーン・ヴァラドラン陛下!!」
赤い軍礼服のヴァンパイアの皇太子が前に進み、アマニエリスとカイゼン1世に対して、礼儀正しき、深いお辞儀をした。
「ヴァイオリン帝国、皇帝ヴァラード・ヴァラドラン2世の長男、ロスカーン・ヴァラドランと申します。」
彼は落ち着いていた、アンデット特性の影響もあるかと思われていたが、実際は違うものだった。
本来アンデットであるヴァンパイアと神聖魔法を操るエルフの女性神官の相性は最悪なはずだったが、魔王との戦争が終わってから、ヴァイオリン帝国は積極的に宗教に関わろうとした、アンデットであるヴァンパイアは信仰を持つのは異例だったが、女神の宣教師・伝道師を受け入れ、国内でも神殿を立てた。60年前、これまでの世界のパワーバランスを崩した勇者の召喚でこの世界の一大勢力である女神アマネア教と共に歩まなければ、アンデットであるため、異世界人の勇者に滅ぼされる危険性を常に警戒していた。
「エーオマー大神官猊下、お目にかかれて、光栄です、評判より美しい猊下を拝見し、幸せです。」
「アマニエリスと呼んでくださいませ、ヴァラドラン皇太子陛下。」
「では、私をロスカーンと呼んでいただけると嬉しいです。」
「はい、ロスカーン皇太子陛下。」
「ロスカーンとだけ、呼び捨てで構いません。」
「はい、それじゃ、私をアマニエリスと呼んでくださいませ。」
自分を真っ直ぐに見つめていたロスカーンのおおらかなで優しい赤い目の奥にある欲望はアマニエリスが感じ取った。
神聖魔法使いであるアマニエリスにはヴァンパイアの生来の能力である【魅力(チャーム)の目(アイ)】は効かなかった。それでもアマニエリスはこの不健康そうな顔色をしているイケメンのヴァンパイアと二人きりで話したいと思った。
「いけない、いけない・・・わたしは男だ・・・」
頭の中で会ってみたい考えをすぐに否定したが、自分の体の反応に気づいた。
「あああ・・やばい・・・興奮して・・・立っている・・・」
頭の中でつぶやいて、アマニエリスは赤面した、そしてぶかぶかの祭服に対して密かに感謝した。大神官の彼女(彼)の体の反応は誰も気付かなかった。
そしてアマニエリスはロスカーンの体の反応にも気づいた。ヴァンパイア皇太子は彼女同様に反応していた。アンデット特性ですぐに抑制したのもわかった。
「彼も立って・・・」
頭の中で想像し、考え、アマニエリスはまた赤面した。
「お話ができたらと思っています、アマニエリス。」
「私もです、ロスカーン。」
不健康な顔色のイケメンが笑顔を浮かべて、再び深いお辞儀をし、元にいた場所へ下がっていった。
「大丈夫か?アマニエリス。」
伯父上である国王が聞いてきた。
「ご安心くださいませ、国王陛下。」
カイゼン1世がいたずらっぽい笑顔をした。
「わかった。」
元の位置に戻ったヴァンパイア皇太子が赤い目で遠くから見つめていた。
アマニエリスは少々緊張気味の笑顔でその視線に応えた。
ロスカーンは手ごたえがあると感じた。父親であるヴァンパイア皇帝、ヴァラード・ヴァラドラン2世より宗教国であるエルフ連合国との絆を強硬なものにするように命令されていた。
アンデット国家である帝国は本来、人間、亜人国家と常に争うものだったが、60年前に起こった、勇者の出現というイレギュラーな状況になってから歩み寄る方針へ転換せざるを得ない状態になった。
この大陸の7大勢力中の2大勢力は政略結婚という形で同盟を結べば、異世界人の勇者という規格外の力以外巨大な軍事力を持ちながら、閉鎖的で尚且つ人間至高主義を掲げているドマーゴン公国をけん制できる狙いがあった。
「政略結婚か・・でもあのハイエルフの大神官が美しい・・アンデットの体を反応させるほどの色気を持っている・・・もっと知りたい、アマニエリス、君のことをもっともっと知りたい。」
ロスカーンは常に自分にアンデット抑制をかけながら、ハイエルフを見つめていた。
常に抑制かけないと体が正直に反応するのでアンデットとして大変困ったことになると思った。
これで各国に対してはエルフ連合国家のエリテリア宗教国とアンデットのヴァイオリン帝国がお互いを同盟を模索している可能性があることを見せられた。この世界で常識で考えれば、このままで行くと次は最も警戒している国が呼ばれることになるだろうと予想された。
ヴァンパイア皇太子が元の位置に戻ったを確認したカイテンが再び前に出た。
「ドマーゴン公国代表代行、異世界の国、日本から召喚された勇者、トヨヒコ・ハラダ殿、同じく異世界人で勇者の従者でドマーゴン公爵家の養女、シエル・アオヤマ公女殿。」
