第2話 なるようにはなるさ(ならないけど)
別の世界、アマーネス
中央大陸アルメンダリース
エルフ国家、エリテリア宗教国
首都エリアステス市
宰相の自宅
アマネア歴3362年11月15日
朝方7時頃
エリテリア宗教国の宰相であり、国王の弟君であられる銀髪ハイエルフのカイテン・エーオマーが自分の屋敷の広い居間を神経質に歩き回っていた。
普通の金髪エルフで妻のヘイランが産気がついて、2時間前から4人の産婆たちと共に寝室に籠っていた。カイテンとヘイラン夫妻には既に2児の男子はいたが、今度生まれ来る子どもは3人目になる。
「次は女の子が生まれたらいいな。」
カイテンが呟きながら居間を往復してた。
性別を確認できる魔法が存在するが、彼は使用したくなった。
子どもが天からの授かりものであるため、生まれて初めて、性別を知るという伝統的なエルフの考えを持っていた。
「カイテン様、カイテン様!!」
突如、屋敷のダークエルフのメイドの一人が居間に入ってきた。
「どうした、ケイレン!!」
「産婆どのがカイテン様を呼んでいます、すぐに来てください!!」
カイテンが焦った、妻や我が子の身に何かあったのを恐怖した。
メイドにつられて、走って、2階にある寝室へ向かった。
寝室の扉の前に産婆の一人、老女森エルフのサンハン・モッタが神妙な顔で立っていた。
「サンハンよ、何かあった!!」
カイテンは心臓を手で掴むような恐怖がにじむ声で産婆に聞いた。
「エーオマー宰相閣下、是非人払いを。」
「ケイレン、下がってよい、後は私が聞きます。」
ケイレンと呼ばれたダークエルフのメイドがお辞儀し、大急ぎで部屋の前から離れた。
「エーオマー宰相閣下、ご安心なされ、母子ともに健康です。」
サンハン・モッタは心配そうなカイテンに伝えた。
「無事か・・・よかった・・・」
カイテンは安堵と疲れが一気に感じた。
「生まれたのは男子ですが、実は先例がないことを確認しました。」
「先例がないこと?」
「生まれたのは男子ですが、私はその魔法特性を確認したのですが・・・」
「男子だったか・・・そうか・・・で闇魔法特性や魔法使えないとか?」
心配そうな顔でカイテンが産婆に聞いた。
「違うのです・・・生まれたのは男子ですが、神聖魔法が使えるのです・・」
神殿の神官でこの国の王族、貴族の産婆でもあったサンハンが驚きと畏怖混じりの表情をしていた。
「神聖魔法ですか?・・・」
「それと生まれた子どもはハイエルフの特徴を持っています。」
「ハイエルフ?・・・」
カイテンはダブルパンチを食らった気分だった。神聖魔法が使える男子はこの国の建国以前、下手すればエルフ歴史上で初めてのことであり、ハイエルフとエルフの混血ではほぼ9割以上はハーフエルフになるものの、稀に片親の優生的特徴を全部引き継ぐ子どもが生まれる。
「こんな重大なことは表定になった場合、大変なことになります、エーオマー宰相閣下。」
老女エルフが深刻そうに忠告した。
「わかっている・・わかっている・・・それより今はわが子を見たい。」
老エルフの産婆はカイテンを寝室内へ案内した。
大きなダブルベッドで汗だく姿のヘイランが生まれたばかりの子どもを抱いていた。
「あなた、可愛いわが子を見てよ・・・ハイエルフの特徴があるのよ。」
ヘイランは嬉しそうにカイテンに言った。
「ああ、でかしたぞ!!ありがとうヘイラン、よくやったよ。本当にありがとう。」
「抱っこしてみる?」
「ああ、是非抱っこさせてくれ、ヘイラン。」
ヘイランはゆっくりとカイテンに生まれたての子どもを渡した。
「生まれてくれて、ありがとうね・・・可愛いね・・・」
カイテンは慣れた手付きで子どもを抱き、優しく声をかけた。
「名前はどうしましょう、あなた。」
ヘイランは聞いてきた。
