第17発目 ミハイルの実力
別の兵士が代わりのお茶を持ってきたため、俺らはそれを呑んで一息付いていた。
「…さて、作戦名や作戦の流れを話して欲しいのですが…よろしいでしょうか?」
手に持っていたカップを机に上に置いたレオンは、春風作戦の詳細を求めた。
「…春風作戦…そう名付けた今回の作戦は、国民達に武力蜂起を起こさせるのが最重要事項です。武器などは陽月国が用意するとのことですが、国民を動かすためには、信頼が高い者が武力蜂起を呼びかけ、リーダーとなって導く必要があったのです…」
「それで私が選ばれたと…?」
レオンの質問に俺は頷いて答えると、レオンは顔に手を当て何かを考え始めた。
「……ならば、私の知り合いに丁度良い者が居ます。その者は、国民代表者というコルッツ王国の国民から選ばれた政治家で、私同様国民からの信頼があります。その者にもこのことを伝えれば、協力してくれるはすです。彼も作戦に加えてもよろしいでしょうか…?」
「それは有難い。協力者が沢山居るのに越したことはないですからね…」
俺はレオンからの提案を快く許可した。
レオンが提案してくれるから、良い奴なのだろう…
「それともう一つ提案があります」
「何だ?」
考え事をしていると、レオンから新たな提案が出てきた。
「我々は先日、上から真京への進軍を命じられたのです…そこで、生存者として何名かを取り繕い、我々の大半が陽月国にやられたという嘘を上に伝えさせ、その者達に武力蜂起のことを広めさせたいのですが…宜しいでしょうか?」
「俺は別にいいと思うな……それじゃあ、真京に向かう前に、何名か送くってくれ」
レオンからの提案に俺は賛成した。
うーん、聞く限り…コルッツ王国の王族や貴族達は、相当レオン達を嫌っていたようだな…
「…ああそれと、ミハイル殿に頼みたいことがあるのですが…宜しいでしょうか?」
「私に…?」
「ええ…幾ら生存者と言っても、装備の一部が壊れていたり、怪我を負っていないと不自然なので、選んだメンバーと手合わせをしていただきたいのです……」
「…分かりました。私で宜しければお相手しましょう」
レオンからの頼みをミハイルは受け入れた。
「それでは、すぐにメンバーを選んできます。しばしお待ちください」
「分かった」
ミハイルから手合わせの許可を得たレオンは、席を立ちメンバーを選ぶため、部下と共にテントからで行った。
〇
「お待たせしました…お二人ともこちらへ…」
暫く待っていると、レオンがテントに戻ってきて、俺らを別の場所に案内した。
案内された場所は、村から少し離れた場所にある野原で、そこには第四騎士団の者達が集まっていた。
「選抜隊集合!!」
レオンがそう叫ぶと、野原に居た第四騎士団の者達の中から、5名の兵士が出てきて、俺らの前に並んだ。
「この者達が、コルッツ王国に戻らせる者達です。各員、自己紹介を行え!」
「第四騎士団副長、ミシェル・ロレーヌです。以後お見知り置きを…」
「第四騎士団
「同じく所属、ゴルト・ユサール!」
「第四騎士団
「だ、第四騎士団長、
レオンに言われ、5人はそれぞれ自己紹介を行った。
「それではミハイル殿、早速で申し訳ないのだが…副長を除いた4名とお手合わせを願えるかな…?」
「勿論です。すぐにお相手致しましょう…」
ミシェルを除いた4名は、それぞれの武器や防具を装備し、ミハイルと共に野原の真ん中辺りへと向かって行った。
「ロレーヌ副長は、戦わなくていいのか?」
話を聞いていて疑問に思ったことをミシェルに尋ねる。
「実は、騎士団長と副団長には、
「なるほど……」
ミシェルの説明に納得した俺は、ミハイルの手合わせを見学することにした。
「…それでは、4人同時にかかってきてください…そちらの方が私も本気を出しやすいので…」
ミハイルは、レイピアを鞘から抜きながらゲルト達にそう伝える。
「ミハイル殿、幾らシュヴァリエの家系とはいえ、我々のことを舐めすぎでは…?」
「そうですよ! こっちもそれなりに鍛えられてますからね?」
ミハイルの発言に、ユサール兄弟は不満を示す。
まぁ、俺でも少し舐めているように思うな…
「それでも構いません。4人同時でお願いします…」
「お前ら、言うことを来ておけ!」
…ハッ!
