第21発目 城を襲う春嵐

ここで報告です。第14発目辺りから、ミハイルが、ミハエルになっておりました。既に修正済みです。大変申し訳ございませんでした…!


――――――――――――


「来た! 合図だ!! 皆武器を持てーーー!!」


ウオォーーーーーー!!!!


王都中から雄叫びが聞こえる。


「よし、次の障害は正門だ…予定通り破壊しに行く!!」


「「はい!!」」


見ていた観客が、隠し持っていた武器を持ち、城や詰所などに向かって行く中、俺らは城門を打ち破るため、羽織っていたコートを脱いだり、10式戦車に乗せていたそれぞれの武器を構えたりなど、城に向かう準備を整え始めた。


「あ、あの!」


10式戦車に乗り込もうとしたタイミングで声を掛けられ、俺はその方向を見た。

声の方には、少し豪華な身なりで小5くらいの金髪の少年が居た。


「……エルメス王子…?」


レイピアを帯刀したミハイルは、少年のことを知っているようで、首を傾げながら正体を尋ねた。


「はい! コルッツ王国の第一王子、エルメス・コルッツです!」


エルメスは目を輝かせながら、元気な声で自己紹介をした。

何で王子がここに…?


「僕も連れて行ってください! 城内のことは全て頭の中に入っています!」


王子がここに居ることに驚いていると、エルメスは同行を求めて来た。


「ダメだ」


エルメスからの頼みに、俺は迷うことなく断る。


「城内は少なくとも戦闘が起きる。そんな所に君を向かわせる訳には行かないし、君は王族だ…興奮した市民にやられる可能性もある…」


続けて連れていけない理由を話した。


「…それでもです。僕はこの国の王子…父上の、王国の最後を、そしてこの国が変わる瞬間を見届けたいのです!」


真剣な眼差しで、エルメスはこちらを見つめてくる。

その姿を見た俺は、無意識にエルメスと隼が重さねた。

隼が私立中学や国立大学に行きたいと言った時も、こんな感じだったな……


「……はぁ…分かった…それなら案内してくれ…ただし、絶対に俺らから離れるな…いいな?」


「はい!!」


熱意に負けた俺は、エルメスの同行を許可し、10式戦車の中に入れることにした。


「中は下手に触るなよ…?」


「はい…!」


中に入ったエルメスに、注意した後、俺も10式戦車に乗り込む。


「2人には悪いけど、後について来てくれない?」


「大丈夫です」


「はい! 分かりました!」


「よし、10式戦車! コルッツ王城の正門へ!!」


気を取り直し、俺らは城門に向かうことにした。





正門の近くになってくると、色々な声が聞こえて来た。


「クッソ! 開けろー!」


「例の地竜はまだか!?」


やはり、門で苦戦しているようだった。


「魔術師、雷撃戦!」


壁の上からそんな声が聞こえたと思うと、雷が壁から放たれ外に居る市民に降り注ぐ。


「まずは弓兵を何とかしないと…!」


「私に任せてください」


壁の上に居る魔術師を片付けるために、機関銃を使おうか考えていると、春奈が前に出た。


「…」


背負っていた春奈より大きな和弓を手に取った。


「月光流弓術…」


矢筒から一本の矢を取り出し、春奈はその矢先にオーラを纏わせながら構えた。


「伍蓮水華…!」


春奈が放った矢は、真っすぐと壁へと向かっていき、魔術師ではなく城壁の回廊に乗った。


「「「うわぁーー!!」」」


次の瞬間、水で出来た五つ蓮花が回廊に現れ、そこに居た魔術師達を吹き飛ばした。


「春奈ありがとう…これで皆を安全に城の中に送れる!」


「どういたしまして…!」


俺は春菜に礼を言い、主砲を閉ざされている門へと向ける。


「全員門から離れろ! 突破する!」


門の近くに居る者に、離れるように叫んだ。

俺の指示通り、住民は迅速に門から離れてくれた。


「主砲、徹甲弾装填! 目標、正面城門! 完全に破壊するまで連続で撃て!!」


――ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!


10式戦車の主砲から、次々と徹甲弾が放たれ、城門へと向かって行く。


――バゴンッ!ドゴォン!


