第10発目 神使参戦

「ぶふっ!」


俺の発言に、ミハイルが思いっきり味噌汁を吹き出した。


「……理由を聞いてみてもいいですか…?」


「ああ……」


牙王から理由を聞かれ、俺はメリューナに頼まれた時盛討伐と、そのために陽月国側として参加し、桜ノ宮を奪還の手助けをする必要があることを話した。


「……なるほど、メリューナ様からの頼み…か」


理由を聞いた牙王は、腕を組んで何かを考えていた。


「それと…メリューナはコルッツ王国をよく思っていないようで…俺が陽月国側で参戦しても、恐らくそこまで非難されることは無いかと…」


何かを考えている牙王に、俺は追加の情報としてメリューナに対するコルッツ王国の印象も話した。


「……神使様が参戦してくれるとは願ってもないことです。ですが、現在我々はとある作戦を進めている最中でして、一度神使様の実力を見たいのですが…宜しいでしょうか?」


追加情報を聞いた牙王は、俺の実力を確認したいと頼んできた。

まぁ、俺の実力が分からない中、国の存亡がかかった作戦に参加させる訳には行かないからな…


「勿論いいですよ」


実力を確認した訳を理解した俺は許可を出した。


「ありがとうございます。では明日の朝、食事を終えてから行うことにいたしましょう」


「了解です」


明日の時間を牙王から聞き、俺は席から立ち上がった。


「それじゃあ、俺は一足先に部屋に戻ります。失礼します」


「ゆっくりとお身体を休めてください」


牙王達に一礼した後、俺は食事会場を後にし、月明かりが照らす中、部屋へと戻っていった。

俺が部屋に戻ると、部屋には明るさを確保するための火が灯ったロウソクと、2人分の布団が敷かれてあった。

昔、家族と行った旅館を思い出すな~…

思い出を懐かしみながら、特にやることもないので、布団の中に入りさっさと寝ることにした。





「すぅ~…すぅ~…」


「………もう寝ているのか…」


寝息を立てて大翔が寝ている中、食事を終えたミハイルが部屋に入ってくる。


「……よし、しっかり寝ているな…」


大翔が熟睡して居るのを確認したミハイルは、自分の荷物が置かれている所に向かい、今着ている服を脱ぎ始める。

ミハイルが服を脱いでいくにつれ、純白の肌がロウソクの火に照らされる。

そして、ミハイルが上の服を脱ぐと、サラシが胸に巻かれてあった。

そうミハイルは、男ではなく女なのである。


「……」


服を脱ぎ、用意されていた袴に着替えたミハイルは、大翔の元に歩み寄り、その場で正座をした。


「……僕のこの気持ちは、抑えないと…でも……」


寝ている大翔の顔を見ながら、ミハイルは片手を胸に当てて一人葛藤する。

何を隠そうミハイルは、大翔に恋心を抱いているのだ。


「……なんとかして、この旅の間に距離を詰めないと…」


葛藤しながらも、ミハイルは出来るだけ親密になろうと決心する。


「さて、大翔くんの寝顔も堪能できたし…私もお風呂に入らせてもらおう…!」


恋心を抱いている相手の寝顔を堪能したミハイルは、風呂場へと向かって行った。





時間は大翔達が陽月国の首都に入る目前まで遡る。

コルッツ王国の首都コルツの中央にあるコルッツ王城の会議室にて、緊急会議が開かれていた。


「では軍部大臣…報告を聞こう…」


少しめんどくさそうに、豪華絢爛な席に座っているコルッツの王、シャルブラム・コルッツは、軍部大臣のメフィスト・ルアレリンの報告を聞くことにした。


「はっ。数刻前、陽月国の無月村という廃れた場所を占領した、第三騎士団の団長から報告があり、謎の地竜使いと遭遇したとのことです。咄嗟に撮影した物のため、写真は乱れていますが、これが地竜の姿です」


