llm(Large Language Models)を使って小説を書く試行錯誤。

@tamaki_tamaki

ジャンク。難ありポップアップトースター。パンは焼けます。

 この前、 ふと寄ったフリマでヴィンテージっぽいトースターを見つけたんですよ。焼けるとポンと出るやつ。2枚同時に焼けるやつ。

「見てもいいですか?」

「もちろん。どうぞどうぞ」

 汚れや傷も殆ど無いが色褪せてていい感じだ。

「コレはどこのトースターですか?」

「さぁ、私も以前フリマで手に入れたから、詳しいことは何も。ただ、コンセントが日本で使えるやつやから日本製やと思います」

 たしかに。差込プラグは日本のやつだ。だけど、確かアメリカも同じやつだったはず。そもそもメーカー名が書いてないような電化製品があるか?こいつは値打ちモノかもなぁ。

「あ、もし買う気があるんやったら」

「はい?」

「2枚同時に焼かん方がいいですよ」

「あら。焦げたりしますか?」

「うーん、なんちゅうかそういうわけではないんやけど」

 濁すなぁ。逆に焼け具合がいまいちとか?まぁいいか。ダメならメロカリにでも出そう。

「コレ、買います」


 帰って、さっそく食パンを焼いてみる。冷蔵庫に残っていた最後の1枚をトースターにセットする。


 ジジジジジ


 電熱線が熱くなる音がする。いいねぇ。いい感じだ。


 チン


 焼き具合を調整するところなど何も無かったが、絶妙な塩梅の焼け具合だ。あちち。皿に乗せるのもめんどくさかったのですぐにかぶりつく。

「うんまぁ」

 ちょっとビックリするぐらいに美味い。表面はサクッとしてるが中の水分が逃げてない気がする。コレは当たりだったかも。いい買い物をした。憂鬱な平日もコレを朝ご飯に食べるなら少しはマシだろう。


 ところで、皆さんは何枚切りのパンを食べてる?6枚切り?8枚切り?ふむ。そういうあなたは関東に住んでるでしょ?かくいうボクもそうでした。

 ところが、あなた。就職したら大阪に配属されたボクは驚きました。6枚切りとか8枚切りってあまり売ってないんですよ。じゃあ何枚切りなんだって話なんだけど。4枚切りとか5枚切りですよ。4枚はまぁわかる。でも5枚ってなんだよ。サンドイッチにしたら1枚余るじゃないか。そう、最初はボクも毛嫌いしてたんですよ。

 ところが、あなた(2回目)厚めの食パンはうめーんですよ。一度5枚切りしか売ってなくて仕方なく買ったんだけど、まぁなんていうの。外カリッ、中フワッ。こんなに違うもんか、と。で、4枚切りにも挑戦してみたら更にフワッと部分が増して美味しい。コレにバターをたっぷり塗ってごらんなさい。じゅんじゅわーですよ。

 そんな感じで朝は毎日4枚切りのトーストを1枚。コーヒーとともに食べる。日によって、バターだったり、マヨだったり。ジャムだったり、溶けるチーズだったり。月曜に始まり木曜に消費しちゃう。なので、木曜日の仕事終わりにスーパーじゃなくて最近見つけたお気に入りのパン屋に寄る。少しお高い4枚切りの食パンを買って。土曜日は遅く起きてブランチ。朝昼兼で、食パンを2枚焼いて。コレも気分でホットサンドイッチにしたり、目玉焼きを乗せたやつで1枚。ジャムを塗ったやつを1枚、みたいな。

 土曜日まであのトースターで2枚同時に焼かなかった。だから、買う時に言われたことなんかすっかり忘れてましたよ。


 ベッドから起き、伸びをしながら台所へ向かう。昨日アラプラで見た映画はいまいちだったなぁ、などとぼんやり思いながら、トースターに4枚切り食パンを2枚セットする。紙パックのコーヒーを冷蔵庫から取り出しマグカップへ注ぐ。今日はとりあえずメシ食べ終わったら洗濯しないとな。皿を水切りラックから取り出す。


 チン


 お、焼けた焼けた。何付けて食べるかなー。焼けたトーストを皿に移す。


 ボン!


