第3発目 戦車出撃

光が収まり、無意識に瞑っていた目をゆっくりと開けると、そこは青々とした森を一望できる崖の上だった。


「お~、すげぇ…!」


壮大な景色に、俺は声を出して辺りを見渡した。


「…で、ここからどうすれば……」


景色を一通り堪能した俺は、今後どう動けばよいか悩んだ。

両腕を組んで一人で悩んでいると、


『メリューナダヨ! メリューナカラノチャクシンダヨ!! メリューナダヨ! メリューナカラノチャクシンダヨ!!』


何処から元もなく変な着信音が流れ始める。

音源を探してみると、いつの間にか左手首に付けられていたスマートウォッチからだった。


「これを通して指示をするということか…」


俺は通話内容をある程度察した上で、電話に出ることにした。


『電話取るの遅~い!』


電話に出ると、大声でメリューナが文句を言って来た。

一度切ってやろうかな…

っという思いを我慢して、通話を続けることにした。


「すみません…それで、これからどうすればいいんですかね?」


『今、君が向いている方が南だから、そのまま西の方に行ってくれる? そうしたら、少し舗装された道に出ると思うから、出たらまた連絡をして指示を出すからね~それじゃあ!』


「えっちょっ!」


一方的に指示を出したメリューナは、俺の質問を聞くことなく電話を切った。


「…取り敢えず、西に移動するか……左へ、90度超信地旋回」


西へ移動することになった俺は、疑いながら10式戦車に向けて指示を出した。

すると10式戦車は、俺の指示通りに、その場で車体を西に向けた。


「本当に、俺の指示通りに動くのか…よし、前へ!」


ルーちゃんが言っていた自動システムの動作が、しっかり機能することが分かり、不安が無くなった俺は、メリューナに言われた通り、西にあるという舗装された道へと向かうことにした。





「な、なんとか付いた…」


三時間かけて、少し舗装されている道に辿り着いた俺は、道端で一息つく。

こんなに時間が掛かった理由としては、普通に距離が長かったのと、途中で戦車が通れない場所があったため、10式戦車をそこに置き、歩いていてきたからだ。

まぁ、今こそ召喚を試してみる時だろう。


「そう言えば、掛け声とか聞いていなかったな……いでよ、10式戦車よ!」


――ボンッ!!


ルーちゃんから召喚方法を聞いていなかったため、取り敢えず左手を前に向けて適当な言葉を言ってみると、煙と音と共に、10式戦車が姿を現した。


「適当で案外どうにもなるな…」


そう呟きながら、召喚した10式戦車に乗り込もうとした時、


『メリューナダヨ! メリューナカラノチャクシンダヨ!!』


例の着信音がスマートウォッチから鳴り始めた。


「はい、もしもし…」


少し出るのを遅れて、文句を言われるのが嫌なため、俺はすぐに出ることにした。


『やっほ~! どうやら辿り着いたようだね~!』


「途中で10式が使えなくて、疲れましたけどね…」


スマートウォッチを通して、メリューナと会話しながら、俺は10式戦車に昇って、下半身だけを中に入れた。


『ほ~? なら、疲れている君にご褒美を上げる!』


俺が疲れていることを知ったメリューナがそう言うと、俺の目の前に、水が入ったペットボトルとコンビニの鮭とたらこ、おかかのおにぎりが出て来た。


「水っ!」


喉が渇いていた俺は、ペットボトルを手に取り、そのまま中の水を半分ほど一気飲みした。


「ぷは~っ…喉渇いていたので助かりました…」


一気飲みした俺は、メリューナに礼を述べつつ、ペットボトルの蓋をしっかりと閉めた。


『おにぎりもお腹が空いたら食べてね~』


「有難く頂きます」


メリューナから貰ったおにぎりは後で食べることにし、俺は聞くことが出来ていなかった疑問をぶつけることにした。


「それで…ここからどうすれば…?」


『そこから真っすぐ道に向かって走って、その先に村があるんだけど…少し大変なことになっていてね…助けてあげて欲しいのよ』


「分かりましたが、その間に質問に答えて貰っていいですか?」


『いいよ~』


「ちょっと待ってください…10式戦車、前進!」


また切られる前に、メリューナに質問に答えるという約束を取り付けた俺は、10式戦車を進め始めさせた後、質問することをした。


「さて、まず最初の質問…俺がすることは、この世界でパトロールということだったけど…基本的に何をすれば…?」


『そうだね~…基本的には自由気ままに旅してくれて構わないよ!その代わり、偶に私から依頼を出すから、それにだけ答えてくれたら嬉しいかな?』


「依頼?」


『そうそう!ここが怪しいことしているから調査して~とか、魔物が暴れているから退治して~とかね!勿論、依頼ということだから、クリアしてくれたら、それ相応の報酬を出すつもりだよ!例えば…魔導書とか、戦車の強化とかね!』


