第16話 相談とお願い。
山里の料理と人生初の清酒に酔い、意識を無くした僕が気づいたのは広間に敷かれた布団の中。
その横には付き添う様に松子さんが深刻な顔をして、目覚めた僕の顔を覗き込む。
「実はあの日、チェリーさんとの交わりで私は身篭って居ませんでした」
子作り受胎を希望した依頼女性の後は、規則で僕達エージェントへ受胎不受胎の結果を知らせれなく、再申請では身体の相性から別の男性エージェントが派遣される。
「それは残念でした」
そんな
「もう一度受胎行為をお願いできませんか?」
勿論それは規則上の違反行為で僕も含めて松子さんも処分の対象に成るだろう。
「職務上それは無理です」
僕は規則に従う公務員らしい返答しか出来ない。
「では職務から離れて、
優しく穏やかな知的美人の松子さんは容姿共に僕に取って理想の女性に合致する、勿論タイプじゃないわけが無いが、ここで僕には一つ大きな問題が有って。
「あの、恥ずかしながら僕は恋愛経験が無く、どの様に女性と接すれば良いのか解らなくて」
これは偽らざる本音であり、怖気づいたと言われても今の僕には否定できない。
「え、公務で種付け交尾するのに恋愛未経験なんて、全然構いませんよ、私をチェリーさんの好きにしてください」
温泉の効能からか古傷の痛みも無く、精がつく料理と飲酒で火照った体が興奮で更に熱くなり、松子さんの言葉で僕の相棒は臨戦態勢に変化した。
「これからは初めての精神状態ですから、松子さんがどう成っても知りませんよ」
「分かりました、それでは恋人の様なキスからお願いします」
恋愛経験が無い僕には、これがファーストキスに成る。
そんな松子さんのお願いで更に全身の血流が下半身に集中して、脳に血流が回らないように意識が薄れて、本能に任せた野生動物の激しい交尾で松子さんの身体を何度も何度も貪った。
高校時代の柔道部で相手を変えて何度でも戦う乱取りで、酸欠から意識が遠くなる感覚が蘇る。全身から汗が溢れ出て両手両足に力が入らなく最後は畳の上で大の字に成ったあの頃、同じように動けなく畳に寝転がる同期が、
「どうせなら男より女子と乱取りしたいな」
疲労困憊の状態で言う冗談に笑えない僕は、
「お前の事だから寝技限定だろ、寝技で一本勝ちって女子には一本無いけどな」
冗談で反す僕に同期は、
「
と笑いあった日も懐かしい・・・
受胎希望の松子さんには避妊などしなくて、AV的な表現なら『生中だし』の生殖行為に時間を忘れて日付が変わる頃まで継続した。
数えてないが八回か九回めの発射に精魂疲れた僕に松子さんは、
「もしもこれで身篭らないなら,いっその事チェリーさんがこの家に留まって頂けませんか?」
そう言われて直ぐには理解出来ない松子さんの申し出に、少しだけ頭の血流を廻らせて、
「それはどういう意味ですか?」
僕の質問に松子さんは、
「言葉通りに意味です、この家で私と
「え、こんな職務の僕で良いのですか?」
それは謙遜ではなく、どんな相手でも断らず受胎行為を大義名分の名の下に職務とする背徳感と、自己嫌悪に
そんな気持ちを汲み取ったのか松子さんは、
「そりゃぁチェリーさんの職務を気にするなって言うのは難しいですけど過去は過去、これから先の未来は未来です」
過去は問わない松子さんは退職して佐倉の家族に成っての意味で、独身女性対象の妊活支援が人口さえ増やせば良いと人妻や未成年に許可するやり方に不満が有る僕はいつかこの職務を離れたいと願っていた。
「仕事を辞めるにも段取りと引継ぎの時間が必要で今は返事できませんが、前向きに検討させてください」
政治家が使う胡散臭い表現だが、これは僕から精一杯の返事で今の時点では松子さんの求婚を受ける方向しかない。
「それではごゆっくりお休み下さい」
畳の広間に敷かれた布団の中で僕の瞼が静かに閉じると同時に、静かな夢の中に落ちてきた。
季節は七月なのに山里の夜は冷えてくるのか布団の温もりが心地良く、其処に少しだけ冷たい気配が僕を呼び起こすように、
「チェリーさん、チェリーさん、少しだけ好いですか?」
寝惚け眼の僕は松子さんが何かを思い出してきたのかと思い、
「どうぞ」
と僕が寝ている掛け布団を持ち上げた。
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