第6話 スイーツ(笑)
大学から徒歩5分。
沢山の学生やサラリーマンとすれ違いながら駅へと歩き、3駅離れた所で電車から降りる。
距離としてはそこまで離れてはいないが、駅ごとに明確に乗り降りする人には違いがある。
来たばかりの頃はその感覚が新鮮で、一つ一つの駅ごとに別の惑星を旅しているような気がして少し楽しかった頃が懐かしい。
「さてと匂わせ写真たくさん撮るぞ」
「いや堂々と言うことじゃないだろ」
頼むからそんな後ろめたいことを堂々と言わないで欲しい。
ずんずんと駅を抜けていく彼女の後を追う。
ここら辺周辺では、最新のSNSで有名なグルメや食べ物がある。
僕たちが今日こうしてここに来たのは、まずは写真で徐々に付き合ってアピールをしていくためだ。
いきなり学校で接点を持ち始めると、周囲にいろいろ騒がれめんどくさいので、徐々に写真で匂わせて付き合ってましたと言う算段だ。
彼女は無邪気な表情を浮かべて指を指してしゃべる。
「実際値段の割には味は普通だよね見た目だけで」
「おい、女子大生それ言っていいのか」
こういうのは、男の僕のセリフではないのか。
嘘でもいいから、かわいいだとか、おいしいんだよとか言って夢を見させて欲しかった。
「実際そうだもん」
「こんなの食べる位なら、ラーメン食べたほうが完全においしいし」
「やめてくれ。それは俺のセリフだ。俺の女性に持っている理想像を崩さないでくれ」
嘘でもいいから、今だけは夢を見させてくれ。
バーニー。
はじめてのデートだと、浮かれていた気持ちが、一瞬で現実に引き戻される。
「ごめん、ごめんデートの時に言うセリフじゃなかったね」
てへっと舌をだす。
「お詫びにお姉さんが何かおごってあげるから」
そう言うと、僕の手を握って歩き始める
ドキドキす僕とは裏腹に、彼女は幼い子供とでも手を繋げような感覚で楽しそうに美味しそうなお店を探し始める。
彼女の手は柔らかくて、小さくて女の子なんだなぁと、改めて意識するが、それと同時に平然と、それを出来る彼女になんだか男として見られていないような気がして、少しもやっとした。
「こことかいいんじゃない?」
そう言う彼女の視線を見つめると、チョコとホイップクリーム、果物が敷き詰められたいかにも派手でSNSで有名になりそうなスイーツが置いてあった。
「見てるだけで胃もたれしそうだ」
押し寄せる年の世界。最近はあまり甘いものは食べられなくなった。あのクリームの量だと食べている途中で具合が悪くなるかもしれない。
「めちゃくちゃ美味しそうだね」
「あれがか?」
軽減な表情を浮かべる、僕とは反対に、彼女は食べる気満々らしい。
興味津々の表情を浮かべる。
さっきまで散々見た目だけとか言っていた人とは思えないセリフだ
「だってすごく甘そうで、それがたくさんでつまり幸せで美味しそう」
当分を前に語彙力が溶けていく彼女に少し寂しさを覚える。
これも彼女が都会なら並みに飲まれてしまった結果なのだろうか月人は人を子も変えてしまうものなのか
「てか、こういうのはあまり好きじゃなかったんじゃないか」
「見た目の割に高いっていうのが好きじゃないだけで甘くて美味しそうなのは、女の子はみんな好きなの」
「そういうもんか?」
あまりそこら辺の事情に疎いため、そういうものかと納得せざるを得ない。
「とりあえずあれ一緒に食べたいんだけどいいかな?」
「無理そうなら、ほとんど私で食べちゃうから」
それなら最悪俺が食べれなくても問題はないだろう。それに何より彼女のあの食べたそうな顔を悲しませるようなことはできない。
とりあえず今回の目的は匂わせ投稿ができればそれで充分なのだ
「わかった。あれを食べようか」
店内に入ると似たような男女のカップルや女の子同士のグループがたくさん並んでいた。
少し注文まで時間がかかるかと思っていたが回転も早いようで、すぐに自分の番が来て注文を取り商品が出てきた。
それじゃ早速写真を撮ろうっか。
そう言うと、写真アプリを立ち上げ成田で写真を撮る。
「これでどう?」
写真を見ると、ほとんど僕は写っていなくて、ただスイーツの写真がきれいに撮られているだけだった。
「いや写真を撮るのはすごく上手なんだけども、今回は匂わせの写真を撮りに来たんじゃないのか?」
「こんないかにもな匂わせは無いでしょ」
そう言われ、改めて写真を見てみるが全くわからない。
「お兄さん本当に大学生?」
「実はもう社会人で、実は私よりも年上だったりする?」
そこまで言われても分からない物は分からなかった。
最近の若い子は年能力が超能力でも使えるのだろうか僕にはただスイーツが撮られていることしかわからない
「ここからなんで彼氏がいるかも!ってなるんだ?」
「正解はここでした」
スイーツに刺さっているプラスチックの2つの小さなスプーンが付いていた。
「そういうことか」
「こんなに分かり安く2人で来てますって言うアピールはないでしょ」
「言われてみれば確かに…」
こんな写真一枚からでも分かることはあるんだな。
「女の子の世界だと察することができないと、それイコール死だからね」
「なにそのバトルマンガみたいな世界?女の子怖い」
「じゃあお勉強も終わった所で食べよっか」
そう言うと、彼女はたくさんの保育チョコレートクリームとその上に砕かれたコーンを混ぜて頬張る。
「うん、おいしい!」
スイーツだけでもとても甘そうなのに彼女のおいそうな表情を浮かべていると、胸焼きしそうなほど甘い。
もうそれだけで充分であった。
「じゃあおにーさんもアーン」
「いやスプーン2つあるんだし、俺はこっち使うよ」
幼馴染かも知れないが、さすがに人前で付き合ってもいない女性の人とこんなことをする勇気は無い。
スプーンを取ろうとすると、目の前からすっとスイーツが動いてスプーンを取り損ねる。
「だーめ、お兄さんはこっち」
「アフターでこんなサービスしてもらえるのなんてなかなかないんだから」
「店でお金落としたこともなければ、アフター行く約束もしたことねーよ」
「ぐだぐだ言ってないで、彼女できたときの予行練習だと思いなさい」
ぐいぐいとスプーンを押し付けてくる彼女の圧に耐えきれず、えいっと口に入れる。
「どうおいしい」
正直言って恥ずかしさと緊張で味などわからなかった。
「おいしい」
「よかった」
そう言って笑うと、彼女はまた美味しそうにスイーツをほおばる。
彼女から目をそらし赤面した顔を隠すように、頬杖をついて周囲を見渡し心を落ち着ける。
生まれて、このかた彼女のいなかった自分にとっては刺激が強すぎる。
まるで彼女はゲームやアニメの世界からそのまま飛び出してきたようだった。
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