「戦車の…強化……」


メリューナからの依頼に応えることで、報酬として10式戦車の強化ができると聞き、俺は興味が湧いてくる。

完全無敵の10式戦車…浪漫があるなこれは!

無敵の10式戦車を作るという目標が出来たことに、内心ワクワクしながら、俺は次の質問をすることにした。


「後、もう1つ…何故神使を送るようになったんだ…?問題があれば、メリューナが直接手を下せばいいんじゃないの…?」


『あ~…それを聞くか~~……』


移動中に思った疑問をメリューナにぶつけると、メリューナは面倒くさそうに声を出した。


『え~っとね…私達神々の間に、基本的に人間への過干渉は禁止という条約があるのよ。だから、神々は信託とか別世界から許可を貰って、強くなった転生者を送ったりして、世界を維持しているのよ。私は元々信託を送って、災害から助けてあげていたのだけど…私を敵視した人達が居てね~…神殺しの兵器を開発して、宣戦布告したのよ…もしそれで私がやられた時、他の神がこの世界を消し去ってしまう…だから、私直々にその国を叩くことにしたのよ…まぁ、その兵器で私を殺すことは出来ないとあとから分かったけど……だけど、また同じ心を持った連中が現れるのは十分にある…だから、その対策として、転生者を神使として送り、パトロールしてもらうことにしたのよ。大切に育てた子達が、一部の暴走のせいでまとめて消し去られるのは気分は良くないからね』


「……神も神で大変なんだな…」


『そうなのよ~!それ危険だって言っても聞かないし~、神使も一癖二癖ある人が多いし~』


メリューナから直接手を出さない理由を聞いた俺が労ると、メリューナは愚痴を零し始めた。


「…ならさ、現地の人にチート能力与えればいいんじゃないのか…?」


愚痴を述べているメリューナに、俺は1つの提案をすることにした。


『それは大昔にやったのよ…でも、そうなると私自身の力がごっそり削がれちゃってね~…完全回復に1000年くらいかかったのよ』


大昔に俺と同じ考えでやった結果、メリューナの身に起きたことを聞き、疑問が浮かんだ。


「えっ、じゃあ転生者はどうなるんだ?それだとメリューナが弱りきっていることになるけど…」


『それは大丈夫。転生者は別世界に行く時、それはもう莫大なエネルギーをその魂に宿すのよ…それで、基本的に能力や武器に変換するのよ』


「じゃあ、俺の10式もそのエネルギーを元に作ったのか…?」


『そそ!それに、そのエネルギーが必要分より多かった場合、強化や進化を手助けするエネルギーになったり、魔力量などに還元したりできるのよ』


「なるほど…」


メリューナの説明を受け、一応納得する。

世界を渡る時に膨大なエネルギーを纏う…ねぇ~…うーん、よく分からんな…天才なら理解することができるんだろうか?


「まぁつまり、メリューナは基本的に手は出せないから、コスパがいい転生者に、チート能力や武器を与えて、代わりに世界を滅ぼしかねない種を叩いてもらう…ということか?」


『そのとおーり!』


今までの説明を元に俺は簡潔に纏めてみると、メリューナはあっていると伝えてくれた。


『そして今、向かっていく先にある村を、魔物から守って欲しいの! 一応強い子が派遣されているけど…何せ数が多くてね~…念には念をと言うとこで、共に戦って欲しいのよ。報酬は、砲弾の種類追加と戦車の強化でどうかしら?』


「…よし乗った!」


砲弾の種類追加と戦車の強化を報酬として出され、俺は魔物討伐を即決で受注した。


『それじゃあ、到着には多分もう暫くかかるから、その間に腹拵えだけしといてね~! 近くなったらまた連絡するから! じゃあねぇー!』


メリューナとの通話が切れ、俺は背を伸ばした。


「…それじゃあ、10式の初戦闘に備えて、腹拵えしとくか!」


10式が道に沿って進む中、メリューナから貰ったおにぎりを食べることにした。

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