5 ゆるされる色 小山友梨奈

 リセット作業中、黙々とグラスを拭いていると一緒に作業をしていたみちかが声をかけてきた。三月から入った新規バイトでまだあまりよく知らない。何色に染めているのか、判別の付きづらい退色したショートボブで、近くで見るとやはり傷んでいる。

「小山さんの爪って濡れたみたいに光ってますね。めちゃきれい」

「ありがと……」褒めてもらうために爪を磨いてるわけじゃない。沈黙が回避できてほっとする部分もあるにはあるけど、こんなのはただ場を持たせるための会話だろうってどこかでわかっている。

「すごいな~。飲食だとネイル厳禁だから、そこだけストレス溜まるんですよね~。ポリッシャーってなにかお薦めあります? 電動の買ったんだけど、使いにくくって。サロンは高くて通えないし」

「メラミンのボックス型になったやつが使いやすいよ……かなり細かいから、失敗すると皮膚までやられちゃうけど」

 爪磨きは時間が溶ける。無心で擦っていると、爪はどこまででも薄くなってひりついてくる。だから一応タイマーをかける。全部磨くのに十分だけ。そうしないとあたしは自分で歯止めが利かない。

「でもこれ、ちょっと透明っぽいの塗ってるから……」

「え、そうなんです? 全然わかんないですね」

 正確には、胡粉ネイルの水桃色だ。京都の絵具屋さんが作ったブランドで、色の和名がどれもすごくかわいくて好き。水桃はボトルに入った状態だとはっきりしたピンクだけど、ひと刷毛だけ塗ると桜貝みたいにうっすら染まってほとんどヌードに見える。

 染織の授業は面白い。好きな色を選んでも、好きな色には染まらないし、染料を選ぶにも知識が要る。色にも色の名前にも由来がたくさんあって、あたしはその由来を知るのが好きだ。

「いいなあ、今度教えてくださいねっ」

「うん、まあ今度」

 口が微妙な棘を吐く。あたしはどうしてこんなに他人が苦手なんだろう。もっとうまくやれたらいいのに。そう思うけど、それさえ本音ではどうなのか、自分でもわからない。

「じゃあ、お先に失礼します」

「おう、お疲れさん」

 店長はリセット後もしばらく残っていることが多い。でも泊まりは禁止されていると主任が話していた。一度本部から厳重注意が入って、次見つかったら首になるかもって噂だ。

 外へ出るとアーバンカーキのアクアが停まっていた。運転席にはお兄が座っている。

「お疲れ。鉢持ってきてやったぞ」

「お母さんが来るのかと思った」

「親父が職場の送別会を家でやるっていうんで、準備で忙しそうだった。――もう一人は? 送ってくぞ。狭いけど後ろでいいだろ?」

「それが……。渡すはずだったんだけど、休んでて」

『今日車?』とセジからメールが入っていたから、店が終わる頃には来ると思ってたのに。さっきからかけているけど電話に出ない。今日は本部の抜き打ちがあって、セジが店を休んだ。野木さんが保身で彼を帰したんじゃないかと、あたしは疑っていた。

「どうする? そいつんちわかってんなら運ぶ?」

「――ごめん、今日はやめとく。お兄、明日なにしてる?」

「なんもねえけど。なにおまえ、また俺のこと駆り出すつもり?」

 明日は、期末試験の課題をやるために学校に行くから、バイトは休んだ。セジとシフトの休みが重なることはあんまりないけど、週末の勤務表には彼の名前もなかった。どこかでは渡したい。

「もしかしたらお願いするかも」

 日曜の学校は人がいない。染織室を独り占めできるから、よく使わせてもらっているけど、土日は店も忙しいから休みづらい。

 課題提出用に選んだのは一斤染。わかりやすく言えば桜の色だ。

 日本の色は四季の変化と結びついている。濃い赤色は平安時代には禁色と呼ばれて、身分の高い人しか身に着けることができなかった。この一斤染の薄いピンクは、ゆるし色と言われて、誰でも着ることができた唯一の赤。みんなあんまり気づいてないけど、桜が咲く前の枝はほんのり赤い。桜の蕾が膨らむ前に樹皮がうっすら染まり始めるちょうど今頃、ひっそり準備をしている孤独な桜が好きだ。

