第16発目 名将の英断

『何? レオンが陽月国の使者と話し合いをしているだと?』


第四騎士団が使用している炎陽村の食料庫にて、炊事兵の1人が水晶玉を通して、メフィストと報告を行っていた。

炊事兵はメフィストの手の者で、この戦争中にレオンの監視、並びに暗殺を行うため、第四騎士団への潜入を命じられていたのだ。


「はい。使者の一名は、神使を名乗っているようですが、顔つきが明らか東洋人でした…」


『はっん! 奴め、これしきの嘘も見抜けぬようになったか……待て……』


大翔の顔つきが陽月国の者と似ていたというだけで、嘘だと決めつけ鼻で笑ったメフィストは、あることを思いついた。


『そうだ、丁度良い! 事前に用意してあった毒を飲み物に仕込み、それを出せ! そして、上手い具合に陽月国の者に罪を擦り付けろ!』


「はっ!」


今が暗殺する機会だと思ったメフィストは、炊事兵にレオンを毒殺するように命じた。


『では、頼むぞ?』


「お任せください!」


2人はそのまま通信を切った。

その会話を盗み聞きしている者が居るとは知らずに…





大翔達を残し、別のテントに移動したレオンは、同伴していた部下達と集まっていた。


「…さて、神使様からの申し出…皆はどう思った?」


テント内の椅子に座ったレオンは、部下達に意見を求めた。


「…怪しい、それが率直な意見です」


「そうです! そうやって騙し討ちをするつもりかもしれません!」


多くの部下から、否定的な意見が出る。

だが、


「……ですが、彼らが言っているのは、あくまでも現体制…王達の打倒であり、国そのものを滅ぼす訳ではありませんし、彼らの策に乗ってみるのもいいかもしれません…実際、我々は奴らから酷い仕打ちを受けてますし…」


ミシェルは周りとは逆に、大翔達の手を取ってみることを提案する。


「ですが副団長! 彼らの策に乗って使い潰される可能性もありうるのですよ!」


「だが副団長の意見も正しい……国民と共に立ち上がるのも悪くないのでは…?」


ミシェルの言葉により、賛成派の声も増えてくる。

様々な意見が飛び交う中、レオンはその意見を全て聞き続けた。


「………己の信念を貫け…か……」


昔、憧れの父から言われた言葉を思い出したレオンは、大翔の提案に乗るかどうか決断することにした。


「……今回の戦争…私は国民を守るために、この戦争に参加を決心した…だが、王族や貴族は戦争をダシに、国民を苦しめている…我々が戦えば戦うほど、国民は貧困に喘ぎ、王族や貴族は私腹を肥やす……なら、国民を守るためにはどうする? 政治体制を変えるしかない…敵国である陽月国が、その手助けをしてくれるというのであれば、共に戦うべきだろう……真の敵はコルッツ王族! 今こそ連中を打倒し、国民を守ろうではないか! 従えないという者は、国に戻ってよい! だが、共に戦ってくれる者は、私について来て欲しい…!!」


レオンは大翔の提案に乗ることを伝え、共に戦って欲しいと部下達に話した。

部下達は全員で顔を合わせたのち、


ハイッ!!!!


声を合わせてレオンと共に戦うことを決意した。





「お待たせ致しました……」


話が纏まったのか、レオンがテントに入って来た。


「…永山様、我々も是非、コルッツ王国の現体制を倒すために、協力させてください…!」


椅子に座ったレオンから良い返事が聞けて、俺は笑みを浮かべた。


「こちらこそ、よろしく頼むよ。ナパルト騎士団長」


「…はい!」


俺が手の差し出すと、レオンはその手を取り、硬い握手を交わした。


「それじゃあ、陽月国に集まって、計画を練ろ「失礼します。お茶をお持ちいたしました」


移動を提案しようとしたその時、テントの中に、ポットやカップが乗ったお盆を持った兵が入って来た。


「態々すまんな……」


「いえ、給仕として行っているだけです…」


兵は二つのカップを並べ、俺から順にお茶を注ぎ始めたのだが、レオンの分を入れる時、気になる点があった。

……なんで、レオンの時持ち手の下部分を指で押さえてるんだ…?

