第7発目 新たなる国に向けて

龍と戦闘した翌日、村の出入口にて、俺は10式戦車をそこに止め、ミハイルを待っていた。


「知らずとはいえ、神使様を殺ろうとした罪は重い…大翔くんは許してくれているが、このままでは神騎軍団のメンツが丸潰れだ。せめての償いとして、この村の復興を手伝い、駐屯兵が来るまで守り抜けいいな?」


「「「「「はっ!!!」」」」」


「では、行ってくる…」


「「「「「行ってらっしゃいませ!!!」」」」」


ミハイルは今いる部下達に、しっかりと釘を刺したのち、見送られながらこちらに向かってくる。


「大翔くん、こちらの準備は万端だ」


「おし、それじゃあ乗ってくれ」


「えっ…」


「え?」


10式戦車の上に乗っていた俺は、ハッチを空けミハイルに乗るように伝えると、ミハイルは目を点にして驚いていた。

え?なんで…?


「い、幾ら何でも…僕のような一般人が、神使が使用している神器に乗るわけには……」


「良いから乗れって」


何故かミハイルは、10式戦車に乗ろうとしない。


「だ、だが…」


「乗った方が早いし、俺が良いって言ってんだよ!乗らなかったら、置いて行くぞ!」


「………分かった……」


俺の圧に負けて、ミハイルはようやく10式戦車に乗ってくれることになった。


「あ~、中はあんまりいじらないでくれたら有難いんだが…」


「も、勿論だ!」


10式戦車の上に上げたミハイルに注意事項だけを伝え、車内の砲手席に座って貰った。


「さてと、この国の首都は方角的にどっちだ?」


「そのことなんだが…ここから首都へとなると、相当な距離がある…村から少しばかり食料を貰って来たが…あの量では心もとない…そこで、ここから南東方面にある、コルッツ王国か、陽月国ようげつこくのどちらかで、食料などを買うべきだと思うのだが…」


首都の位置を聞いて見ると、ミハイルはこの国の首都ではなく、近くの国向かうことを提案して来た。

コルッツ王国と陽月国か…コルッツ王国に関しては、異世界という感じがするが…個人的に気になるのは陽月国方だ…名前からして明らか和風の国っぽいが…ここは、移動中にミハイルに詳細を聞くか…

取り敢えず動くことにし、詳細は出発してから聞くことにした。


「なら、取り敢えず南に向かうことにしようか…10式戦車、出発!」


向かう方角を伝えた後、10式戦車を進ませ村を後にした。

なお、ミハイルの部下達は、村が見なくなる直前まで、一列に並んで、この世界特有の敬礼し続けていた。





村を後にしてから数時間後、俺らは森の中にある分かれ道の前で停まっていた。

その分かれ道の先は、右に行けばコルッツ王国に、左に行けば陽月国にそれぞれ通ずる道だった。


「…取り敢えず、二つの国ついて、詳細な情報が欲しんだけど…」


ハッチから上半身だけだし、どちらに向かうか迷っていた俺は、ミハイルに2つの国の情報を聞くことにした。


「そうだな…一番最初に言えることは、両国同士で戦争が起きているってことか…」


「戦争?」


ミハイルの言葉に戦争が入っていたため、俺は首を傾げながら尋ねる。


「あぁ…東方戦争と呼ばれている戦争で、現在はコルッツ王国が優勢と言われている」


「なるほどな…それぞれの現状は分かって居るのか…?」


「まず、劣勢の陽月国は、一部土地を取られている上に、食料などは軍に回されているだろうから、物資が手に入らない可能性が高い。一方のコルッツ王国は、戦況は優勢なので繁盛していると思うが…何せあの国は、圧政が酷い…国民や観光客から徹底的に金を搾り取り、王族や貴族は私腹を肥やしている…正直なところ、一般兵や一般国民の士気や戦争への協力度は、陽月国の方が圧倒的に上と言った所だろう…」