大きいだけの木製の門が、砲弾を耐え抜くことはできず、次々と木端微塵に破壊される。


「門が破られたぞ!!」


「行くぞ皆!!」


オォーーーッ!!!


俺が門を破壊しきったことで城への道ができ、住民は武器を持って、城内へと突入していった。


「それじゃあ、俺らも行くか…」


「「はい!!」」


10式戦車で人を轢かないように移動しながら、俺らも城内に乗り込むことにした。





コルッツ王城大広間。

広々としたその場所では、王族や貴族達が集まりパーティーを開いていた。


「実は新しい商売を考えておりまして…どうです? 一枚噛んでみませんか…?」


「ほう…面白そうですな…是非協力させて貰いましょう…!」


「お久しぶりですルスロール閣下…例の物をお渡しに参りました…」


「……ふむ宜しい、君達への待遇を良くしよう!」


「ありがとうございます」


ピアノから綺麗な音色が奏でられる中、貴族達は悪企みを話したり、汚いお金を渡したりなどをしていた。


「今宵の建国祭も盛り上がっているようだな」


専用の室内バルコニーから下を見ながら、シャルブラムはワイングラスに入ったワインを飲んでいた。


「それで、エルメスは何処に行った? 今日は色んな貴族が自身の子を連れてきている…エルメスに相応しい娘も居るであろうし、本日中に許嫁を決めたいと思っておるのだが……」


シャルブラムは後ろに居た執事に、エルメスの所在を尋ねた。


「…申し訳ございません。お連れしようとしていたのですが、転移で逃げられてしまいました…」


「はぁ、またか…」


執事から逃げられたことを伝えられ、シャルブラムは頭を抱える。


「軍を動かしても構わん! パーティーが終わるまでに何としでも連れ戻せ!」


「畏まりました」


シャルブラムに王子捜索を命じられ、執事は命令を伝えるため、去っていった。


「おい、ワイン!」


「は、はい!」


空になったワイングラスをメイドに向け、ワインを注がせた。


「…っ!」


――パリーン!


「きゃあっ!!」


ワインを一口飲んだシャルブラムは席から立ち上がり、ワインを注いだメイドに向けてグラスを投げつけた。


「この無能め! 余に注ぐワインは、常に年代物の未開封物にしろと言っておるだろう!! 誰が既に空いているボトルの物を注げと言った!!」


「も、申し訳ございません! すぐに新しい物を用意いたします!!」


理不尽に怒鳴られながら、メイドは必死に謝るが、


「もう良い貴様はクビだ! 荷物を纏めてさっさと出ていけ!」


シャルブラムの怒りが収まることなく、メイドはクビを言い渡された。


「……分かりました……」


言い返すこともできず、メイドは半泣きになりながら、その場を去って行った。


「全く、無能の相手も疲れる…」


席に座り直したシャルブラムは、別のメイドにワインが入ったグラスを持ってこさせ、それを飲み始める。

その時、慌てた様子で大広間に兵がやってくる。


「皆様方、お楽しみの所申し訳ございません!」


「何だ! 騒々しい!」


メフィストは少し怒りながら、入って来た兵士の元に駆け寄る。


「申し訳ございません! ですが、緊急事態でして…!」


「緊急事態? 何だ一体?」


緊急事態という単語に、その場に居た全員が不安を感じる。


「はっ! 王国全体で大規模な反乱が起きていまして、この王都でも発生! 現在、反乱軍が城に押し入ろうとしています!!」


「何だと!?」


兵士からの報告に王族や貴族達は騒然とする。


「現在、近衛師団が対応しておりますが、反乱軍の数は凄まじく…ですが、現在皆様方を安全な場所へ避難するため、第一軍団がこちらに向かっております! ですので、どうかこの場でお待ちください!」


会場は騒然としていたが、兵士が第一軍団が向かっていると言ったため、殆どの者が安堵する。

だが、一人だけそれに聞かなかった者が居る。


「第一軍団の到着なぞ、待っておられるか!」


安全な場所へ早く行きたいシャルブラムは、席から立ち上がり、そのまま大広間から去っていった。

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