第3話 釣り②

 あれから3〜4時間ほど釣りをしたが結局ミシェルには魚がかからなかった。まさかあれがフラグになったのか……ミシェルには黙っておこう。


「おかしい、絶対に何かしたでしよ。ほら、素直に吐いたら、半殺しで許してあげるから。何か特別な道具使ったんじゃない?」


 そんなものは無い。魚を釣りやすくなる道具があるなら寧ろこちらが欲しいくらいだ。乱獲しない程度にたくさん釣れるのならいくら出してでも欲しい。


 だとしても、そろそろミシェルを慰めないといけなさそうだ。あ、もう涙目になってきてる。


「いいもん、また釣りにくれば良いからね。その時は負けないから」


「ははっ、そうだな。また釣りをしに来るか。そんときはきっと釣れるよ」


 こんな散々な結果だったとしてもミシェルはまたついて来てくれるらしい。ただ悔しかっただけかもしれないが、それがちょっと嬉しく思わず笑ってしまった。


「むぅ、フレイルが僕を笑った!ひどーい。そんなやつは私の魔法の実験台にしてあげよう」


「すいませんでしたッ!!」


 角度は90度、背筋を伸ばし、腰からまっすぐ折る。最大限の謝罪の気持ちをこめ、勢いよく謝罪を繰り出す。


 脳裏にあの時、実験台にされた記憶が思い浮かぶ。思い返しただけで、鳥肌がたっていた。あの時の苦痛は今までに味わったことのない、とても一言では言い表せない苦しみだった。


 2度と体験したくない。絶対にだ。


「う、うん。そこまでガチ謝罪しなくて良いからね?……冗談だよ?」


こう言ってくれてはいるが、いつ気分が変わるかは分からない。 ……ミシェルを怒らせないようにしなければ。



 日が沈んでくる頃、俺たちは家に帰っていた。玄関先で寝ていたルルルを撫でてから、家に入る。半日振りではあるが久しぶりな気がする。疲れたが、もう一仕事しなけばならない。魚は新鮮な方がいい。さっさと始めよう。


 捕まえた鯵っぽい魚をまな板の上に載せる。頭を切り落とし、別で保存しておく。使える部分は全て活用するべきだ。


 腹を開き、軽く水で流しておろしていく。3枚に切れば鯵の3枚おろしの完成だ。同じような工程をささっと他の魚にすれば、オーケーだ。


「ミシェルー。魚料理で何が食べたいー?」


「うーん、私は何でも良いよー。フレイルのおすすめの食べ方で」


 何でも良いが一番困る(定期)である。新鮮な魚なんて、いくらでも調理法がある。おすすめたと言われてもなんでもは……。


「フレイルが作る料理ならなんでも美味しいからね。」


 ……。しょうがない。良いもの作るか。別に褒められて嬉しかったからとかではないが、新鮮な良い魚は贅沢に使わないとだからな。決して褒められて嬉しかったからではない。


 刺身と煮付け、しゃぶしゃぶ辺りにしよう。そうと決まれば、まずは時間がかかる煮付けから作っていくか。よし、頑張るとしますか。


 それからしばらくして、料理が完成した。ここ最近の中で一番うまく作れたと思う。会心のでき


「ミシェルー、ご飯できたよー」


 しばらくすると、ドタドタと走ってくる音がして、ミシェル顔を出す。


「おぉー!!料理がいっぱいだね!どれも美味しそう!」


「だろ?これが刺身で、こっちが煮付け。ここの魚はこの鍋で茹でて、しゃぶしゃぶしてから食べてくれ。せっかくの新鮮な魚だったから色々作ってしまったんだ。特に煮付けは自信作で……」


「そんなの良いから早く食べよ!冷めちゃうよ!ほら、フレイルも早く席について!」


 そんなのとはなんだ、そんなのとは。解説したかったのだが、料理が冷めるのは確かにもったいない。軽くため息をついて、席に着き、手を合わせる。


「「いただきます」」


 食べ始めようとした時、ミシェルがニコニコとしているのが目に入った。


「ふふっ。やっぱりいいね。この言葉」


「……?どういうことだ?」


 何か感じいるものがあったのかと、聞き返してしまう。


「あまり食べ物に感謝するという習慣はなかったからね。どこか温かみがあって、日々に感謝する心構えとでも言うのかな、そうゆうのがいいと思ったんだよ」


「……そうか、ならミシェルに教えて良かったよ。」


 なんか、俺の故郷を褒められたみたいで嬉しいな。


「ほら、もっと食え。まだまだ残ってるしな。刺身とか醤油をつけて食べると美味しいらしいぞ」


「そうなの?……なるほど、生臭さが消されてなかなかおいしいね。箸が止まらないよ」


 醤油と刺身の素晴らしさに気づいたミシェルはものすごい勢いで刺身を食べていく。


「……俺の分は残してくれるよな?」


「それは保証できないかな。刺身が美味しいのが悪い」


 堂々と刺身に責任転嫁とは良い度胸だ。食べ物の恨みが恐ろしいことを教えてあげようではないか。


「ミシェル、こっちのわさびをつけても美味しいぞ?多めにつけて食べたらいいぞ」


「へー、刺身って色んな食べ方が出来るんだね。どれどれ……ンンッ!?!?」


 味覚が子供っぽいミシェルにはわさびは強烈だったようで、手をバタバタとして、悶えている。


「は、謀ったね!?くっ、許さないからね!君の刺身も煮付けもしゃぶしゃぶも全部食べてやる!」


「あっ、ちょっとやめろって!それ取っておいた奴だから!!」


 俺の必死の抵抗も虚しく、結局ほとんど全部を食べられてしまった。うぅ、まだ全部食べてなかったのに。

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