1-2
広大な庭を抜け、分かれ道で言われた通り左の道を選び、途中いくつかの建物を
敷地内なのに、遠かった……。
すっかりあがった息を
それは不思議な形のお屋敷だった。
背は高く屋根はドーム型で、縦長の大きな
オルハラ国の屋敷で一般的なものは、高さよりも
エデルは改めてあたりをカンテラで
人を迎えるというよりも、ひっそりと
(もしかしたらここは、別館のようなものなのかもしれない……)
せり出した
ここが
「ご、ごめんください……
エデルは
ぎぃぃ……と、扉は
「あのー……あの」
エデルはそっと、足を
「すごい……」
壁一面、
歩いても、箱。背伸びをしても、箱。振り返っても、箱。
エデルはごくりと
この屋敷は、間違いなく異常だ。いったい世界中のどこを探したら、ここまで
果てのない長方形の海に、ひとりぼっちで飛び込んでしまった。
エデルはそろそろと歩きだし、棚を
木製の箱にはそれぞれ番号が
ガラスのカットや数は
目の前の
右側にはダークグリーン、左側には
エデルは箱の側面をそっとなぞった。
彼女が
再び頭をふって、エデルは
「なんだろう、ここ……不思議な感じ……」
シンデレラ伯爵家は靴だけでなく、箱も集めているのだろうか?
「動くな」
エデルははっと
ひとりの青年がとがめるようにこちらを見ている。
髪色と同じ、深い
「あ、あの私」
「それはただのガラスだ。
エデルは箱に触れていた指をあわててひっこめた。
どうやら、彼に
青年はエデルの手首を素早くつかんだ。
「ひっ……」
ごりっ、とした
「名前と、どうしてここに来たかを言ってみろ」
「ち、違うんです私は……」
カンテラを持つ手が震える。
手元の明かりが揺らぎ、青年の青味がかった紫色の瞳に
「あ……」
その色は、さながら陽の沈みゆく空のようだ。
怖いけれど、とても美しい。ここにある無数のガラス玉よりもずっと。
こんなときだというのに、エデルは
「なんとか言ったらどうだ」
青年の言葉に、彼女はびくりと
(そうだ、ぼうっとしている場合じゃない)
エデルは心の中で自分を
「エ……エデル・アンダーソンと申します。申し訳ありません。ぬ、盗みを働くつもりはありません。道に迷って、こ、ここへ」
彼女に
「勝手に上がり込んで、箱に
彼はそう言うと、
「ごめんなさい、
エデルが言い終わらないうちに、青年は彼女から水色の名刺をひったくった。
「この色か……よりにもよって……」
彼はみるみる
(こ、怖い……!)
青年は名刺をにらみつけたまま、
「それは
(この人が……噂の、次期シンデレラ伯爵)
思っていたよりも、彼はずっと若かった。エデルよりはさすがに年上だろうが、五つも離れていないように見える。
整った顔はつり目がちな瞳もあいまって、ともすると冷たい印象を受ける。てっきり噂から変わった人なのかと思っていたのだが、
──だがその
エデルは緊張のあまり高鳴りっぱなしの心臓を押さえた。
「それで、靴は?」
エデルがしばらく胸を押さえてじっとしていたので、彼はけげんそうに口にした。
「この名刺はいわくつきの靴を持ってきた
どうやらアランは、あまり気が長い方ではないらしい。
エデルはもたもたしながら、トランクから箱を取り出した。箱の中身は待ちきれなかったようで、びょんびょんと
「これは……」
アランはさすがに驚いたようで、足元に
赤い靴は、エデルの手を
──この靴の、こういう
母は
「箱に
アランは手袋をはめ直し、ひとしきり靴箱を調べ終えると、そっと赤い靴を持ち上げた。
その
エデルははっとして、もごもごと口を動かした。
「そ、その靴、勝手に動き回って
「すまない、もう一度言ってくれないか」
エデルはすうっと息を吸いこむ。
「その、靴……! 勝手に動いてしまうんです!」
「俺と話すときはそのくらい声を出してくれないか。耳はいい方なんだが」
「ごめんなさい……」
アランは靴のかかと部分をなぞった。目を細め、思案するようなそぶりを見せる。
彼は何かを決めかねているような顔をしていた。
「あの……?」
アランの反応をじっと見守っていると、しばらくして彼は求めていた答えにいきついたらしい。
彼は
「よくこの靴を持ってきてくれた」
「え?」
「あなたを正式に靴箱館の客人として招待する」
そう
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