第20発目 春の息吹

コルッツ王国の建国祭。王族や貴族などの上級国民は、コンサートやパーティーなどを楽しみ、一般国民は唯一税が無くなるこの日に、少し贅沢な食事を取ったり、広場で行われる催し物を楽しんだりする日。

上級国民は、いつも通りに祭が終わる、そう思っていた。





コルッツ王城の城内。

そこではメイドや執事がある人物を探していた。


「王子~! どこですか~!」


「建国祭のパーティー、始まっていますよ~!」


彼らが捜しているのは、コルッツ王国の第一王子エルメス・コルッツである。

エルメスは11歳という若さだが、とても賢く、身体能力や魔法の力も他と比べて優秀なのだが、ちょくちょく城の者の目を欺き、城から逃げ出しているのだ。


「……あんな醜い権力争いが行われるパーティーなんか誰が行くものか…!」


廊下からメイド達の声が聞こえなくなった後、隠れていた物置部屋から出たエルメスは、文句を言いながら門に向けて走り出した。


「あっ! 見つけましたよ王子!」


「やっべ…!」


門に向かっていると、前から執事が来たため、エルメスは走る向きを変える。


「今年の建国祭には参加していただきますよ!!」


エメルスを見つけた執事は、周辺に居た仲間を集め、必死にエルメスを追い始める。


「嫌だね!! 僕は父上の道具じゃない!! 我が身を指定の場所へと飛ばせ! 空間魔法、転移ワープ!!」


参加を拒否しながら、エルメスは転移を使って姿を消した。


「ああー! 逃げられたぁ!!」


「コルッツ王になんと申せば…!」


エルメスに逃げられた執事達はその場に跪き嘆いた。

しかし殆どの者が、その内心では安堵していた。

その理由は後に分かるだろう。





「……逃げ切ったかな…?」


城下町の裏道に転移したエルメスは、魔力補給のために小瓶の中に入った魔力回復水薬マナヒーリングポーションを飲みながら、周囲を確認した。


「誰も居ないし、逃げ切ったみたいだな!」


城の者が居ないことを確認したエルメスは、喜びながら露店で色んな物を買うため、大広場へと向かった。


「皆、パーティーに参加しろしろ言うけど…僕に近づく者って、大体王族になりたい連中ばかりじゃん…それに、父上は父上で、僕をさっさと結婚させようとするし…嫌だ嫌だ…」


歩きながらエルメスは、ブツブツと愚痴を述べた。

子供故にエルメスは、自分に言い寄ってくる大人達の真意を見抜いており、それを嫌に思っているのだ。


「それに…王都でさ、国民の生活が悪化しているのに…父上は対策をせず、夜遊びばっかり…国民が居てこその王なのに……」


エルメスは続けて、国内のことを愚痴る。

彼は父のシャルブラムが、夜遊びに夢中なことを知っており、内心では父親のことを嫌っているのだ。


「僕が王になったら、国を根本から改革しないと…」


改めて国を良くすることを決意しながら、エルメスは大広場に辿り着いた。


「さぁさぁ! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! どんな者でも驚く、一代ショーの始まりだよ~!」


「何だろう…?」


大広場に着くと、大勢の者が集まって居り、気になったエルメスは、そこへ向かった。


「ごめんなさい!! ちょっと通して…!」


人混みを避け、エルメスは一番前に出て来た。


「それでは皆さん! まずはこの場に地竜を呼び出してみましょう…! 10式召喚!」


男が指を鳴らすと、そこにエルメスの目の前に独特な地竜が現れる。


「オオォーー!!」


カッコイイ、そう思ったエルメスは目を輝かせながら、拍手をした。


「では次に…この国に、春風の息吹を吹かせてみましょう…! 皆さん、カウントダウンをお願い致します…」


「春風…?」


「じゃあ、僕に合わせて!」



春風を吹かせるという男の言葉に疑問を抱きながら、エルメスは男の横に居た者のカウントダウンに合わせて、周りと同じようにカウントダウンを始めた。


「10!! 9! 8! 7! 6!」



何が起きるか、ワクワクしながら、エルメスは周りと同じようにカウントダウンを進ませた。


「5! 4! 3! 2! 1!!」


――ドォン!!