「アマニエリスにしましょう。エルフの神話によく出てくる男女の英雄たちの名前だ。」
「私も同じことを考えていた。男の子でも女の子でも通じる名前だわ。」
カイテンはまたわが子を見つめた。
「可愛い、可愛いわが子よ・・・お前の名はアマニエリスだ・・・アマニエリス・エーオマーだ。」
生まれたばかりのアマニエリスは父親に向けてほほ笑んだ。
産婆のサンハンは宰相親子で過ごしている間に他の3人の産婆たちに忘却魔法をかけて、外で待機させた。気まずそうな顔でまた部屋に入って、立っていた。
「エーオマー閣下・・・」
カイテンが少し不機嫌そうに振り向いた。
「安心しろ、サンハン。先ほど念話で兄に連絡しといた。今からここへ来る。」
「大変失礼いたしました、エーオマー閣下。」
「気にするな、サンハン。」
カイテンがまた自分の子を見つめた。
「なるようにはなるさ・・・アマニエリスよ。」
わが子を抱えながら、ベッドの横に座り、妻と共にアマニエリスを愛おしく、優しく見つめた。
中央大陸アルメンダリース
エルフ国家、エリテリア宗教国
首都エリアステス市
女神アマネア大神殿
アマネア歴3512年12月5日
午前10時半ごろ
アマニエリスはゆっくりと神殿の本館へと向かった。
本館は最も神聖な場所であり、女神アマネアが地上へ降臨する際、必ず現れる場所であった。
彼女の後ろに補佐の役割を果たしている4人の男女である神官たちが、大神官の歩くスピードに併せて、進んでいた。
一人目は茶髪の女性エルフのソンヤ・マリーセ神官だった。彼女は173センチ、首都貴族の名家出身で爽やか系な美女、細身の体を持ち、大きな茶色い目をしていた。大神官より少し年上で、今年の7月には153歳になった。彼女も結婚適齢期になっていたが、大神官より先に結婚しないという暗黙のルールがあるため、独身だった。元々婚約者がいなかったのと隠れ大神官一筋のため、本人は結婚しないつもりだった。
「はああ・・大神官様・・・大好き・・・なめまわしたいわ・・・」
心の中でよだれたらしながら考えていた。
二人目は黒髪の男性エルフのヘンリック・クアドロース神官だった。182センチの身長と筋肉質な体、黒髪系エルフでは珍しく紫色の瞳をしていた。顔は平均的な男性エルフであり、エルフ国内では普通レベルだった。他国ではモテモテであることが間違いだが、大神官補佐を承っているため、宣伝活動してない。宗教国北部の田舎貴族の次男坊で年齢は162歳だった。因みに彼は大神官のファンであるものの、無理とわかっているため、同僚であるソンヤ・マリーセ神官に結婚を申し込む気でいる。
「ソンヤ神官がやはり一番綺麗だな・・・田舎貴族の意地を見せるぞ!!大神官が結婚したら、求婚するぞ!!」
一人で頭の中で勝手に盛り上がっていた。
三人目は金髪の女性ハーフエルフのコリーナー・メジーナー神官だった。父親は人間で母親は金髪の女性エルフの戦士。父親は100年以上前になくなっており、母親はそれ以来未亡人で通している。緑色の目、とんがった耳だが普通のエルフより少し短く、170センチの身長とエルフにして豊満な胸と大きなお尻が特徴だった。出身は宗教国の南にある要塞都市アーカーディアン市で年齢は155歳だった。
「お母さんはまだ未亡人で通しているのは良くないな・・司令官と出来ているのは知ってるのに・・・私に遠慮して、公にしないなんて・・・バカだわ。」
自分の母親を心配しながら歩いていた。
四人目は補佐官のリーダー役はダークエルフの女性、ローシェア・ヴィサロッテ神官。宗教国のやや西南にあるターラスの森のダークエルフ村アエリアス出身だった。赤い髪、小麦色な肌、髪同様の赤い瞳、スレンダーでアスリートのようなしなやかな体の持ち主で身長は168センチと少し低め。アマニエリスは大神官になる前から大神官の補佐をしていたので4人の中で唯一の既婚者で年齢は320歳だった。彼女の夫は生まれ育った村の村長のフェイン・ヴィサロッテだった。
