愛の伝え方
緋月 羚
なんども。
「ん。おいで?やなことあったんでしょ。」
今私の前で手を広げているこの女は元カノで私を振った。
なぜこうなってしまったんだろう…。
「あぁー!もうっ会社はブラックだし、恋人は他に好きな人が出来ただのなんなので振られるし…なんでこんな目に合わないとなの…。ぐすっ…。マスターさん…すみません、大きい声出して…。」
「大丈夫ですよ。今は他のお客様もいないので。話すだけでも少しは楽になれますからね。これは私からのおごりです。」
この会社に入ってから飲むことも少なくなってしまったが、酒を飲みたくなってふらっとこの店に立ち寄ってから気に入って常連になるほど来ている。
「ありがとうございます…。」
嫌なことを忘れたくてもらったお酒を飲み干す。
「おかわりいいですか?」
「飲み過ぎもよくありませんので少し軽めのやつをお作りしますね。」
別のお酒を持ってきて目の前で混ぜ合わせてくれる。
幼い頃に見て憧れだったこれが目の前で見れるのが楽しくて、このお店に来るとついいつもよりも飲んでしまう。
「どうぞ。」
いつも飲んでいるやつよりもフルーツ感が強くて甘い。
「気に入っていただけましたか?」
「美味しいです…。」
マスターさんは聞き上手で嫌なことや悩み事を話しやすい。
「…っていうことがあってミスを押し付けられて残業ですよ。何もしないで部下に丸投げしてるくせに。」
愚痴をこぼしているとドアが開く音がしてここの常連さんか確認するために後ろを振り向いた。
「え、夢愛?」
「あっひさしぶり〜元気には…してなさそうだね。なんかあったの?」
そう、夢愛は他に好きな人が出来たと言って出ていった元カノだ。
「っなんでもない。帰る。」
「そんな事言わずに少し話そうよ?ねっ。」
惚れてしまった弱みか…まだ未練があることを思い知らされる。
この声で言われると逆らえない。
「…あーなるほどね〜。んで酒に溺れてるってわけだ。」
「なんか悪い?」
「そのさぁ、なんか言葉がトゲトゲしてるのヤダからなんとかしてよ。」
「あんたが悪い。帰るなって言ったんだから愚痴くらい付き合いなさいよ。それともなに?振った女がこうなってるのが面白くて茶化したかったの?」
「んー…嫌われちゃった?そんなことないっていうかただ話したかっただけなんだけど。」
「嫌いだったらもうとっくに帰ってるよ。…別れたのに話すことあるの?」
「いやーもうちょっと愚痴聞いてから話すことにするね?」
「まぁなんでもいいけど、とことん聞いてもらうからね。」
最初にずっとハイペースで飲んでいたから酔いが回ってきて眠気が襲ってきた。
「眠い…。」
「おーい?…あーあぁ潰れちゃった。大丈夫?明日休みなの?」
「…。」
「って寝てるし。まぁお酒強くはなかったもんなぁ。んーこれどうしたほうがいいんだろ。とりあえずどっかで寝かすか。」
…起きたらこの状態なわけだ。
「わかってくれた?」
「とりあえずは理解した…けどなんでホテルなの?」
「別れてから家に行くのはおかしいかなって。あ、お金は全部出すから安心してね。…そんな世界の終わりみたいな顔しないでよ?笑ってる顔が一番かわいいんだからさ。はぁ仕方ないなぁ。ん、おいで?やなことあったんでしょ。そしたら慰めてあげないとでしょ。」
「…振ったくせになんで優しくしてくるの。忘れようと頑張ってるのに思い出させないでよ!」
「…ごめん。振ったの私だしおかしいとも思ってる。けど、また私のところに来てくれないかな。」
「…は?何いってんの?好きな人できたって言ってたじゃん。だから私のことも振ったのに。」
「あれは…嘘ついた。」
「そんなの信じられるわけ無いじゃん。あれが嘘ならこの2ヶ月何してたの?その好きな人に振られたから戻ってきたんでしょ?そんなので私の気持ちを揺さぶらないで!」
「ほんとに違う!他に好きな人なんかいなかったし、今でもずっと好きなのは明日香だけ。あんな一方的な振り方して傷つけただろうから謝りたくてあのお店に行った。でもまだ好きでいてくれてるって、ならもう一度だけやり直してもらえないかと思って。」
「なにか言ってくれたらこんな悲しい思いせずにすんだのに…。嫌い。でもまだ好き、だからやり直したいとは思うけど…許せるわけじゃない。」
「うん、ごめん。これから一生をかけて償っていくからまた一緒に歩いてくれないかな?」
寂しそうに空いていた腕の中に飛び込む。
「そうしないと許さないから!」
泣きつかれていた私はそのまま腕の中で眠った。
「かわいいなぁ…。こんなに泣いちゃって。ねぇ、もっともっと私だけを見てよ。私に依存して?んー…次は何して愛を伝えようかなぁ。あ、いいこと考えたぁ。」
「もう離れられないよね?」
愛の伝え方 緋月 羚 @Akatuki_rei
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