第11発目 実力試験

「ふぁ~…眠い……」


小鳥の囀りが聞こえてくる中、俺は欠伸をしながら目を覚ました。


「ミハエルは…まだ寝てるか……」


隣を見てミハエルが寝ていることを確認した俺は、布団から出て、昨日侍女さんに頼んで置いた朝風呂に入るため、脱衣場に向かった。





脱衣場に着いた俺は服を脱ぎ、腰にタオルを巻いた後、そのまま中にへと入った。


「は~…朝風呂っていいよなぁ~」


まだ薄暗い外の景色を眺めながら、俺が朝風呂を堪能していると、扉が開く音がした。


「…神使様、共に入浴しても宜しいでしょうか…?」


「…へっ?」


扉の方を見ると長タオルを身体に巻いている春奈が居た。


「ど、どうぞ…」


戸惑いながらも、俺は許可を出した。


「失礼します」


そう言って春奈は、桶でお湯をすくい身体にかけた後、俺の隣に座り湯に浸かった。

まぁ、日本でも江戸時代は混浴の文化があったしなぁ…この国にもそう言った文化もあるのだろうか?というか、俺は高一になってもなお、怖いと駄々を捏ねていた杏奈と一緒に入っていたから、もはや慣れているけど、普通の男性ならもっと大混乱するんだろうなぁ…


「……」


じっと、春奈がこちらを見てくる。


「何か付いている…?」


「いえ、鍛えられていらっしゃるなと…」


「まぁ…やっていた仕事は体力をそこそこ使うし、暇潰しが筋トレしかなかったからな……」


春奈に聞かれたため、俺は細マッチョの理由を話した。


「なる、ほど…」


理由に納得しつつも、春奈はじっと身体を見つめてくる。

え?本当は何かついてる…?

自分の身体を見て、おかしな所がないか俺は調べ始めた。


「神使様は本当に良いお身体をしておりますね……じゅるり」


相変わらず俺の身体を見つめながら、春奈は何故か音を立てて涎を啜った。

え?涎啜ったよね?えっ?マジでなんなの!?怖い!!