ミハイルの頼みと、レオンからの命令があり、4人はミハエルからの提案を聞くことにした。
そして4人は、エメルスが前に、ユサール兄弟がそれぞれ左右斜め後ろに、オルスがエメルスの後ろになるように陣形を組んだ。
「それではこれより、選抜隊とミハイル殿による試合を行う! お前達もよく見ておけ…!」
ハッ!!!!
審判として両者の間に出たレオンは、見学している者達に釘を刺した。
「それでは始め!!」
そう言ってレオンは試合開始の合図を出し離れた。
「「「「うおぉーーーー!!!!」」」」
最初に動き始めたのは、選抜隊の者達で、雄叫びを上げながらミハイルへ真っ直ぐ突き進んで行く。
「強化魔法、
一方のミハイルは、自身を魔法で強化した後、選抜隊に向けて走り出した。
「はっ!」
「えっ!?」
選抜隊とミハイルの間合いが近くなった時、ミハイルは高く飛び上がり、そのまま驚いている選抜隊の後ろへと回り込んだ。
「天に轟く雷鳴よ、今こそ我が剣に纏え! 魔剣術雷!
「がっ!!」
雷をレイピアに纏わせたミハイルは、振り返ろうとしていたオルスの腹部を刺し、感電させた。
技を食らったオルスはその場に倒れ、立ち上がらないのを見ると、意識を失ったようだ。
「行くぜ、兄貴!」
「おう!!」
そこに、ユサール兄弟が、息があった連携で、ミハイルを槍で何度も突こうとする。
「単調…! 大地の息吹よ、今こそ吹け! 風魔法、
2本の槍を避けながら、ミハイルは片手を2人に向け、魔法陣を作り出した後、そこから風を吹かせた。
「うおっ!?」
「目がぁ!!」
風と共にゴミが飛んだのか、ゲルトは怯み、ゴルトは目を片手で抑える。
「聖なる炎よ! 今こそ我が剣に纏わり、我が敵を薙ぎ払え! 魔剣流焔!
後ろへと下がりながら、ミハイルは炎を纏わせたレイピアを2人に目掛けて放った。
「「うわっ!!」」
炎の斬撃を避けきれず、2人は諸に食らってしまい、衝撃で吹き飛ばされる。
「「あっ!! ちいぃーーーー!!」」
斬撃の炎が衣服に引火したようで、2人は同じ台詞を言いながら熱さに悶え、火を消そうと地面を必死に転がる。
「僕だって! 第四騎士団の1人だぁーー!」
1人残ったエメルスは、盾をしっかりと構え、そのままミハイルに向けて突進する。
「…土魔法、
レイピアを地面に突き立てたミハイルは、複数の魔法陣を出現させ、そこから無数の石をエメルスに飛ばした。
「イタタタタッ!!」
無数に襲ってくる石にエメルスは一瞬怯み、思わず盾を離して手で顔をガードした。
「天に轟く雷鳴よ、今こそ我が剣に纏え! 魔剣術雷!
再びレイピアに雷を纏わせたミハイルは、怯んでいるエメルスとの距離を詰め、腹部を突いた。
――ドゴォン!!
そんな鈍い音が辺りに響き渡り、エメルスは声も挙げずに吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す。
「…勝負あり! 勝者、ミハエル殿!」
選抜隊の全員が動かなくなったのを確認したレオンは、試合の勝者を決めた。
――パチパチパチパチパチ
試合の勝者が決まり、見学していた者達は、ミハイルに拍手を送る。
取り敢えず、ミハイルには逆らわないでおこう。
拍手をしながら、俺は心の中でそう決めた。
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