第9発目 陽月国の将軍
「お久しぶりです。陽月将軍…」
そう言って、ミハイルはその場で頭を下げた。
「数年前の統一祭以来かな? こんな状況のため、国を挙げて歓迎が出来なくて申し訳ない」
「いえ、陽月国の状況は把握しています。事前に連絡もせず、来てしまったこちらに非があります」
「いや構わないよ…ささっ、どうぞ上がって」
「失礼します」
牙王に上がるように言われ、俺はミハイルの後を追いながら、靴の脱ぎ、牙王が居る畳の部屋と入った。
畳の部屋には、牙王の正面の左右それぞれに座布団が一枚づつ用意されていたので、ここに座れと言うことだろう。
「失礼する」
「失礼します…」
俺とミハイルはそれぞれ用意された座布団の上に正座で座った。
「本当ならば、茶菓子などでも出したいのだが…国民が苦しい中、私達だけが裕福な暮らしをする訳には行かなくてね…今陽月御殿には、最低限の食糧しかないのだ。申し訳ない」
「大丈夫ですよ。ミハイルが言った通り、こんな中お邪魔した我々に非があるので…!」
「ふふっ、神使の貴方様にそう言われるだけで、気が楽になります」
頭を下げて謝る牙王に、俺は大丈夫だと声をかける。
というか、この感じだと神使って、王より偉いのか…?歴代の神使も困っただろうなぁ…
俺がそんなことを思っていると、牙王は口を開いた。
「して、本日はどういったご用件で…?」
「今、私は神使である永山殿を祖国に案内する旅を行っているのですが…如何せん食料が足りてないのです…失礼ということは重々承知しておりますが…少しばかり食料を買い取らせてはくれないでしょうか…?」
「ふむ……」
ミハイルの頼みに、牙王は手を顎に当て難しそうな表情を浮かべた。
「……申し訳ないが、神使の方々の頼みとしてはそれは出来ない…代わりとしては何だが、今夜は陽月御殿で一泊されてはどうでしょう…?」
少し間があったのち、牙王は食料を渡せない代わりとして、陽月御殿での宿泊を提案した。
「俺はそれで構わないけど…ミハイルは?」
「神使様が、それでいいというのであれば、私もそれで大丈夫です」
「では、すぐにお二人のお部屋をご用意させます。申し訳ございませんが、暫くの間ここでお待ちください」
牙王からの提案を俺達が呑むと、牙王は俺達の部屋の準備を始めてくれた。
〇
「疲れた~…」
用意された畳の部屋に案内された俺は、緊張の糸が切れて横になった。
「お疲れ、荷物は後で持ってきてくれるらしいよ」
畳に仰向けで寝転がっている俺に、侍女と話していたミハイルが部屋に入ってきた。
「そう言えば、風呂は入れるのか…? そろそろ入らないと臭い……」
「分かりました。聞いてきますね」
「ありがと~」
風呂が入りたいという俺の呟きに、ミハイルは聞いてくると言ってくれて、俺は礼を言いながら見送った。
このまま少し仮眠しよう、そう思っていた矢先…
『メリューナダヨ!メリューナカラノチャクシンダヨ!!』
スマートウォッチから着信音が鳴り響いた。
「はいもしもし……」
『いつも元気なメリューナでーす!』
電話に出ると、何処ぞの教育番組の犬のような真似をしながら、メリューナが元気よく叫んだ。
「それで? 今回の要件は…?」
メリューナのテンションを無視して、俺は要件を尋ねた。
『今回の依頼は、今コルッツ王国が不法占拠している桜ノ宮に居る初代神使和田時盛の討伐よ!』
「………は?」
思わず声が出て、俺は身体を起こした。
「おい待てどういうことだ!? 歴代の神使は九代目以外死んでいるはずだろ!?」
『私もそう思ってたんだけどね~…どうやら生きていたみたい!』
俺はスマートウォッチに顔を近づけ、メリューナに詳細を問いただす。
『いや~ねぇ…最初に初代を送った時、私も初めてだったから色々と追加しちゃってね…そのせいで、自分を超える力ではないと、死ねない身体になっちゃったみたいなのよ……で、それに気づいた彼は、自ら眠りについたんだけど…それをコルッツ王国が叩き起してしまった上に、長年眠っていた弊害で記憶障害が起きててね~…誰であろうと、飛んでくる火の粉であれば振り払うようになってしまったのよ……』
「つまり、何処ぞの女神のせいで、初代はクソ強戦闘マシンのような状態になったと…?」
メリューナから説明を受けた俺は、メリューナが元凶と表現しながら、内容を簡潔に話した。
『その通りです~…』
「……はぁ~…」
素直に自分の罪を認めたメリューナに、溜息を吐いて呆れつつ、色々と質問することにした。
「てか、俺じゃなくて歴代神使に頼めばよかったんじゃねぇの?」