「……俺はそろそろ上がるわ…」


春奈に一種の恐怖を感じた俺は、少し早いが風呂から上がることにした。


「そう…ですか…」


俺が湯船から出ると、春奈は何やら名残惜しそうな表情を浮かべていたが、俺はそのまま脱衣場へと向かい、さっさと服を着替えて、部屋に戻ることにした。





「おかえり」


俺が部屋に戻ると、既に布団は片付けられており、部屋にあるちゃぶ台では、服を着替え終えたミハエルがおにぎりを頬ばっていた。


「はい君の分」


「おっ…! ありがとう」


ミハエルは、俺に2つのおにぎりとたくあんが乗った皿を差し、俺は畳の上に座って、おにぎりを食べ始めた。


「さっき、侍女さんが来てね。8時頃に、僕達が入ってきた門に集合だってさ」


おにぎりを食べ終え、湯呑みを手に取ったミハエルから、実力テストを行うための集合場所と時間を聞いた。


「しかし、参ったよ…」


「どうしたんだい?」


「いや~、いきなり春奈さんが風呂場に入ってきたんだよ…」


「…………へぇ……」


――ピシッ


ミハエルに風呂場で起きた出来事を話すと、何処からか嫌な音が聞こえてきた。


「……もしかして、いかがわしいこととかしてた……?」


「いやいや、一国のお姫様にそんなこと出来るわけないでしょ」


少し怖い顔でミハエルは見つめてきたが、無論そんなことはしていないし、するつもりもなかったので否定する。


「…そう……早く準備して行こうか…」


「お、おう…」


ミハイルがキレているように思いつつ、飯を終わらせて集合場所に向かう準備を始めた。





ミハイルと共に指定された門の前に向かうと、そこには既に牙王と数名の武士が居た。


「おはようございます。神使様、本日はよろしくお願いします」


爽やかな笑みを浮かべながら、牙王は敬語で挨拶してくれた。


「おはようございます。ああそれと、神使とは言え俺は元一般人だから、永山か、大翔のどちらかで呼んでください」


「…やまと………」


俺の名前を聞くと、牙王は顎に片手を当て何か考えていた。


「陽月将軍…?」


「ん?ああ、なんでもない。それでは、実力試験ができる場所へとご案内いたします」


「よろしく頼むよ」


俺が呼びかけると、牙王は気が付き、俺らをとある場所へ案内し始めた。


「……陽月将軍、姫様は同行していらっしゃらないのですか?」


春奈が居ないことに気が付いたミハイルは、牙王に何処にいるか尋ねた。


「ええ…なんでもやることができたと言い、部屋に引きこもっています。一体何をやって居るのやら…」


「……なるほど……」


ミハイルからの質問に、牙王は頭を抱えながら答え、それを聞いたミハイルから何やらドス黒いオーラが出ているように俺は感じた。


「ここです」


少し歩いていると、なだらかな丘に着いた。

丘の所々には、的として案山子が用意されていた。


「それじゃあ…早速! 10式戦車召喚!!」


俺が左手を前の方に向けながらそう呟くと、魔方陣が浮かび上がり、そこから10式戦車が現れた。


「ほう、これが…」


呼び出した10式戦車を見て、牙王は興味深そうに見ていた。


「…それでは皆さん、10式戦車の性能、とくとご覧あれ……10式戦車前進!」


10式戦車に乗った俺は、牙王達にそう言い残し、前進させて距離を取った。

数百m程牙王達と距離を置いた後、俺は的の案山子を見つめる。


「主砲! 対戦榴弾装填! 目標前方案山子、てぇーっ!」


――ドォン!!


しっかりと目標を捉えた10式戦車から榴弾が放たれ、案山子に命中、土煙が晴れるとそこに的となった案山子は無くなっていた。


「続けて、スラローム走行開始! 主砲連続で撃てぇっ!!」


10式戦車は蛇行運転を開始し、連続で案山子を消し飛ばして行く。

そして10式戦車は、あっと言う間に案山子を全て吹き飛ばした。


「………以上が、俺の10式戦車の性能です」


「ははっ、私の想定以上だったよ…」


案山子が居なくなったため、俺は牙王達の元へと戻り、10式戦車を見た感想を聞いた。


「どうでしょうか? これで俺は役に立ちますか?」


「私共としても、これほどまでの力を持った方が、仲間になっていただけるとは、有難い限りですよ」


「それは良かった」


俺と牙王が話し合っていると、


「将軍様~~~!!!」


一人の武士が慌てた様子でこちらに走って来た。


「どうした?」


「は、はいっ! 先程偵察隊から連絡があり、コルッツ王国の軍が北西と、南西から迫っているとのことです!」


「…そうか、来たか……」


息切れを起こしている武士から、コルッツ王国が迫っていると聞いた牙王は、北西方面を見つめた。


「…陽月将軍、加勢しましょう」


軍が迫っているということで、俺は牙王に加勢することを伝えた。


「有難い…では、このままここを守ってほしい。私は南西方面に出向き、直接指揮を執ります」


「了解した。ここは任せて向かってくれ」


「頼みます…婆や」


それぞれ分担箇所が決まると、牙王は誰かを読んだ。


「はいはい、ここに居ますよ…」


すると、俺達を陽月将軍の元に案内した老婆が、何処からともなく姿を現した。


「行きますよ…転移ワープ…」


そして老婆は、牙王の手を取り、そのまま消えて行った。


「さ~て、俺達は俺達で、敵に備えるとするか!」


ハッ!!!!


牙王が南西へと向かった後、俺は他の者達と共に、敵に備えることにした。

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戦車で行く、異世界奇譚 焼飯学生 @yakimesigakusei

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