 作業の合間に、セジに三回メールを送ったけれど、返事はなかった。染液を絞りながらしびれを切らせて、電話でお兄を呼び出す。

「昨日の植木鉢まだ積んでる? 迎えに来て。そのまま持ってく」

『えー。もう今日行かないと思って、美容院の予約いれちゃった』

「キャンセルして。誰にも会わないのに髪だけはツーブロックパーマとか洒落っ気ありすぎでしょ。無駄、徒労、誰得」

『会ってるだろよ、人には。ネットで』

「エピしかやらないくせに」

『なんでそんなイラついてんの、おまえ生理? 大丈夫なん』

「それ以上言ったら殴る。ごめん、埋め合わせはするから」

 染織室ではいつもジーンズにスモックエプロン。着替えがないことに気づいて慌ててお兄に追加でメールする。クローゼットにかかってるやつなら何でもいいとは確かに言ったけど、お兄が持ってきたのは最近買った白いリネンの重ね着風ロングワンピだった。腰までくるみボタンがついてて、裾がAラインに広がってる。

 迎えに来たお兄を待たせて学校のトイレで着替え、そのまま団地に向かう。ワンピース姿なんて見せたことない。なんて思うだろう、着慣れてないから恥ずかしい。着いたのは午後三時過ぎ。脇道に車を停め、鉢を持ってインターフォンを鳴らすが反応がない。

「いねえの? マジかよ、これ重いんだけど。先に言ってよ」

 ドアノブをそっと回すと、鍵はかかってなかった。中を覗くと、三和土に透明傘が束になって倒れている。靴も裏っ返し。セジの部屋は物が多いけど、几帳面だから普段はもっと整頓されてる。