「さっさと誰か大神官と結婚して、この無駄に長い風習を終らせてほしいわ・・・長めの休暇で森に帰って、旦那ちゃんとエッチしたいわ・・・やはりもう一人子どもがほしいな。」
少し要求不満気味に心の中でつぶやいていた。
アマニエリスはひどく疲れていた。本館で10人の神官で結成されている長老会が開かれる、そしてわかりきったことが告知される。
【大神官婚期祭開催】
確かにそのような名前のわけわからない自分を的にした各国参加の政略結婚強奪戦。
各国の要人が既に首都入りしていたのを昨夜に知らせを受けた。
告知されたら、おそらく5日以内に神殿の礼拝堂で謁見の儀が開催される。
アマニエリスは思い出した、大神官に抜擢された際、父親ともめた時に言われた一言。
「父さん、わたしは男だよ・・・大神官になっていいの?」
「大丈夫だ・・・今のお前以外、強力な神聖魔法を使えるエルフの神官がいない。」
「神聖魔法が使える神官大勢いるじゃないの?」
「並みの神聖魔法使いならいるよ・・・お前は来月引退する大神官より強力な魔法が詠唱なしで唱えることができるんだぞ!!」
「お父さんに騙されて、大神官の前に使っただけじゃない・・・」
「だからこそ、アマニエリスよ・・・お前は大神官になるべき。」
「でも私は男であることがばれたら・・・どうするの?」
「大丈夫・・・大丈夫・・・そのために子どもの頃から女性として育った。」
「確かに・・でもやはり私は男だよ。」
「神聖魔法が使える唯一の男子だ。」
「お父さん・・・やはり私は怖いわ・・」
「安心しろ、アマニエリスよ・・なるようにはなるさ。」
10年前のそのやり取りを思い出したことで怒りが込み上げてきた。
「ならないよ・・・クソオヤジ!!」
心の中でアマニエリスは強烈な悪態をついた。
ご一行は本館の前に着いた時、後ろから声をかけらた。
「アマニエリスよ・・・お待ちを・・・」
アマニエリスは振り向いた。180歳にして神官長老会の一番若いメンバーで彼女の従兄にあたるハイエルフと森エルフのハーフであるジェオバード・エーオマー神官。彼は王継承権を持つこの宗教国の第3の王子でもあった。ガリガリな体系で188センチの身長、金髪の青い目で顎が比較的大きな男性だった。子どもの頃のあだ名は『あご王子』でそのあだ名を付けたのはアマニエリスだった。
「お久しぶりでございます、エーオマー神官どの。」
「つれないこと言うなよ・・・アマニエリスよ。従兄妹同士じゃないか。」
「確かに従兄妹同士ですが、今は神殿内にいますので・・・」
「相変わらず固いな・・・お前・・・でもそこがまたいいな。」
「何かご用でしょうか?お互いはすぐに本館に入らないと、他の長老たちが中で待っていると思いますよ。」
「言いたいことがあるよ。だから入る前に止めた。」
「何でしょうか?」
「俺は今日で神官を引退する・・・第3王子の身分に戻る・・・お前と結婚がしたいからな。」
「ええええええええええええ!!!」
心の中でアマニエリスが叫んだ。
「さようですか・・・ではまた中でその話をしてくださいませ・・・」
辛うじて冷静を保って、ジェオバードに素っ気ない返事をして、本館の門を通して、本館へ入った。
「俺はお前のことはずっと好きだった、アマニエリスよ・・・他の連中には絶対に負けない!!従兄妹同士の結婚は禁止ではないからな!!」
ジェオバードは力強く叫んだ。
「なるようにはなるさじゃねええよ・・・クソオヤジ!!」
表情に怒りが出ないように努力しながらアマニエリスは心の中で更にひどい悪態をついた。
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