カウントダウンが終わった次の瞬間、王都中に爆発音が鳴り響いた。





「賑わっているな……」


「そうだな…ナパルト殿曰く、この日は税が適用されない日で、殆どの国民は買い物を積極的に行うとのことだ…」


協力者のバレルの手引きで、コルッツ王国の王都コルツに潜入できた俺達は、渡されたコルッツ王国のコートで全身を覆い住民に紛れていた。

今は露店が並んでいる大通りを、三人で歩いている最中だ。


「……それで、何故姫君である君がここに居るんだい?」


俺の斜め後ろを歩いているミハイルは、隣に居る春奈に居る理由を尋ねる。


「確かに私は姫ですが…その前に陽月国の武士の一人です。ミハイル殿がお強いことは把握しておりますが、遠距離では私も負けていません…」


「へ~? 私も遠距離技は持っているんだけどねぇ…?」


春奈の返答に、ミハイルは食ってかかる。

何だろう、後ろで火花が散っている気がする…

2人がいがみ合っている中、ふと露店からいい匂いがしてきたため、そちらの方に足を運んだ。


「…串焼きか…」


匂いの元が串焼きだと分かり、俺はバレルから紛れ込む用に渡された資金が入った小袋を取り出した。


「店主、串焼き四つ!」


「毎度! 銀貨一枚だ!」


人数分とお代わり用の串焼きを頼み、俺は銀貨を一枚渡した。

この世界の金は、基本的に神金貨、純金貨、金貨、銀貨、銅貨、青銅貨の六つに分けられており、神金貨は日本円で100万、純金貨は10万、金貨は1万、銀貨は1000円、銅貨は100円、青銅貨は10円となっている。

串焼き四つで1000円か…日本だったら、一本500円~1200円くらいするぞ…


「ほい、串焼きだ!」


異世界の物価の安さに驚いていると、店主から出来立ての串焼きを四つ渡された。


「ありがとう…おーい、2人とも腹ごしらえしとこう」


店主にお礼を言いながら、俺は未だにいがみ合っている2人に、串焼きをそれぞれ一本ずつ渡した。


「……」


「……」


俺から串焼きを受け取った2人は、睨み合いながらもくもくと串焼きを食べ進める。


「う~ん! 美味しい!」


2人のことを置いておいて、俺は塩加減が良い串焼きを堪能することにした。


「へへ、そう言って貰えると、奮発したかいがあるってもんよ…!」


串焼きを食べる俺を見た店主は、嬉しそうに鼻を撫でていた。


「そうだ! 兄ちゃん達は旅人だろう? なら、あまり王都に長居しない方がいいぜ…」


「…なんで?」


店主が何を言いたいのかを分かりつつ、俺は一応聞くことにした。


「……あんまり大声で言えないが、今日コルッツ王国では武力蜂起が起こるんだ…だから、様々な場所が戦場になる可能性がある…だから街の外に行く方がいいぜ」


予想通り、店主の忠告は春風作戦のことだった。

俺がその武力蜂起の合図を出すんだけどな~…


「ご注意ありがとう…そうすることにするよ!」


自分がその武力蜂起の合図を出すことを伏せ、俺は店主に礼を言いながら、そのまま露店から離れて裏道へと向かった。


「……そろそろ時間だな」


人通りの少ない裏道に移動し、串焼きを食べ終えた俺は、スマートウォッチで時間を確認した。


「この後は確か、芸人に扮して大広場で行われる催し物に現れ、開戦の合図を出すのでしたね?」


「ああ、コルッツ王城に向けて、10式戦車をズドンっとな…そろそろ王城ではパーティーが開催される頃合いだし…」


これからの予定を再確認した後、俺らは大広場へと向かった。


「ここら辺でいいか……」


城が良く見える大広場の一か所に来た俺は、息を大きく吸った。


「さぁさぁ! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! どんな者でも驚く、一代ショーの始まりだよ~!」


俺は芸人を装って、周辺の者に聞こえる大声で宣伝した。

すると、一瞬で大勢の者が集まってきた。


「それでは皆さん! まずはこの場に地竜を呼び出してみましょう…! 10式召喚!」


指を鳴らし、俺はその場に10式戦車を召喚した。


オオォォォ……!!


10式戦車を見た観客は、驚きながら拍手を行う。


「では次に…この国に、春風の息吹を吹かせてみましょう…! 皆さん、カウントダウンをお願い致します…」


召喚後、俺は観客にカウントダウンを頼んだ。


「じゃあ、僕に合わせて! 10!!」


9! 8! 7! 6! 


ミハイルに合わせ、カウントダウンが始まる。

俺はその間に、10式戦車の主砲に対戦榴弾を装填し、砲口を王城の城壁へと向けた。


5! 4! 3! 2! 1!!


「10式戦車、撃て!」


――ドォン!!


カウントダウンが終わるのと同時に、俺は春風作戦開始の合図を王都中に響かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る