 カーテンはないけど奥は薄暗く、誰もいなかった。

「話してあんだろ? 置いて帰ろうぜ」

 倒れた傘を起こそうかと考えていると、後ろから声がした。

「あれえ? どったの、ふたりして」

 振り返ると、セジがこちらへ向かって共用廊下を歩いてくるのが見えた。手に白いポリ袋を下げている。近所にある薬局の袋だ。

「どうもお、はじめまして。お兄さんですかあ?」

「……連絡なかったから……どうしたの、薬局?」

「ん、腹が痛くて」

 眉根を寄せつつ、あたしたちの間を割るように扉前に立った。

「兄の高志です。こいつが早く渡したいっていうから、これ。お休みのところごめんね」

 お兄が微妙な圧をかけるのに気づきイヤな気持ちになる。セジはようやく思い出したように口端を歪めて、ごめんなさいと謝った。

「あ~、植木鉢。ごめんなさい、忘れてました。ちょおっと片づけますんで、待っててもらえます?」

 セジが玄関扉を閉めると、どこからか生暖かい風が流れた。

 お兄は鉢を廊下に置くと、腰に手を当てた。

「腰痛ってえ」

「弱すぎ。ゲームばっかしすぎ」

「んなこというならお前これ持ってみろって。意外に来るぞ」

「いつも皿運んでるから。あたし、腕の力わりとあるもん」

「これでえ?」あたしの二の腕を掴む。

「それより、あいつ、どっかで見たことある気がするんだけど」

「……まあ目立つからね」

「いや、そういうんじゃ。まあいいや、思いだしたら言うわ。そんでこれどういう流れ? 俺も一緒に、部屋上がる感じなん?」

「……ごめん美容院行って」

「ええ、お前がキャンセルっつうからしたのにまた連絡すんのもなあ……でもまあそうよね。帰りはどうすんの?」

「なんとかする。お父さんには図書館行ったとでも言っておいて」

「ひとつ貸しだな」

 そう言ってお兄は車に戻っていった。

「おまたせ、あれ、お兄ちゃん帰ったの? 友梨奈ちゃんかわいいね! 今日は白ワンピ? めずらしいじゃん」

「今日はバイトないから……」

 セジが植木鉢を移動させる。中へ入ると、お香の煙がもくもくと漂っていた。お皿に載せたコーンが床に置いてある。

「煙くさっ、あたしがそれあんまり好きじゃないって知ってるくせに……」

「ごめん。いい匂いさせようと思って」

 セジが慌てて奥の窓を開けると、辛子色のコーン香から筋を立てて上っていた煙が形を失って広がった。

「くしゃみ出るのに」

 アロマは好きだけど、目がしかしかするから煙の出るやつは好きじゃない。――服にも染み付いてしまう。

「うん、ごめんね」

「……お腹、もう平気なの?」

「全部出したから大丈夫」

「これ、借りてたスカジャン持ってきた。ありがと……」

「お兄帰しちゃったんだろ? そんな薄着じゃ帰り寒いんじゃね?」

 ポール&ジョーの猫の紙袋からスカジャンを取り出して渡すと、セジは顔をうずめて匂いを嗅いだ。いつもの仕草だけど、ちゃんとわかってくれてるって思えるから、何回だって嬉しい。

「また洗ってくれたんだね。はあ~やっぱ、いい匂い……」

「――それはラベンダーとペパーミントだよ。あたしが混ぜたの」

「え、柔軟剤って作れるの!? そんでいっつも違う匂いしてたんかあ。さっすが専門学校生」

「染織は関係ないよ。それにセジだって同じじゃん」

「おれは全然ガッコいけてないからさ」

 セジはお香の燃え殻を持って台所に行くと、棚に吊るしたごみ袋に入れた。あたしも彼について聴色のストリングカーテンを潜る。あたしが選んだ、あたし色のカーテン。こんな形でしか傍にいられないけど、でもせめて……って思ってる。

「ねえ、土どこ? 鉢の植え替えするならさ、なんか着替え――」

 途中まで言って、冷蔵庫のボードにある文字が目に入り、あたしは固まった。大きく書かれた二つの文字と、その下に並ぶ番号。

 来たんだ。気づいてしまえば、ぐっと胸が詰まって苦しい。

「あの人はやめときなよ。歳、離れすぎでしょ」

「なに急に。やめるってどういう意味?」セジがすっと真顔になる。この顔になると彼は怖い。でももうあたしだって止まらない。

「『あの人ってだれ?』とは訊かないんだ」

 めんどくさ、と呟いてセジが体を離す。

「やらせてくれたらいうこときいてもいいよ」

「そんな気ないくせに口ばっかり。……成人したらここ出る?」

「さあ? どうだろ。そのうち金がなくなったら出るんじゃね? あ、それ出るっていわねえかあ。追い出されるってやつだ」

「あたし調べたんだ。十八になったら親の戸籍から名前抜けるって。離籍届出せるって。そしたら保険証とかだってちゃんと……」

 ずっと言おうと思っていた言葉が堰を切って出てくる。

「いつ死んでも別に構わないし。病院行かなくたって平気だよ?」

「あたし、今の学校卒業して就職先見つけたら、ひとりで暮らすつもりなんだ。そしたら、一部屋貸してあげる」

「わー、セレブぅ。いきなりそんな広いところに住めちゃうの? おれに間借りさせたら、一人暮らしじゃなくなっちゃうよん」

「茶化さないでよ……」

 あたしが俯くとセジはふうと息を吐いた。

「それに、友梨奈んとこは、父ちゃんお偉いさんなんだろ? 銀行だっけ。家出るの反対されてるって前言ってたじゃん」

「古くて頭が固いだけ。なに言われても関係ない」

 うちの親は見合い結婚で、最近ではあたしにまでそんな話をしてくる。早くバイトをやめて料理教室に通えとか、英会話を習えとか。染織を続けたいなら和装デザイン事務所の口を探してやるなんていう突拍子もない話が出たこともある。すべてが婚活のためだ。あたしはものじゃない。スペックなんていらない。自分の相手は自分で決める。冷蔵庫に背を向けて、気持ちを切り替える。和室の窓際に並ぶ観葉植物を見ながら「植替えするやつどれ?」と訊ねた。

