第3話 試合前の控室でのやり取り: 風間 修羅と影山 幻士
試合が迫る中、風間 修羅(かざましゅら)は控室で黙々と準備を整えていた。その表情には自信と苛立ちが入り混じり、今にも爆発しそうな雰囲気を漂わせている。彼にとって、獅子堂 一真(ししどうかずま)との試合は単なる勝負ではなく、「ヒーロー」と称される若いレスラーたちに、自分の圧倒的な力を見せつけ、彼らの信念を打ち砕く絶好の機会だった。
そこへ、静かに影山 幻士(かげやまげんじ)が現れる。彼は風間の荒々しい様子を見て、一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに冷静な声で話しかけた。
「お前にしては、随分と感情的だな。風間。今日の相手は、ただの若造じゃない。少し冷静になって挑むべきだ。」
風間はその言葉に笑いを含んだように鼻で笑い、影山の方を振り返った。
「影山、俺に冷静さを説くのか?あいつはただのガキだ。正義だの勇気だの、くだらない理想を語ってやがる。俺の拳一つで、そんなものは簡単に砕けるさ。」
影山は一歩風間に近づき、低い声で続けた。
「強さだけで勝てると思っているなら、お前はまだ甘い。獅子堂は天羽に鍛えられている。その心に宿る覚悟を侮るな。彼を潰したいのなら、感情に流されずに戦うことだ。」
風間の顔に少しだけ苛立ちが見え、彼は影山を睨みつけた。
「お前には分からないだろう、影山。俺はあのヒーロー気取りの連中が大嫌いなんだ。どいつもこいつも、観客の声援に背中を押されて、簡単に正義を語りやがる。俺はそんな『偽りの強さ』を、ただ叩き潰してやりたいだけだ。」
影山はその言葉を静かに聞き終えると、少し考えるように視線を落とした。しかし、ふと顔を上げ、冷ややかな口調で風間に言った。
「それでもお前が感情に飲まれるようなら、獅子堂に足元をすくわれるだろう。真に強いのは、自分を見失わない者だ。お前がそれを理解できないなら、ただの暴力で終わるだけだ。」
風間は影山の言葉に一瞬黙り込んだが、すぐに険しい表情を取り戻し、挑発的に言い返した。
「忠告は結構だ。俺は俺のやり方で奴を潰す。俺の前に立った者は、すべて打ち砕かれる。それが奴らの『ヒーロー』だろうと関係ない。」
影山はその様子を見て、微かに笑みを浮かべた。そして一言だけ、風間に告げた。
「そうか。だが、忘れるな。どんなに強大な力も、冷静さを欠けば必ず破綻する。…俺は、その時を見届けているだけだ。」
その言葉を残し、影山は控室を静かに後にした。風間は少しの間、その背中を睨みつけていたが、やがて視線をリングの方向に戻した。彼の目には、獅子堂を倒し、その理想と信念を粉々に砕く決意が宿っていた。
「偽りのヒーローごっこは今日で終わりだ…。」
風間は冷ややかにそう呟き、静かに拳を握りしめた。
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