そう思った時、俺はネットで見たとある物を思い出した。


「失礼っ!!」


あることに気が付いた俺は、レオンが呑もうとしていたカップを奪い取り、中身を兵士にぶっかけた。


「ぎぃやぁーーーーーー!!!!!!」


中身が顔にかかった兵士は、悲鳴を上げる。


「永山様何を!?」


全員が驚き俺に目線を向ける中、俺はお茶を出した兵士の方を見つめる。


「ぐがぁっ……!!」


お茶の熱さではなく、別の何かで苦しんでいる兵士は、小瓶を取り出し、その中にある液体を顔に被った。


「…で、お前…ナパルト騎士団長に何を呑ませようとした?」


「あっ…! いや…っ!」


俺は席から降りて、兵士に問い詰めた。


「あの、大翔くん…そろそろ説明してくれないと…皆訳が分からないんだけど…」


「あっ…ごめん…」


ミハイルに説明を求められ、俺は兵士を押さえつけながら、説明することにした。


「まずは…ナパルト騎士団長、ポット切断してもよろしいですか?」


「…何かあると言うのであれば、どうぞやってください」


「ミハイル、お願いできる?」


「分かった」


レオンから許可を取り、ミハイルに頼んでポットを切断することにした。


「大地の息吹よ、今こそ我が敵を斬れ倒せ…風魔法、疾風切断ウィンドスラッシュ!」


地面に置いたポットに対し、ミハイルは魔方陣から斬撃を飛ばし、ポットを綺麗に真っ二つにした。

二つに切れたポットからお茶が漏れ、地面に染み込む。


「そのポットを見てくれ、二重構造になっているはずだから…」


「副長」


「はっ…!」


レオンに命じられ、一人の男が切れたポットを持ち上げ、内部が分かるように机の上に置いた。

するとポットは上と下で分けるように仕切りが作られており、俺がネットで見た暗殺ティーポットと同じ構造になっていた。


「そのポットは、上と持ち手の下に穴がある特殊な奴で、上を塞げば仕切りの下の液体が出て、下を塞げば上の液体が出るという仕組みになっている…その男は、毒入りのお茶をナパルト騎士団長に飲ませようとしたんだと思う。実際、お茶を被った後、解毒薬みたいな物を顔に塗っていたしな…探せば出てくるんじゃないか? 毒が入っていた瓶が……」


「……」


俺からの説明を受け、全員の目線が兵士へと注目され、兵士は冷や汗を流し始める。


「で、出まかせです! こんな嘘っぱちな東洋人を信じるのですか!?」


「それなら……これも出まかせですかなぁ…?」


兵士が疑いを解こうと必死になっていると、テントに外で待っているはずの雪婆が入って来た。


「雪婆!? なんでここに!?」


「私の部下が気になる情報を手に入れたようでねぇ…それを届けに来たのさ…」


雪婆に俺は驚きつつ、ここに来た理由を尋ねると、雪婆は懐からビー玉を1つ取り出し机の上に置いた。


「これがその情報です……」


雪婆がそう言うと、ビー玉に映像映し出される。


『そうだ、丁度良い! 事前に用意してあった毒を飲み物に仕込み、それを出せ! そして、上手い具合に陽月国の者に罪を擦り付けろ!』


『はっ!』


映像と共に音声が聞こえてくる。

聞く限り、片方はこの兵士の声だと間違いないだろう…


「……やはり、メフィストの奴か…」


映像を見たレオンは、兵士に命令している者が誰か分かっているようだった。


「さてと……決定的な証拠もあるようだが、どうする? まだ自分が無罪だと叫ぶか…?」


取り押さえている兵士に、俺は抵抗するかどうか聞いた。


「……」


俺の質問に対して、兵士は無言を貫いていたが、


「永山様、その者の身柄はこちらで預かろう……おい連れて行け!」


「「はっ!」」


2名の部下が、俺が取り押さえていた兵士を抱えあげ、そのままテントの外へと連れて行った。


「永山様…助けてくださりありがとうございます。お陰で命が助かりました……」


「いえいえ、ああそれと、様付けだけやめてくれたら助かるんですが……」


「分かりました。では改めまして、永山殿…我々第四軍団は、陽月国に全面的に協力することをお約束致しましょう…!」


「ありがとうございます。それでは、コルッツ王国の国民達を助けるため、最善の手を尽くしましょう!」


「よろしく頼みます」


暗殺未遂という予定外のことが起きた結果、レオン達からの信頼度は高まったようだった。

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