第12発目 10式対王国軍
「……来たな」
10式戦車の中で見つけた双眼鏡を使って、北西の方を見ていると、コルッツ王国らしき軍勢が、こちらに向かっているのが見えた。
「ミハイル、その~…声を大きくする魔法とかないか…?」
「空間魔法の一種としてあるが…用意した方がいいか?」
「頼む」
「分かった少し待っててくれ……これでいいか」
拡声器代わりになる魔法の用意をミハイルに頼むと、ミハイルはそこら辺にあったスマホぐらいの大きさがある石を手に取り、何やら詠唱し始めた。
「――よし、これで行けると思うが…」
「サンキュー」
詠唱が終わり、俺は魔方陣が浮かび上がっている石をミハイルから受け取った。
「んんっ……あー、あ~…よし」
石をマイクのように口元に持って来た俺は、軽いテストを行い正常に動くことを確認し、コルッツ王国が肉眼ではっきりと見える位置に来るまで待った。
「ここまで来たら聞こえるか」
コルッツ王国の軍勢との距離が近くなったため、俺は石マイクを口元まで持って来た。
『コルッツ王国の軍勢に告ぐ! ここは陽月国の領地だ。今すぐ撤退せよ! もしこれ以上進むのであれば…』
――ドォン!!
石マイクでコルッツ王国に警告した後、徹甲弾をワザと的外れな場所に向けて放ち、威嚇射撃を行った。
威嚇射撃のために徹甲弾を使うのは勿体ないし、今度メリューナに、空砲弾を使えるようにしてもらうか。
そんなことを考えていると、
『皆の者!! あれは奴らの精一杯の脅しだ!! 構うことなく突き進めーー!!』
ウオォォォーーーーーー!!!!
何処かで聞いた事のある声と共に、コルッツ王国の兵士達が雄叫びを上げ、こちらに向かって来た。
出来ればこのまま撤退してほしかったんだが、致し方ない…全力を持って迎撃するか…
「10式戦車、対戦榴弾弾装填! 目標、敵勢力! 連続で撃て!!」
忠告を無視されたため、俺は
〇
時間は、大翔達がコルッツ王国の進軍の報告を受けていた頃まで遡る。
コルッツ王国のオメルト・ルーメルン率いる第三騎士団は、陽月国の首都真京へと向かっていた。
「捕獲せよか…本当にできるのかねぇ~…あんなデカブツを…」
馬に跨っているオメルトは、自分が間近で遭遇したデカブツこと、10式戦車の姿を思い出しながら、鹵獲できるかどうか疑っていた。
「ルーメルン騎士団長、兵士の前である以上、そう言った発言は謹んで欲しいのですが……」
オメルトの発言に、後ろを同じように馬で移動している第三騎士団副団長、バイルズ・ゴーランドは注意する。
「阿呆、負けるという意味ではない。ブレスは吐かないが、逃げ足が早いあの地竜を捕まえるには、手がかかりそうという意味だ」
バイルズに注意され、オメルトは少し苛立ちながらも、負けることはないと発言する。
「ルーメルン騎士団長! 真京が見えて来ました!!」
「そうか…全軍に通達!! 間もなく敵の本拠地だ! 東方人に我々の力を見せつけてやろうではないか!!」
ウオォォォーーーーーー!!!!
オメルトの言葉に、兵士達は雄叫びを上げ気合を入れた。
そこに、
『コルッツ王国の軍勢に告ぐ! ここは陽月国の領地だ。今すぐ撤退せよ! もしこれ以上進むのであれば…』
――ドォン!!
大翔による警告が行われる。
「騎士団長、あれは…」
「ああ、あれが例の地竜だ…探す手間が省けたな……しかし、あの竜のブレスは大した事なさそうだな…こうなればあれは不要か? まぁよい…」
2人は10式戦車の姿を確認した後、オメルトは詠唱を行い、空間魔法『
『皆の者!! あれは奴らの精一杯の脅しだ!! 構うことなく突き進めーー!!』
ウオォォォーーーーーー!!!!
「
ハッ!!!!
――ドゴォーンッ!!!
その瞬間、我一番と前に出ていた軽装歩兵が、爆発音と共に吹き飛んだ。
「何だあの火力は!?」
「あ、あの地竜のブレスのようです!」
「ぬ~…っ! 所詮は愚民で編成された雑魚共か…!
吹き飛んだ兵士達を雑魚共と罵りながら、オメルトは全身を甲冑で覆い、特殊な魔法を刻印することで龍のブレスを防ぐことが出来る2m近くある大盾を持った重装歩兵を向かわせることにした。
「我ら! コルッツ王国が誇る
テストゥドのような陣形を組んだ重装歩兵は、後続の兵士達の盾になるように、真っ直ぐと門へと向かっていったが、
――ボンッ!!
10mmの厚さしかない盾に、10式戦車の徹甲弾を防げるわけがなく、次々と貫通して盾の後ろに居る者達の命を奪う。
そんな光景を見たオメルトは、
「そ、そんな馬鹿な!?
動揺を隠せずに居た。
「この距離であれば…! 魔術師共!! 奴を焼き尽くせ!!」
重装歩兵の盾が通用しないことが分かり、オメルトは魔法を頼りにすることにした。
「
「
「
「
魔術師達は、それぞれが得意とする属性魔法の遠距離技を、10式戦車に向けて何発も放つ。
彼らが放つ魔法は、対人戦ならば有効であっただろうが、10式戦車の装甲に通用する訳がなく、全てが虚しく弾かれてしまう。
10式戦車は魔術師からの攻撃を無視し、軍勢に向かって次々と砲弾を放ち、兵の数を減らしていく。
――キュラキュラキュラキュラ
数が次々と減っていく中、10式戦車は武士達と共に距離を詰め始めた。
「ひぃー!」
「か…か、かかか…!勝てるわけがねぇ!!」
短時間で重装歩兵達を蹴散らした10式戦車が近づいてきているのを見て、生き残った兵士達は戦意を失い敗走し始める。
「な、何をしている!! 逃げるな、戦えぇーー!!」
列を乱して逃げ始める兵士達に、オメルトは自分の恐怖を抑えつつ、戦うように命令するが、戦意を喪失している兵達が命令を聞くことは無かった。
――ドンッ!!
「うおっ!!」
10式戦車の砲弾がオメルトの近くに着弾し、それに驚いた馬が暴れ、オメルトは落馬してしまった。
「ルーメルン騎士団長!!」
落馬したオメルトの元に、バイルズは声をかけながら駆け寄った。
「……」
だが、落ちた際に頭でも打ったのか、オメルトは意識が無く、バイルズの問いかけに答えることはなかった。
「……全軍!! 仮拠点まで撤退せよ!!」
オメルトが命令を出せない状態になったため、副団長であるバイルズが代わりに指揮を執り、第三騎士団に撤退命令を出した。
戦意が無くなった兵士達は、バイルズの命令に反する所か、嬉々として受け入れ、彼らが拠点としている無月村まで脱兎の如く撤退した。
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