 ボン?


 突然の破裂音にビクっとして音の方向を見ると……


 なんかいた。


「おぉ、偉大なるマスターよ」

 言葉を発した何かは金色の立派なたてがみをもったライオンだった。

「我こそは、かの名高きバターライオン。あなたが持つその聖杯に私のバターを塗り、そして私に分け与え給え」

「さすれば、我が『王の儀式』は完成する」


 は?


「やぁやぁ、寛大なる主よ」

 ライオンだけかと思ったら、その横に小さな羽の生えた小人みたいなのが飛んでいる。

「わたしめはパンの精霊カウンシルです。我が一族の会議を行う場所として貴方様のその焼き立てのパンが必要なのです。それがなければ私達の社会は会議を始めることができずに混乱に陥ってしまいます」


 人って自分の理解できない現象に直面したときどうなるか知ってますか?ボクの場合はこうでした。

「はぁ」

 マヌケな声を出して持っていた食パンを齧りました。

「「あっ」」

 ボン


 その瞬間、そいつらは消えた。


 次の日、日曜日の朝。恐る恐るパンをトースターにセットしてみた。もちろん、1枚。木曜日に買ったお気に入りのパン屋の4枚切りの食パンだ。


 ジジジジジーチン!


 ポンと顔を出したのはいい具合に焼けた食パン。その他に変化は無い。というわけで、おそらく食パンを2枚焼いたら変な現象が起こる、という可能性が高そうだ。

 ここで、ようやく買った時に売り主が言ってたことを思い出すマヌケな自分に気づく。

「そういえば、2枚同時に焼かない方がいいってのはこういうわけだ」

 確かにあの時にこんな変なことが起こるなんて言ったら売れるものも売れない…… いや、コレは逆にチャンスなのでは?ちょっと思いついたことを試してみよう。


 6日後、次の土曜日。いつものようにぼんやりではなくて、バキバキに覚醒した。

 よし、パンを焼く前に準備だ。何のかって?もちろん、録画の、だ。

 録画してヨーチューブとかチックタックとかに流せばバズるかもしれない。そうすれば、お小遣いぐらいは稼げるかも。

 リビングとトースターが画角に入る位置、玄関付近にスタンドを設置する。スマホをクリップではさみこんで、映る範囲を確認する。よし。動画撮影モードにして赤いボタンをタップ。


 ピロン


 冷蔵庫から食パンの袋を取り出し、ポップアップトースターに2枚セットする。ガッチャンコ。


 ジジジジジジジジジ


 いつもより焼けるまでの時間が長い気がするのはその先に起こる出来事に期待しているからだろうか。いや、2枚焼いてるから、か。


 チン!

 ボン!

 やった!


 まず出現したのは、砂時計が溶けたような半透明の体を持ち、黄金色に輝くなにか。前と同じじゃない。時折、体表に文字だとも図柄だとも判別がつかない光の筋が浮かび上がっては消えていく。

「頼む。そのパンが必要だ」

 囁く声は、どこか荘厳で切羽詰まっている。

「そのパンは時の裂け目を閉じる鍵なのだ。君が知らぬまま焼いたものが、世界を救う!」


「パンを食べたら翼が生えるんだ!いや、たぶん…」

 もう一方に出現したのは半分鳥で半分ホットドッグみたいな生物。

「試してみないと分かんないけど、パンを食べたらきっと飛べるんだよ!」

 パンを齧るボク。

「「あっ」」

 途端に謎の生物は両方とも消えてしまう。ここまでは予定通り。

 さてさて。今のちゃんと撮れてるかなー。スタンドを手に取り、スマホの録画停止。すぐさま今撮れたファイルを再生してみる。


 ジジジジジジジジジ


 チン!


 動画に映ってたのは焼けたパンを手にリビングの方に向かってぼーっと立っているボクの後ろ姿だけだった。映らんのかよ。

 脱力し、急速に興味が失われていくのを自覚した。スタンドからスマホを外し、トースターの画像を何枚か撮る。焼けた食パンを齧りながら、フリマアプリを立ち上げる。


 ジャンク。難ありポップアップトースター。パンは焼けます。

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