「あ、そっちじゃない。あの子」

 セジが部屋の隅を指した。ガムテープでべたべた貼られた牛乳パックの器に生えたひょろりとした植物。小さな台の上に載せられていたけど、そこに秘色のストールが敷かれているのを見て、気持ちが頽(くずお)れかける。

「日に、当てた方がいいんじゃないの?」

「あー。これね、しばらく日陰に置いておいた方がいいんだって」

 気づくとあたしの両手がワンピースを握りしめている。リネンはすぐ皺になる。気づいて手を離したけれど、汗ばんだ掌のやり場に困り、胸の前で意味もなく指を絡めた。

「あ、ボタン、外れてる」

 セジの視線が鳩尾に注がれる。くるみボタンがひとつ外れていた。聴色の下着がのぞいている。薄い色。あたしの血の色……。

「どうする? とめる?」ボタンの上に示指をとんと置き、一拍置いて、悪戯っぽく笑う。「それとももっと外す?」

 行き場のないあたしの指がセジのシャツを掴んでいた。

「外していいよ……」

 あたしの言葉とは裏腹に、セジはくるみボタンを留めた。

「だめでしょ、大事にしなきゃ」

 セジの上睫毛が、下を向くのを見てあたしは頭に血が上った。

「大事にしてるよ、大事だからだよ!」

 セジのシャツを手繰り上げ、胸のタトゥーに顔をうずめる。「してよ!」と声を絞ると、セジは脱力して腕をおろした。

「友梨奈ちょっとうざい。してもいいけど中には出さないよ。おれ子供要らないから」

 あたしはそれを聞いて、さらにカッとなった。無意識に腕が上がる。咄嗟にセジはあたしの両手首を掴んで動きを封じたけれど、胸の前でいったん止めると、自ら自分の頭を殴らせにいった。

「ほーら、やっちゃえ」操り人形みたいにあたしを揺らす。

「やめてよっ!」

 揺れる視界の先、ガムテ貼りの牛乳パックにストールが踏まれている。彼の腕を振りほどき、引きちぎるようにストールを抜くと、手にしたカバンで彼を殴って外へ飛び出した。後ろで何が倒れる音がしたけど構わなかった。セジは追いかけてこなかった。

 集合玄関の紙受け用ごみ箱にストールをつっこみ、外へ出ると、帰ったはずのお兄が真正面に停まっていた。運転席のシートを倒して気持ちよさそうに眠っている。「なんでいんの?」

