第2話 釣り①

 日が少し昇り始めた早朝。俺たちは家を出発し、海に向かっていた。魚を獲るためである。


「さっかな〜、さっかな〜、う〜みのさち〜」


 隣を歩くミシェルも楽しそうだ。普段は外に出たがらないが、今日はたまたま気が向いたのか、海に行くと言ったら、ミシェルもついていくと言い出したのだ。


「ミシェルが外に出るのは何日振りだっけ?」


「うーん、前に出たのは洗濯物を外に干した時だから……、だいたい2週間前だね」


 世間一般では洗濯物を干しにベランダに出ることを、外に出るとは言わない。それが2週間前ならちゃんと外出するのはいったいいつなのだろうか。


 あまり考えたくない……。


 一緒に暮らしているとは言っても、常に一緒というわけではない。さらに家が馬鹿みたいに広く、田舎の学校と良い勝負になりそうなぐらいだ。


 だから彼女の行動全てを把握できているわけでは無い。もうちょっと外出してるものかと思ったが、こんなに外に出ないなら何か手を考えておかないと……。頭が痛くなりそうだ。


「あ!フレイル、ほら見て。海が見えてきたよ。やっと海についたね!」


 考え事をしているうちに海が来たようだ。透き通るような海の水と、真っ青な空のコントラストが美しい。久しぶりにここにきたがあまり変わってないようで良かった。私たちの家を含めて、ここら辺一帯は人がいないからだろう。


 砂浜に荷物を置き、軽く体をほぐす。海に来たらなんとなくやってしまうのだ。泳ぐ予定がなくても、なんとなくストレッチをしたくなるのは私だけだろうか。朝ということもあって、気持ちが良い。


「ミシェルはどうする?俺は釣りをしておくけど、ここじゃ魔法の研究は難しいと思うけど」


「釣竿って予備とかあるんだっけ?」


「念の為に、リールとか餌ももう1セット持ってきてるけど。釣り、してみたいのか?」


 そうといかけると、ミシェルはコクコクと何度も頷いた。どうやら釣りに興味があるらしい。普段は魔法以外には興味が薄いのだが珍しい。


「いつもフレイルが何してるのか気になってね」


「なら、俺の家事をやってくれても良いんだぞ?」


「……人の仕事を奪うのはダメだって古事記にも書いてあるから」


 驚いた。どうやってそんな言葉を覚えたのだろうか。こっちにもそんな物があったのだろうか。教えた覚えもないのだが。


「フレイルの真似だよ。いつもフレイルが言ってること。……古事記の意味は分からないけど」


 どうやら俺の言葉を真似ただけらしい。そんなこと言った記憶はなかったが、ミシェルがそう言うから、気づかずに言ってるのだろう。


「じゃあ、ミシェルも釣りするか」


 ミシェルを連れて桟橋に向かい、桟橋の縁に腰を下ろす。釣竿をミシェルに渡し、使い方を説明する。


 釣竿に家の近くで集めておいたワームをつけて、釣り糸を垂らすだけで、良いのだが……。


 なぜがミシェルは釣り糸に絡まっていた。


 おかしい。ついさっきまで俺はミシェルを見ていて、使い方を説明したはずだ。目を離したのも一瞬。何をどうしたらこんな惨事を数瞬で起こせるのだろうか。


「あー、ミシェル大丈夫か……助けよっか?」


「フレイル、釣りってさ……難しいんだね」


 まだ釣りは始まってないぞ、ミシェル。

 

 何とかミシェルの絡まった釣り糸をほどき、釣りを開始する。海に釣り糸を垂らす。ここからは待つ時間だ。


 ミシェルも釣り糸をじっと見ていて、集中している。話しかけてもいいが、せっかく今は釣りに集中しているのだ。そっとしておこう。


 辺りは人の気配もなく、波の音だけが響いている。爽やかな潮風が鼻腔をくすぐり、肺が潮の匂いで満たされる。


 ……暇だ。いや、この風景を眺めてぼーっとしながら釣りをするというものも気持ちのいいものなのだが。


 やっぱり何か刺激のようなものが足りない。いつも一緒に騒ぐ横のこいつが静かだからだろう。


 その時袖をくいっくいっと引っ張られた。袖を引いていたのは疲れたような顔をしたミシェルだった。まぁ、ミシェルしかいないのだから当然だが。


「……ねぇ、魚釣れないよ。魔法でやったらだめなの?」


「そんな簡単には釣れないからな。あと魔法は使ったらダメだ」


「むぅ、ケチ」


 もう釣りに飽きてきたのだろうか。おそらく5分程度しか経っていないはずだ。まぁ、思いつきで釣りをしにきたみたいだから、飽きるのも早かったのだろう。


 その時、持っていた釣竿が強く引っ張られる。どうやら何かかかったようだ。リールをゆっくりと回していく。


「おっ、意外と引きが強いな」


 リールがうまく回らない。かなり強めの糸を使用しているため切れることは無いのは安心できるが、持久戦になると大変そうだ。


 そんな調子で魚と戦うこと約5分、1匹目をなんとか釣り上げることに成功する。30cmぐらいの鯵に似た少し大きめの魚だ。


「フレイルばっかり魚釣ってずるいなー。私にはまだ魚が来ないし、ずるしてるんでしょ」


 俺が魚を楽しそうに釣っていたのが随分と羨ましかったのか、ジトーっとした目で見つめてくる。


「ズルなんてしようがないって。こういうのは結局は運が物を言うからね」


「やっぱり、魔法を使うしかないのか……魔法と魚の関係でも研究してみるかな」


 だから魔法は使わないでください。危険なので。


 まぁ、そのうちミシェルにも魚がかかるだろう。……あれ、これフラグじゃないよね?









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 ちょっと長くなったので、ここで一旦切ります。続きは明後日(11/21)に出す予定です。

 あと、世界観の補完のために近況ノートで色々説明を書く予定です。

 批評コメントやハート、星などじゃんじゃん送ってください。作者が喜びます。

 長文失礼しました。

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