黒い軍礼服の2人組が前へ歩き出した。異星人の勇者は細身でこの世界の平均身長より低く、スキンヘッドだった。その従者で公女も身長が低かった。公女にはこの世界の人間や亜人の女性にはない、不思議な魅力があった。
二人は国王と大神官の前に立ち、軽い会釈をした。
「俺は原田豊彦だ。60年前に日本という異世界の国から召喚された勇者だ。強力な能力(スキル)を持っている、この世界の人間の剣と盾でもあるぞ。よろしくな、エルフ神官。」
「ぼくは青山シェルです。同じく日本から召喚された勇者の従者だよ。この世界では養女で公女だが、ぼくは男の娘(こ)だよ。よろしくです。」
国王はこの態度に怒りをおぼえた。
「初めまして、勇者様とその従者様。私は女神アマネア教のアマニエリス・エーオマー大神官です。よろしくお願い申し上げます。」
アマニエリスは上品なお辞儀をし、明るい笑顔を作った。
勇者の連れの小柄な女性の大きな目から伝わってくる強い憎悪を無視することにした。
「ハイエルフですってね、アマニエリスさん。」
青山シェルは露骨な見下しを含めた表情で言ってきた。
「はい、ハイエルフです、父親はハイエルフで母はコモンエルフです。」
「へええ・・じゃ本来ならハーフエルフじゃないの?」
「はい、本来ならばね・・・ですが、強い神聖魔法を扱えるため、生まれてきたみたいです。」
「生まれながらのエリートじゃないの?凄いね、凄いです。」
まったく感情のこもってない声、棒読みで従者は話した。
「では男の娘(こ)は何でしょうか、公女様?」
「ここでは教えないよ・・今度会った時、ゆっくり、時間かけて、教えてあげるよ・・大神官さん。」
「楽しみにしているよ、公女様。」
勇者は嘘くさい笑顔を浮かべて、青山シェルの肩に手を乗せた。
「この辺にしとけよ・・・戻るぞ、シェル。」
念話で会話した。
「黙れトヨ・・・ぼくはこいつが大嫌い・・・必ず殺す。」
「今はやめとけ、戻るぞ・・シェル。」
「どうかなさいました?」
アマニエリスはわざと話して、二人の異世界人の秘密の念話を中断させた。
「気にしないでくれ、エルフ神官さん。では。」
「ではまた、勇者様、従者様。」
「またね、大神官ちゃん。」
青山シェルは皮肉を込めて、言い放った。
勇者とその従者がまた軽い会釈をして、自分の位置へ下がっていった。
戻る途中で二人はまた念話で話はじめた。
「トヨ・・・ぼくを二度となだめるな。次回お前も含めて、殺すからね。」
勇者は無表情だったが、心の中で恐怖を感じた。
「わかった。ごめん・・・二度としない。」
「あの腐れエルフを殺す・・・ぼくたちはこの世界を手に入れなきゃな。」
「では俺はしばらく勇者のふりをすればいいのか?」
「あああ・・・ぼくはずっとお前の影に隠れて、ドマーゴン公国やその衛星国を手に入れてきた・・・魔王、亜人・・・そしてあの変異体である超(ハイパー)人間(ヒューマン)を絶滅に追い込むよ。」
「はい、シェル・・・俺は君の味方だよ。」
「ありがとうトヨ・・・てかこのくだらだない挨拶の場が終わったら、部屋で犯してくれない?」
「ええ・・いいの?」
「いいよ・・あのあばずれを見て、イライラしたので気持ちいいことしたいよ・・お・ね・が・い・ね。」
「喜んで・・・すべては大好きなシェルのためだもん。」
「トヨが終わったら、今度はぼくの番になるの・・忘れないでね。」
勇者が冷や汗をかいた。
「わかった・・・シェルちゃん。」
二人は元に立っていた位置に戻った。
アマニエリスは先の二人は必ずこの世界に災いをもたらすと確信した。
隣に立っていた国王、横に立っていた宰相である父親を見た。そして気づいた、二人も彼女と同じ結論に至っている、それ以上、既に対策を立てていることも。
「あの青山シェルとは二人きりであった時、どっちが死ぬ時になるな。」
思わずつぶやいた。
「安心しろ、アマニエリス。」
国王は彼女の緊張を解くため、ウインクしてきた。
「ありがとう・・・伯父さん。」
「コラコラ、公共の場だろう、国王と呼べ、大神官猊下。」
「失礼いたしました。国王陛下。」
一本取られたと思いながら、軽く笑った。
国王は宰相に目で合図した、次を呼ぶように。
礼拝堂の全員は注目していた。おそらく呼ばれるのは軍事力、経済力の大きい、ケータス帝国の王子のレナン・レ・ケータスだと思われていた。
カイテンは前に出た。
「魔王、メリック・ヘストファーのご子息、魔族貴公子、マラック・ヘストファー陛下。」
会場がざわついた。全員は元この世界の敵の息子が呼ばれると思ってなかった。
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