第4話 正しいだけが正解じゃない

ゆっくりと体から彼女が離れる。


言葉なんて出なくてただ恥ずかしそうに強がった笑みを浮かべ、顔を少し赤くする彼女を呆然と見つめることしか出来なかった。


そんな彼女の見せる表情や今の行為は本心なのか。それとも何かほかの目的があったのか、今の自分では彼女の心の内を覗き込むことは叶わない。


ただ事実としてあるのは、僕はこれから先寝ても覚めても彼女のことを思い、一挙手一投足に心をジェットコースターのように上下させる魔法に掛かってしまったことだけだ。


「惚れちゃったでしょ?これが大人の女の魅力だよ」


「これはちょっと年下相手には反則じゃないですかね…」


「どんな相手にも全ての力を使って全力で戦わないとね」


「全力過ぎて審判がいたらその前に反則負けだよ」


互に空回りする会話で、どうにか恥ずかしさを埋めようとする。

どうにも上の空で会話とゆう会話にならない。


「ちょっとお姉さん汗かいちゃった、シャワー先浴びちゃうね!」


「あ、うん」


バタバタと逃げるようにベットから降りると、持ってきたカバンをそのままお風呂場のほうに駆け込んで行ってしまった。


彼女が居なくなて静かになった部屋で心を落ち着けるように吐き出す。


「わかんねーなぁ」


クシャクシャと頭を掻いて、ポケットからいつものようにタバコを取り出して手を止める。


実は彼女…椿と名乗る女は実は俺と全く関わりのない自分で、俺を利用しようとして助けたのかもしれない。


実は大学にいるときから目をつけられてて事前に色々と情報を集められてて、幼馴染とゆうキャラクターを演じているのかもしれない。

実際に俺は彼女に心当たりがない。


さっきやったことだって、俺を惚れさせるためで演技なのかもしれない。

歴は浅いが半端者ながら俺だってここの街の住人だ。

惚れた別れたの話は挨拶みたいな物で、そこからの金銭トラブルに都合のいいように使われて捨てられたなんて話は腐るほど聞いた。


改めて手に握られている見慣れたマルボロを見る。

最初はただの好奇心とカッコつけが、気が付けば無意識で吸っていてタールもニコチンも来るところまで来てしまった。


「ふー」


一呼吸おくと俺は立上り、窓の近くに立つ。


「じゃあな相棒。また後で」


手に持っていたタバコの箱を手で潰す。

中からタバコがぐしゃっと溢れてきて、葉が少しこぼれる。


それを窓の近くにあったごみ箱に投げ入れると、またベットに戻り一人倒れこむ。


「まだ結構残ってたのになぁ」


名残惜しそうな声が部屋に静かに消えた。


それからしばらくあれこれ考えながらテレビを見ていると彼女がシャワーから戻ってきた。


メイクもヘアセットもだいぶ大人しい雰囲気になったが、それでもなお美しさは健在で元のバランスや骨格がいいのだろう。

なんと表現すればいいのか…。クラスの委員長がそのままOL風の見た目になったといえばいいのか。


清純さと年相応の若い顔つきが相まって心が掴まれる。


ここでこれ以上の彼女の美しさ可愛さの説明は行わない。

どれだけの長文で表現方法で彼女を表現したとしても、彼女を表現するにはどれも今の俺には実力不足であり今の俺は盲目の身だ。


そんな者の写す景色の表現など誰も聞きたくはないだろう。


「やっぱりこうゆう所だとお風呂とトイレが別でいいね」


「確かに」

「こっちの方に来てから家の風呂が凄く恋しくなったよ」


脱衣所とトイレが一緒のタイプの部屋に住んでいるのが、結構ストレスが掛かる。

トイレの匂いを始め、服の置く場所に、風呂上がりに足についたお湯が脱衣所にも残りトイレに行こうとすると、たまに足がべったりとして気持ち悪い。


更に人を呼べば、トイレのタイミングと風呂のタイミングに気を使わなきゃいけないのだからなおさらだ。


「あっちの方は物も人も遊びも少なかったけど、心のゆとりだけはあったなぁ」


「まあ、それは確かに。」

「神社に湖、森に海なんでも揃ってたからな。おかげでコンビニまで自転車使ってもしばらく掛かった」


「ホントだよね。昔2人でコンビニに歩いて行こうとしたら遠すぎて迷って泣いてたよね」


「マジかよ全然記憶にねえ。それで結局どうやって帰ったんだ?」


「農家の田中のおじいさんが軽トラで通り掛かって送ってくれたんだよ」

「あの軽トラの荷台はアトラクション乗ってるみたいで楽しかったな」


「そうだったのか」

「てか軽トラの荷台って人乗っけてよかったんだっけか?」


「たぶんヤバイと思うね」


「田舎ならではの法律のゆるゆる感、思い出すと結構やばいの多いよな」


「そうかも、警察署も交番もあそこらへんはないもんね」


会話をしながら上着を着て靴を履き出かける準備をし始める。


「何も準備してなかったからちょっとそこのコンビニで買い物してくるね」

「戻ったらゆっくりお酒飲んで待ってるからお風呂ゆっくりでいいから」


「分かった」


そう言うと彼女は出かけて行った。


お風呂場に行くと確かに広くて綺麗で、久しぶりのお風呂に心が躍った。

浴槽にお湯を溜めて吞気にくつろいでいたが不意に不安に思う。


彼女はちゃんと帰って来てくれるのだろうか。










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