第1章 薔薇と演劇、そして靴
1-1
かつて、
エデルは馬車の
家族を
それも、たった一足の靴のために。
ディオルセイと呼ばれる型のヒール靴だ。靴の側面は切れ込みを入れたような〓字型に開き、つま先に
かかとが高く後ろ寄りにつけられたヒールには、ガーネットの宝石。
「あなたはずっと
ステップの音だけだというのに何度も聞いておぼえてしまった。
それはオルハラ国一の
(さて、もうすぐ目的地に到着するけれど……なんとかこの靴を
フィナーレを
エデルはひとりでに踊るこの靴を、持て
オルハラ国の
なかでも最後の『靴』は、百五十年前に
王妃の名は、シャルロッテ・ディセント。国民に
彼女の人生のエピソードはすべての子どもたち──特に女の子たちにとって、
ドレスや宝石のたぐいはすべて
それだけでは
靴に
彼女が王族の一員になったときからこのオルハラ国ではシンデレラを『
そのシンデレラが靴産業の中心地とした街が、産業都市カンディナール。
王都に
エデルは馬車から降りると、カンディナールの風の
彼女の出身地のものから比べれば、ほんの少し空気が重たい。
(シンデレラ
現在では王妃シンデレラの
ディセント家はシンデレラ伯爵家と呼ばれ、この街では親しまれるようになった。その一方で、この家に関するとある
シンデレラ伯爵家はいわくつきの靴を
特に次期当主のアラン・ディセントはその『趣味』にいたく熱心であると。
彼にまつわる噂は数えきれないほどある。
目玉の
ひっくり返すと
おかしな靴を手に入れるためなら手段を
きっとその
「なんとなくだけど、
エデルは
彼女は
ひとりでに動きだすこの不思議な赤い靴を
赤い靴は、母の
女優であった母は舞台の
母とは離れて
「お、お願い、トランクごと
エデルはすさまじい力で手のひらから離れようとするトランク(の中に入った赤い靴)を押さえ込んだ。
目を離せば母の靴は踊っているか、うるさくしているか、
エデルは何度も自分の正気を
けれどもこの異常な出来事に慣れ始めると、ひとつの可能性に思いいたった。
(もしかしたらお母さんの事故は、この靴に関係があるのかもしれない)
普通に考えれば、靴が生きているなんてあるわけないもの──。
シンデレラ伯爵の噂を聞きつけた彼女は、トランクに赤い靴と荷物を
だが、そこからエデルは大変な
エデルの住む
(死んじゃいそうな三日間を乗り越えて、ようやく街についたのはお昼だったのに、いつの間にか夜になってしまった……)
ようやくシンデレラ伯爵家の靴店にたどり着いてからも、上流階級のお客さまに
親切な店員になんとか彼のお屋敷の場所を聞いて、エデルはこうしてはるばるやってきたというわけだ。
しかし、エデルは今
「……お手紙でご都合を聞くの、忘れた……」
門の近くでしゃがみ込み、エデルはがたがたと
(どうしよう。もう
エデルは振り返り、来た道を戻るか
「うっ」
──見知らぬ夜道を歩くのは勇気がいる……。
しかもこのお屋敷は市街地から少し離れた場所にあり、迷わずに歩けるかどうかは
エデルはしばらく
春を迎えたばかりのこの季節は、陽が
こうして悪い方にばかり考えてしまうのは、自分のよくない
「だめだと思うけど、行こう」
屋敷の門番にそろそろと近づき、エデルはそっと
昼間靴店をたずねた際、
門番の男は
「あなたが行くのはあちらです。途中の道は右じゃなくて左。帰りはここでカンテラを返してください」
男は彼女を
(ぜ、全然案内が分からなかった。でも、もう一回聞けない……)
エデルは不安げに視線を動かしたが、門番がじろりと見たので、「ひっ」と小さく声を
知らない人と話すときは、必要以上に
とりあえず、進んでみよう……。
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