 苛つきながら、助手席側の窓を爪で叩くと、お兄がイヤホンを外しながら起き上がり、ロックを解除して、不思議そうに言った。

「え、どしたん、その顔やばくね? なんかされた?」

「いいから!」

 乗り込むと、お兄は一瞬、はあ? という顔をしたけれどそれ以上は突っ込まず、車を発進させた。

 途中、一号線が混み始めると、ハンドルを指でとんとんやりながら怠そうに言った。

「あいつ随分若いんだな。おまえとタメくらいかと思ってたよ。……なあ、おまえさ、あいつと――」

「歳なら、うちの親ふたりのが離れてんじゃん」

 お兄はブレーキペダルを小刻みに踏みながら、ため息を呑み込み、ポケットから煙草を出した。

「親世代と俺らじゃ大違いだろ。俺が十歳下と付き合ったら相手高校生だ。第一親父が許さねえな」

「そんなに離れてないし、許してもらう必要ない」

「そう怒んなって。あいつのことどこで見たか思い出したんだよ」

 お兄は後ろの車両に軽く合図を鳴らしてから脇道に入り込んだ。

「どこ行くの? 家、そっちじゃない」

「ホテルでも行くか?」ハンドルを支えながら煙草に火をつける。

「ざけんなっ!」

「すまんすまん。やぱそういう感じか……。おまえって、ほんと昔っから変わんないね。かっとなるとすぐ言葉汚くなる」

「……わざとってこと?」

 お兄は返事の代わりに窓を開け、煙を吐いた。「桜でも見にくか?」

「行かない。あんなすぐ散る薄い色の花見て、何が楽しいの」

「万博公園までいけば赤い桜も咲いてるぞ。河津桜ってんのか?」

「長久手じゃん。あんなとこまでわざわざ」

「わざわざ行くから行楽なんだろうよ。お前、雅って言葉の意味知ってる? 日本人」

 お兄は適当にぐるぐると走ってから、自宅まであと五分の場所にあるコンビニで車を停めた。あたしを車内に残して店内へ入っていくと、アイスコーヒーと、携帯用のおしぼりを買って戻ってきた。

「ほれ。家着くまえに、ちょっと顔拭いとけ」

 前方を向いたまま、バックミラーをこちらへ向ける。

 マリリン・モンローのマットレッド、デボラ・ハリーのアップルレッド。色々試したよ。でも赤い口紅を塗れば塗るほど、あたしの顔は青ざめて見えた。唇が荒れて、ただのワセリンを厚塗りしていた時、初めてあいつに話しかけられた。口どうしたの? 痛いの? でもなんにも塗らない方が友梨奈ちゃんらしいよって……。

 いくらナチュラルメイクを装っても、こんなに雪崩れてたら台無し。マスカラは落ちて、下まぶたでくまになってるし、グロスも浮きあがって目も当てられない。雪も桜もきれいなのは一瞬。

 まっ赤に染まれないあたしと一緒に消えてなくなれ。


 夜半、メインリビングからテレビの音が途絶え、照明が落とされる。スリッパの音が響き、ぱたんと両親の寝室の扉が閉まると、隣室のお兄があたしの部屋の壁に向かって指ノックで囁いた。

「友梨奈、起きてるよな」

 ドアを開けると、全身スウェット姿のお兄が入ってくる。

「これ」手にした雑誌をあたしに示してから、無造作に机の上に置く。

「たぶんお前の手には余るって。まだ付き合ってねえなら、深入りする前にやめとけ」

 その表紙を見てあたしは固まった。

B∀diバディ up!』――家事代行エロ少年派遣のやんちゃモデルが再登場!「クッキリ! だけど無修正!」ギリ18禁★お〇にぃ★年頃男子のトキメキスプラッシュ!

 パワーワードが並ぶ。思わず目を背けようとしても表紙に大きく映った男性の姿があたしを離さなかった。

 お兄が指で、右上をトンと指した。

 ――COVER MODEL RIO 172cm 54kg age 19

 あたしは首を振った。

「違う、だってこれ。歳だって……」

 全身派手なペイントを纏った、ほぼ全裸の男性モデル。唇にはチェーン状のリングピアス、下腹部にクロスフラッグされた二丁の銃の図柄。首筋のツバメ。腕に太いトライバル。顔はヤシの葉で殆ど隠れているけど、半開きの口に中指をひっかけて下唇を押し下げ、丸めた舌を絡ませている。首筋も、締めろと言わんばかりに露わだ。

「……決まったわけじゃ――」

「ばかか、おめえ。そこ、ウェブもあるみたいだけど。ぜってえ見んじゃねえぞ」お兄は言い捨てて、部屋を出ていった。

 見たくもない成人向け雑誌を残して。

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 あたしは放心状態で、中指で開かれた下唇の粘膜の色をしばらく眺めていた。情動を煽る許せない色だと思いながら……。

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