1-4
「これは……?」
「魔術で
(い、意味が分からない)
彼の顔はしごくまじめで、エデルをからかっている様子は
てっきり彼は、ただ
だがこれは少しばかりというわけではなさそうだ。靴箱はバチバチと火花を放ち、
「この靴に魔術が
「俺は先ほどそう言ったし、そうでもなければ勝手に動かないだろう。話を聞いていなかったのか?」
「それは……」
これはお母さんの大切な遺品で……。
きれいで
でも今は、鎖にがんじがらめにされて、ひどく
エデルの
母は
エデル。かわいい私の娘、と。
まだ
赤い靴はあのときの母がそうであったように、苦しみの火花を
たまらない気持ちになり、エデルはとっさに靴箱に手を触れた。
「危ない!」
アランが
箱に触れた指先に熱が走る。
打ちつけた背をかばうように体を起こすと、エデルは目を白黒させたまま靴箱を見つめていた。
「勝手に手を伸ばすとは……
エデルは首を横にふった。
いくらこの人が怖くたって、ときには戦わなくてはならないことがある。い、いくら怖くたって……。
「く、靴を返してください」
「この靴はこのまま封印する。危険な
「危険? き……危険だったのは靴箱の方じゃないですか」
「それは、むやみに触ったからだろう。この靴は持ち主に
(災厄をもたらす……? じゃあやっぱりお母さんは……?)
エデルは靴箱の蓋を閉めようとするアランにしがみついた。
「おいっ、何をする!」
「だっ、だめです。一度、話し合いましょう。私は靴をさしあげるつもりなんてないんです! これはお母さんの遺品で、私にとって大切なものなんです!」
「何があろうとだめだ。こんなものを外に出すわけにいかない!」
もみくちゃになっている間に、エデルのつま先はテーブルの足を
その
「あれ……?」
靴がころんと、床に投げ出された。封印の鎖も出現しない。
エデルよりも、うろたえていたのはアランの方であった。彼は息を
「
だが事実は彼の言葉に反している。
アランは床に手をつき体をかがめ、箱の
エデルはこの状況があまり思わしくないものであり、そして靴は守れたものの、アランにとっての非常事態をまねいたことを
解放された赤い靴は、エデルの周りでうさぎのように飛び跳ね、喜びを表している。
彼は硝子玉の
「壊したな……」
「ひっ」
「なんてことをしてくれたんだ。これで靴を封じられなくなった!」
エデルは思わず後ずさった。歯の隙間から
「ご、ごごごごめんなさい
「弁償だと……?」
冷えきった目で見下ろされて、エデルは「ひいい」と声をあげた。
「金で買えないものだからこんなに腹だたしいんだろう。ガラス玉は直せない。魔術を使える人間なんてこのご
「アランさまはお使いになっていたでは……ない……のですか。紫の鎖とか、火花とか」
「あれは俺が使っていたんじゃなくて、箱に魔術がかかっていたんだ!」
こんなときに限ってエデルの声がきちんと
「もういい。解決策が見つかるまでこの靴は俺が、
「えええ、そういうわけにはいきません……!」
「なんだ。どうしても弁償しないと気が済まないか。では九十五万オングだ」
(新人職人の初任給では
「靴なら私が見張っています。だから返してください。お、お金は
「女はすぐに靴を
「そ、そんなことはありません! 私は一度もこの靴を履いてませ……ひい」
アランは
間近に彼の
後ろに
「そうだな。一度でも履けばもう
アランの低い声が耳のすぐそばで聞こえる。エデルはなぜだかとても
目を泳がせていると、アランは「こちらを見ろ」ときつく言って、エデルの
「ひっ」
「瞳も正常か。そういえばそうだな……魔術に誘惑されていない」
魔術がどんなものかは分からないが、エデルは靴を履くよりも作ったり直したりする方が好きだ。それに機能性のよくない見た目重視の靴は特に、自分が履いてみたいとは思わないのである。
「ふうん。珍しいこともあるものだな」
「あの……その……で、ですからっ。わ、私めにそのお靴をご返上いただけないきゃと」
「言葉が変だぞ。だがまあいい」
エデルはぱあっと顔を明るくした。ようやく彼もエデルの気持ちを理解してくれたのだ。
「本当ですか!?」
「ああ。お前の熱意はよく伝わったよ……。靴箱は弁償しなくていい。むしろ
エデルが
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