魔法使いのルームシェア〜片や稀代の大魔法使い〜
トリサシ
第1話 日常
窓から木漏れ日の射し、部屋の中を暖かく満たしている。あたりは人の気配もなく、静かに空気が揺れ、時間がゆっくりと進んでいるのを感じる。
鍋に火を入れ、昆布と水を投入する。煮立ったところで昆布を取り出し、切っておいた大根に豆腐とわかめ、蒟蒻を入れてしばらく待つ。この間にフライパンに油をしいて、さくっと鮭を焼いていく。みそ汁火が通ったら味噌を溶かして、簡単みそ汁の完成だ。
あとは鮭が焼けるのと炊いているご飯を待って、昨日の残りのきんぴらと酢の物を用意すれば、朝ごはんの完成だ。
広いキッチンを存分に使い、朝食を作る。こんなに広いキッチンを好きなように使えるなんて、やはりこの家に住んで良かった。もう越してきてから1年ぐらいになるが、いまだにそんなことを思う。
そんな優雅な朝を過ごしていた中、上からドタバタと騒がしい音が聞こえてきて来る。どうやら同居人が目覚めたらしい。
今みたいな静かな朝もいいが、やはりアイツといっしょの騒がしい日々の方が楽しい。同居人である彼女の声が聞こえている。
「ふわぁ〜、おはよう。きょうの朝ごはんはなに〜?君の朝ごはんを食べないと朝がはじまらなくなっちゃってるからね」
同居人の彼女、ミシェルが階段から顔だけを覗かせ、挨拶をしてくる。その目はまだ少し眠たげでとろんとして、ふにゃふにゃとしている。髪も寝起きでボサボサになっていて、顔にもかかっていて口の中に入りそうだ。あっ、それ自分の髪だから!食べちゃだめだよ!?折角綺麗な水色の髪をしているのに傷んでしまう。
「おはよう、ミシェル。顔洗ってきたら朝ごはんにしよう。髪はあさごはんじゃないからね」
ミシェル少し危ない足取りでフラフラと階段を降りてくる。そして最後の一段を綺麗に踏み外した。
「ふぐっっ」
顔から地面に突っ込む。低かったため痛みもあまりないようだ。のそり起き上がると洗面所の方へ入っていく。いつもの事なので特に気にせず、作り終えた朝ごはん、二人と一匹分を机に並べる。
「フレイル〜、髪梳いて〜」
そして最後に彼女の髪を櫛で梳かすところまでが朝のルーティンである。はいはいと、返事をしながら洗面所の椅子に座っている彼女の髪の毛を丁寧に梳いていく。ボサボサだった髪も数回櫛を入れるだけで、サラサラになる。
「ふんふん〜、ふふ〜ん。ふふっ」
椅子に座っている彼女は足をブラブラさせ、とてもご機嫌だ。ご機嫌すぎて、鼻歌も漏れてしまっている。うちの姫は髪を梳かすだけでご機嫌になるらしい。
その時、玄関からキィっと扉が開く音がした。見ると、ドアの下の方についているペットドアから猫のルルルが入ってきていた。
全身真っ白でフサフサな毛に包まれていて、目は鮮やかな紅い目をしている。初めて会った時には泥だらけだったのが懐かしい。
「ほい、髪梳き終わった。ルルルと朝ごはんにしよっか」
2人と1匹、同じ部屋の中で並び、朝食を取る。これがうちの日常である。
「フレイル、今日は何をしようか。やっぱり昨日の魔法研究の続きかな?もっと突き詰めたら加速魔法は別の使い道ができると思ってるんだよね」
目を輝かせ、朝ごはんを頬張りながら今日何をするか話している。そんな彼女の話を聞きながら窓の外を覗くと、そこには気持ちの良さそうな空が広がっていた。最近まで梅雨だったが、やっと梅雨が明け、晴れてきたようだ。折角なら外に行きたい。
「今日は晴れてるんだし、外に行かないか?ピクニックなんてしたら楽しそうだな」
「外か。外も楽しいとは思うけどな。うーん、外か、そうだなぁ。」
ぶつぶつ言いながらこちらをチラチラと見て、いじけている。隠そうとする気がないのかその表情は嫌と強く物語っていた。魔法研究をしたいのだが、無理強いするわけにもいかない。だから、俺が折れてくれるのを期待している。そんなところだろう。
魔法研究をしたいなら、したいと言えば良いのに。本当にしょうがないやつだ、本当に。
「やっぱり、魔法研究がしたいかも。魔法研究をしないか?」
そう言った途端、顔を輝かせるミシェル。うん、非常にわかりやすい。
「君がそこまで言うんだ。しょうがない。今日は魔法の研究をしようではないか!」
一回しか言っていないが、それを言うとまたいじけてしまう。こっそりと苦笑しながら、朝ごはんをかき込むミシェルを眺め、水の入ったコップを手に取る。
「っ!?ゴホッ……!ぐっ、あっ、みz……ゴホッ!」
案の定むせたミシェルにコップをそっと渡す。コップを奪い取るように取って一気に飲み干す。
「ぷはーっ。死ぬかと思ったよ」
ミシェルはそう笑いながらニコニコしていた。
うちは今日も平和です。
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