第8話 ふたりぼっちの箱庭
無風の空間で、原初の聖樹を模したフレームが風に吹かれた様にザワザワと揺れる。
己と母の分身の反応に、ドロシーはゆっくりと栗色の頭を上げた。
「ママ、どうしたの?
イホウンデーが何かしたの?」
小ジワが僅かに浮かんだ緑の目は、どこまでも優しく己のアームヘッドを見つめる。彼女の愛機は、何も答えない。
ドロシーはその無反応に構わず、愛機の意思を読もうとするようにその幹に触れた。
どこをどう見ても植物でしかないフレームから、ステンレスに触れたような感触が伝わる。
普通なら嫌悪する感覚に安堵を覚えた彼女は、そのまま愛機のフレームに頬ずりした。
まるで、母親の膝に甘える幼子の様に。
「ママ。もうすぐだからね。
ママもパパも、私も、アーニーも、皆もうすぐ寂しくなくなる。
この世界で寂しいままに生きる人達は、いなくなるの」
ドロシーは愛する母に少しでも近付こうと、幹伝いに立とうとして、バランスを崩した。
すかさず、愛機から蔓が伸びて彼女を支える。
マキシ丈のロングスカートからは、足ではなく痛々しい切断面が見えていた。
支えられた蔦に心底嬉しそうな表情を浮かべながら、彼女は巻き取られていく。
彼女を大切な宝物の様に慎重に、優しく支えた蔦は、そのまま自分のホーンの傍まで連れて行った。
自然物の中からニョキッと生えたホーンは、出来の悪いテクスチャを無理矢理貼り付けたような極彩色をしていた。
ドロシーは、奇妙に歪んだそれを優しく撫でながら、どこか悲壮感ある視線を向けていた。
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