第3話 優しいお姉さんは過去のお兄さんの夢を見る

「ほとんど会話したこともないしね」

「あ、ここ美味しそう。でも大体県外なんだよね〜」


俺の驚きとは裏腹に彼女の興味は今や大盛りのカツ丼に釘付けである。


「えっと…どこで会ってたっけ?」


「やっぱり忘れちゃってたか。まあ私も最初見つけた時は自信無かったしね」

「そしてそんな時には幸せを飲む!」


そう言うとまたビールに口をつける。

すっかり酔いがまわり始めたようで、頬が少し赤くなり、飲むペースも明らかに早くなっていた。


「いやいや、出来上がる前に早く教えてくれ」


「どうしよっかな~」


「じゃあビールもう一本でどうだ?」


「私はそんなに安い女じゃないですー」


急にはっとゆう顔を浮かべ笑うと意地の悪い笑みを浮かべた。

間違いなく良くない考えを思いついた気がする。


「まず文化祭まで私の彼氏になって下さい」


「まずがおかしいだろ!てか文化祭?」


「そおそお文化祭」

「私たちの大学ってあと二ヶ月で文化祭じゃん」


私たち?


「私がこうゆうお仕事してるのがバレちゃってるみたいで、最近いろいろとアタックがすごくて躱すのも一苦労で」


ふぅ。

とため息をついたかと思うと急に元気よく飛び起きて、綺麗な仁王立ちを決める。


「そこで頭のいい私は考えたのだ!彼氏がもう居ちゃってもいいさと!」


「いや頭がいいも何も、常識的に考えてよくやる手だしベタだろ」

「それよか同じ大学の先輩かよ!」


「大学だと地味な服着て、メイクもナチュラルでだいぶ抑えてるから別人だからね」


「てか前に会ったことがあるって大学か?」


そうなってしまうとこの時点で名探さよならで謎が全部とけてしまう訳だが。


「大学では何回かすれ違った…かな?」

「ただ私たちが会っていたのはもうちょい前であんなことや、こんなことをした仲なのだ!」


「多分ろくでもねえことをしたんだな」


「むむ失礼な。せみの抜け殻をめちゃくちゃ集めて大人を驚かせたりとか秘密基地を作って大人たちと戦争をしたり輝かしい日々だったぞ」


「記憶がないだけに嘘か本当かわからん」

「てゆうかいいのか?この時点で俺の聞きたいことは全部聞いたぞ?」


「甘いね、お兄さんがもっと食いつくネタだよ」

「離れ離れになる前にお互いの願いと大切な物を入れたタイムカプセルを一緒に埋めて、埋めた場所を忘れてもいいように、その手掛かりを一緒に遊んだ場所に隠したの」


「さすがに出来すぎた話じゃねーか?たまたま大学一緒で、こんな夜の街で出会って、実は幼馴染でしたとか。ロミオとジュリエットもびっくりだよ」


とゆうかそんな楽しそうな記憶が抜けているのが自分自身不思議だ。

記憶力は確かにあまりいい方ではないが、女の子とそんな楽しい思い出があったなら覚えていそうな気がする。


「そうだ、私と昔みたいにゲームをしよう」


「ゲーム?」


「君が文化祭当日までにタイムカプセルを見つけられたら君のお願いを何でも1つ聞いてあげる」


「なんでもって…なんでもか?」


「そうなんでも」


「俺はあんなことやこんなことをするぞ」


「あんまり激しいのは嫌だからね」


少し意地悪するつもりで言ったが、彼女のとってはそんなの日常といった様子で艶めかしく腰を捻り、思わず顔を背ける。


「お兄さんグッときちゃった?」


「…見るに絶えなかっただけだ」

「もう少し恥じらいを覚えてもらいたい」


「酔ってるお姉さんにそんなの求めても無駄だよー」


「出会ったばかりのお姉さんはそんな人じゃなかったのぞ」


「残念だけど人は変わっていく生き物なの」


「酔った頭で言われても説得力ねーよ」


「そんな意地悪するお兄さんはもう知らない!」


「相当回ってきてるなこりゃ」


まあ実際どうだろうか。


元々脈ありな女性がいない今これは好都合だろう。

僕は彼女持ちとゆう肩書を手に入れられるし、文化祭では可愛い女性と2人で回れる。

しかもタイムカプセルを掘り起こせさいすれば、願いを聞いてくれるなんて好都合なことこの上ない。


「あ、そうだったそれともう一つ条件」


「さすがにこっちが有利すぎるか?」


「うーんそうゆうのじゃないけど」

「どちらかとゆうとお願いかな。お酒とタバコは20になったら一緒に楽しも?それまでは我慢して欲しいな」


思わず言葉に詰まる。

タバコとお酒。その2つは満足できず不満を抱きながら生きている自分ではあるが、それが無くなってはそんな窮屈な世界がもっと窮屈になる気がした。

いま世界と俺を繋いでくれているのは、どんな形であれその2つが大きい気がした。


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女は優しく抱きしめる。

不思議な気持ちだった。顔も名前も覚えていない、昔あったことがあるかも知れないそんな人。

でも彼女は温かかった。 俺のことを思ってくれていることは分かった。


「分かった」


「ありがとう」


頬に温かくて柔らかい感触が触れた。


「約束を守ってくれたら、次はもっといいことをしようね」












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