そう言ってメフィストは、一つの水晶玉を机の上に出し、全員が見えるように写真を映し出した。

写真には、ぶれて見ずらいものの、火の壁を突破して疾走する10式戦車の姿が写っていた。


「地竜にしては奇妙な姿をしているな……」


「まるで、馬が居ない馬車だ…」


「これは…砲か?」


写真を見た者達は、次々と10式戦車を見た感想を述べ始めた。


「と、まぁ…今回皆様方をお呼びしたのは、戦後、これをどうするかという相談です」


メフィストは、陽月国に勝ち、10式戦車を鹵獲できる前提で話す。


「私ならば、他国と交渉し、国家予算規模の金を用意させることはできるでしょうな…」


外務大臣アルベス・ニューラスは髭を触りながら、外国への売却を提案する。


「いやいや、こいつの生態や作り方を研究し、神聖皇国のような龍騎軍団を結成させるべきだろう」


アベルスの提案に、貴族代表のフォボス・ルスロールは、10式戦車の解析を提案した。


「……皆様、お待ちいただきたい」


勝てる前提、鹵獲できる前提で話を進めている者達に、国民代表のバレル・ガルニエが待ったをかけた。


「何だねバレル?」


待ったをかけたバレルに、シャルブラムは少し苛立ちながら、要件を尋ねた。


「私としては、今回の話は性急に過ぎると思うのですが…?」


「何故そう思うのかね?」


バレルの性急に過ぎるという言葉にメフィストが反応する。


「今回のこれは全くの未知数です。ここは一度、軍を止め調査すべきだと思います…それに、陽月国の兵の消耗は殆どありません。私としては少々不気味に感じます…」


「ふ、ふふっ…フハハハハハ!!」


ハーッハハハハハハハ!!!


バレルの発言に、会議室はおっさん共の笑い声に包まれた。


「劣等種族の東洋人如きに、我々が負けるわけがなかろう!」


「その通りだ! 奴らは尻尾を巻いて逃げ出しているだけだ!」


「これだから、国民代表は…」


次々と上がってくる馬鹿にする言葉に、バレルはただ拳を握り、怒りに震える。

国民代表。数十年前、国民の不満が爆発しそうになっていた時に、当時の王がその不満を解除するため、一般市民の中から選ばれた者に与えた役職である。だが、時が経つにつれ、その権力は失われ続け、今では馬鹿にされるだけの役職になってしまっている。


「静まれぇい!!」


笑いが絶えない中、会議をさっさと終わらせたいシャルブラムは、怒鳴りつけて黙らせた。


「兎も角だ…この地竜は捕獲する……その方向で良いな?」


異議なし!!


シャルブラムの言葉に、バレルを除く者達は声を揃えて、異議なしと叫んだ。


「では、余は少々眠る…」


お疲れ様であります!!!!


方針が決まったことで、シャルブラムは席を立ち、そのまま寝室へと戻って行った。





「はぁ~~~…」


屋敷に戻ったバレルは、執務室で深い溜息を吐いた。


「彼奴らは、国民を何だと思っているのだ…この度の戦争も、自分達の私腹を豊かにするためだろ……王も王だ。眠いのなんだの言っているが、毎晩若い女性を招きいていることぐらい知っているのだぞ…」


書類の山が積まれている机に、バレルはうつ伏せながら、愚痴を零す。


「上からは馬鹿にされ、市民からは生活の改善はまだかまだかと矢の催促……もう辞めたい…」


中間管理職に似た立場のバレルは、国民代表を辞めたくなってきていた。


「アイツと酒飲みに行きたいが…あいつもあいつで遠征中だしな~…クソ、愚痴相手が欲しい…!」


飲み相手である親友の騎士が、戦争で居ないため、バレルは更に愚痴を零した。


「今日はもうヤケ酒だ!!」


ストレスで、我慢できなくなったバレルは、1人でヤケ酒にすることにした。

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