『いや~…二代目が死亡した時、てっきり既に転生したんだろうと思ってて放置してたんだよね…そしたら、数十年前にコルッツ王国が桜ノ宮を不正占拠した際、時盛ちゃんが暴れたと聞き、そこでようやく生きていたことが分かったのよ…直ぐに九代目を向かわせたけど…武器相性が悪くて、叶わなかったのよ…そして、十分な火力を持っている貴方なら出来るかな~って!』
「なるほど……で、報酬は?」
メリューナから返ってきた質問の答えに納得しつつ、俺は報酬内容を尋ねた。
『ぐっ…! 私の責任もあるし…倒す…というより、成仏させくれたら、欲しい物と戦車の強化を約束しよう』
「よし」
俺はメリューナにそれなりの報酬を取り付けさせ、それから新たな質問をすることにした。
「……となると、桜ノ宮に向かうため、東方戦争に陽月国側で参戦することになるけど良いか? コルッツ王国の方は、一度衝突したし」
『うん~…あんまり好ましくは無いけど……仕方ないね。それに、私的にはコルッツ王国はあんまり好印象じゃないんだよねぇ~…彼奴ら、国民を道具としてしか見てないから余計!』
神使による戦争干渉についての質問をすると、メリューナ自身コルッツ王国にいい印象を持っていなかったようだから、渋々認めてくれた。
「それじゃあ、今後の俺の動きは、東方戦争に陽月国で参戦、コルッツ王国を一度倒した後、取り戻した桜ノ宮で初代を成仏させる…ってことでいいか?」
『そうだね…その認識でいいよ!』
「了解。それじゃあそういうことで!」
今後の動きをメリューナと確認し合った後、俺は電話を終わらせた。
「後で陽月将軍に、このこと報告しないとな~……」
そんなことを思っていると襖が開いた。
「聞いてきたよ。勿論いいってさ!その後には夕食にするとのこと」
「んじゃあ入ってくるか…ミハイルはどうする?」
「僕は…………後でゆっくりと入るよ」
少し妙な間が合ったものの、ミハイルは後に入ることにしたようだ。
「それじゃあ、俺は入ってくるわ」
「外に侍女さんが居るから、その人に連れて行ってもらい」
「おう」
そして俺はミハイルを部屋に残し、侍女に案内されて風呂場へと連れて行って貰った。
○
「…落ち着かねぇ…」
侍女に案内された浴場は、十数人で入れるような広さがあり、それを1人で入っているから、落ち着かないのだ。
なお、湯加減はバッチリである。
「………そろそろ上がるか~…」
身体が芯まで暖かくなっていることに気づいた俺は、頭の上に乗せて合ったタオルを手に取り、脱衣場に向かうことにした。
その時、
――ガチャッ
浴場と脱衣場を隔てている扉が勝手に開いた。
「え?」
「……は?」
扉が勝手に開き、俺が一瞬固まると、向こう側からバスタオルで前を隠している茶髪で長髪の女性が入ってきて、俺に気づくやいなや同じように固まる。
「っ! 変ッッッ!!」
「待って誤か――「態ッッッ!!」
――バチンッ!!
ハッと我に返った女性が、右手を上げたため、誤解を解こうとしたが、時既に遅しその時には俺は、左頬に強いビンタを食らっていた。
○
「誠に申し訳ない…」
「申し訳ない…」
食事の席にて、牙王と俺にビンタをした女性は頭を下げて、浴衣に着替えている俺に謝っていた。
「知らなかったとはいえ、うちの娘が無礼なことをした」
「ま、まぁ大丈夫ですよ! そりゃあ、家に知らない人が居たら誰でも疑いますし…!」
頭を下げたままの牙王を宥めようとする。
どうやら、俺が鉢合わせた女性は、牙王の一人娘である
「いやはや…神使様の懐の大きさには感服する限りです…質素ではありますが、せめてのお詫びとして、どうぞ我が国の料理をご賞味ください」
「それじゃあいただきます」
「いただきます」
牙王に勧められ、俺とミハイルはそれぞれの膳の上に乗っている焼き鮭とご飯と味噌汁に手をつけ始める。
「…うっま!」
鮭を1口食べた俺は、思わず声を出した。
焼き鮭は焼き加減と塩加減が程よく、とても美味い。
凄いご飯が進む。
「ははっ、お口にあって何より」
俺の食べっぷりを見た牙王は、嬉しそうに微笑む。
味噌汁も味噌汁で出汁が効いていて、とても美味しかったため、俺はあっという間に食べ終わってしまった。
「ご馳走様でした…!」
両手を合わせて料理に対して感謝する。
「いや~美味しかったです」
「そうか。料理人にもそう伝えておくよ」
感想を述べると、牙王は笑みを浮かべながら、料理人に伝えておいてくれるよ約束してくれた。
そろそろだな……
話を切り出す頃合だと思った俺は、メリューナと相談したことを牙王に話すことにした。
「陽月将軍…1つ頼みがあります…」
「何でしょう…?」
「……この度起きている東方戦争…陽月国側として、我々を参戦させてはくれないか?」
真っ直ぐと牙王を見つめながら、俺は東方戦争への参戦要請を申し出た。
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