「…つまり、陽月国は戦争で物資の流通が乏しくない可能性はあるが、余計な金を取られるコルッツ王国よりかはマシな可能性があると…」


「そう言うことだ…」


「ん~…」


2つの国の現状を聞き、俺は余計頭を悩ませる。

物資面で見れば、コルッツ王国だが…絶対王政というのがいけ好かないし、日本人としては陽月国の方が気になる…ここは、陽月国方面に行くか…


「左へ、陽月国方面を目指す!」


陽月国に向かうことにした俺は、10式戦車を左の道を行くように指示を出し、10式戦車は左の道に向けて超信地旋回を行い、そのまま道に反って進み始める。


「……大翔くん…陽月国に向かうのは構わないが、君は神使ということをどうか忘れないで欲しい…」


「なんで…?」


唐突にミハイルから神使について忠告され、俺は不思議に思う。


「神使の方々は、我々以上のお力や神器をもって現れる。それ故に、神使の動きによっては、最悪の場合戦争が起きる可能性が十分にありうる…神使本人ではなかったが、三代目が残した神使の遺物アーティファクトの所有権を求め、戦争1歩手前まで迫ったことがあった…まぁ簡単に言えば、それだけ神使の影響は強いっていう話さ」


「なるほどね~………めんどくせぇ」


ミハイルからこの世界の人々にとって、神使がどう言うものか教えられた後、俺は納得しつつも、小声で少し本音を漏らしてしまった。


「え?何か言った?」


「ナンデモナイデス…」


俺が少しだけ漏らした本音にミハイルは反応するが、ギリギリ内容は聞こえていなかったようで、俺は何でもないと誤魔化す。

そんなことをしている間も、10式戦車は東部にある陽月国へと向かった。





村を出てから十数時間後、流石に1日で辿り着くことは出来なかったため、俺らは一度野宿することにした。


「火に焚べる薪はこんだけあればいいかな?」


道から少し離れた広場にて、俺は森から使えそうな薪をかき集め、それを並べ始めていた。


「さーて、火起こしは~」


「僕がやろう」


火を起こすため、良さげな木の棒と平べったい物を探そうとした時、ミハイルが前に出てきて、手のひらを積み上げた薪に向けた。


火球玉ファイヤーボール


ミハイルがそう言うと、手のひらに魔法陣が現れ、そこから野球ボールサイズの火の玉が、薪にぶつかり燃やし始める。


「……魔法って便利だな…」


俺は率直な感想を述べた。


「なら、今度教えよう…!」


「おぉ! 頼む!!」


俺の感想を聞いたミハイルから、魔法を教えようと提案があったため、俺はお願いした。

その後は、焚き火を囲いながら飯を食べ、早朝には再び動き出すために、早めに寝ることにした。





「……ふぁ~…」


欠伸をしながら、俺は上半身を起こして辺りを見渡した。


「まだ夜…か……」


辺りは少し光が差し込んでいるものの、まだ暗く時間を確認してみると、午前5時前だった。

うーん…弁当作りとかで毎朝5時に起きていたから、もう5時前に起きるのが習慣となっているな……


「ミハイルは…まだ寝ているな……」


隣を見てみると、可愛らしい寝息を立てながら寝ているミハイルが居た。


「…朝ご飯でも作っておこうか……」


暇なため、俺は10式戦車のラックに積んである袋から、村から貰ったパンと燻製肉、レタス、トマトを取り出し、貰ってきたナイフでそれぞれをカットする。

バターとマヨネーズ、チーズがあったら、いつも俺が作るサンドイッチができるんだが…ないものは仕方ないな……

食材と調味料がないことを悔やみながら、俺は手早くサンドイッチを二人分作ることにした。


「完成。燻製肉の簡易サンドイッチ…!」


作ったサンドイッチにパッと思いついた名前を付けながら、木の板にミハイルの分を乗せ、自分の分を食べ始める。

うん。使った材料が良かったため、美味いのだが…少し物足りないなぁ…バターやチーズは多分あるとして、マヨネーズはあるのか?

マヨネーズがあることを願いながら、サンドイッチを食べていると、東から日が差してきた。


「……早いな…もう起きて朝食を用意しているとは……」


日が昇ってきて、顔に日光が直撃したせいで、ミハイルもまた起きた。


「そこに朝食があるから、食べて準備が出来たら出発するぞ」


「分かった」


皿替わりにサンドイッチを乗せている木の板をミハイルに渡した後、俺は出発できるように、後片付けなどを始めた。


「ご馳走様でした…」


丁度サンドイッチを使った物の用意をなおした辺りで、ミハイルがサンドイッチを食べ終える。


「ミハイルは、もう出れるか?」


「ああ構わないよ。乗るから少し待ってくれ」


「了解」


ミハイルに準備を出来ているかどうか聞くと、ミハイルは問題ないと答え、そのまま10式戦車の砲手席に座り、その後に俺は車長席に座った。


「よぉし、10式戦車出発!」


俺の指示を受け、止まっていた10式戦車のエンジンがかかり、そのまま前へと進み始め、陽月国へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る